17-4 単独挑戦
隣の狂戦士が暴走機関車するよりも先に、作戦を練って最良の指示を下さないといけないのだが……。
(分が悪いから一緒に戦おうとは、口が裂けても言えそうにない)
今にも吶喊しそうなほどモチベが上がりまくっている彼女が、そんな後ろ向きな作戦を耳にしようものなら、即座に木陰から飛び出し無策のまま斬り込むに決まっている。
莉緒のご機嫌取りのために告げた約束とはいえ、それを破るようなこともしたくはないが、第一に優先されるべきものは彼女の生命だ。
それらの矛盾を一緒くたに解決できる術はないものか。
約束を反故せずに彼女ひとりだけでサイクロプスを撃破する方法。
天啓にも似た閃きが脳裏を駆け巡る。
(あーそっか、なんだ簡単なことじゃないか……)
作戦と呼ぶことすら甚だ疑わしいレベルの子供じみたものだが、現状において最も効果的だと思える最善策。
早速取りかかるとしよう――。
莉緒に作戦を伝えるべく話しかけてみるが、一向に気づく様子がない。完全にサイクロプスに意識が向いてしまっている。
樹木から樹木へと屈みながら移動し彼女のもとへ向かう。
肩が擦れる距離まで近づいたところで、彼女の目の前で手を振って俺が来たことを伝える。
「……あ、あんた!? むぐ……むぐぐぐ……むぬぬ……」
そのジェスチャーに気づき意識をこっちに向けてくれたまでは良かったが、俺の顔を見るや否や彼女は、驚くほどの声量と音圧で小言を口にする。
さすがにここで騒ぎを起こすのはいただけない。ということで、物理的にその発生源を停止させておいた。
「はい、ドードー。静かにな、騒がないように。サイクロプスに気づかれたら、今までの行動が全部台無しだぞ? お前もそれは嫌だろ?」
「むむっ……!?」
「つうことで、今から手を放すけど騒がないようにな」
「むうあい!!」
莉緒が了承し大人しくなったのを確認してから、俺はゆっくりと口元から手を放す。
わざとらしく呼吸をする彼女を一旦放置し、俺は木陰から顔を出してサイクロプスの様子を窺う。
「変化は……なし、か。聴こえてなくて何よりだ」
サイクロプスは依然変わらず、正面を見据えたまま微動だにしていない。
視覚以外の五感が鋭くなっているため、もしかしたらと思ったが要らぬ心配だった。
安堵したのも束の間、いきなり莉緒が俺の肩を掴むと激しく揺さぶり訊ねてきた。
「――で、その確認ってのは済んだの? あたしもう戦っていいの? 声をかけてきたってことはもういいってことよね? ね、そうでしょ凪?」
「まずその揺さぶるのを止めろ……話はそれからだ」
「えっ……ああごめん、ごめん。で、殺っていいのよね?」
いつもの莉緒に戻ったと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。
先ほどからどうも言動がチグハグ、明らかに様子がおかしい。
ここで迂闊にGOサインでも出そうものなら、猪武者ばりの勢いで突撃するに決まっている。
そうならないように、再三の注意を払いながら言葉にしなければならない。
作戦自体は至ってシンプルなものなのに、それを彼女に伝えるのがこれほど高難易度になるとは思いもしなかった。
「あーえー、今から巨人の倒し方についてレクチャーするから、それをちゃんと聞いて理解してからなら、戦いに行っていいぞ」
「は~い、分かりました先生。で、その倒し方ってのは?」
「誰が先生だ……ったく、ほんと現金なやつだな。じゃ、今から説明するぞ――」
サイクロプスの倒し方を身振り手振りを交えて彼女に伝える。
説明する前はどう伝えるべきか頭を悩ませていたが、見た目に反して莉緒の理性は、そこまでぶっ飛んではいかなったようだ。
その証拠に、彼女は聞いた内容を声に出して理解を深めている。
あまりにも簡単すぎるということもあってか、完全に策を理解した上であえて聞き返してくる。
「――ほんとに、それだけでいいのね?」
「本当にそれだけで終わる。ということで、はいこれ」
「あー……ありがと。じゃ、行ってくるわね……」
「はいよ、行ってら~」
新たな武器を手に彼女は木陰から飛び出していった。
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