17-2 巨人相対
ダンジョンに到着しゲートを抜けて49階層に降り立つ。
49階層は鬱蒼とした木々が生い茂る樹海。こういう迷いやすい場所は、遭難防止として木に刃物で切り傷をつけたり枝に布を巻きつけたりなどして、自分が通った場所が一目で分かるように印を残すのが通例。だが、これはあくまで外界での話である。
ダンジョンの仕様上、基本的にゲートは対極の位置にある。
極論をいえば、何も考えずただ真っすぐ進むだけでゲートに辿り着けてしまうのだが、実際にそれを実行できる逸材はほとんどいない。
特に洞窟や樹海といった方向感覚が狂ってしまうような場所ではなおさらだろう。
草原など見晴らしいい探索しやすい環境が理想的だが、それでも今回まだ分類としては恵まれたほうに入る。
なぜならこの環境下では、一部のオブジェクトに関して破壊可能となっている。
その結果、なにがどうなるのかというと――。
莉緒は破竹の勢いで魔物を屠りボスめがけて一直線に突き進んでいる。
邪魔するものは魔物だろうが、樹木だろうがお構いなしに切り伏せていく。
彼女の手により伐採された木々と転がる魔物を横目に、俺は彼女から離れないように足を動かす。
この階層に出現する魔物はレッドキャップ。赤い帽子を被っているからという安直な理由で命名されたゴブリンの上位種だ。
上位種ということだけあって、ゴブリンに比べて身体能力が向上している。
特に警戒すべきことは、人間のように作戦を練って襲ってくることだ。厄介なことに心身ともに消耗させるゲリラ戦を一番得意としている。
闇夜を利用して奇襲をかけてきたかと思えば、次には1時間おきに雄たけびを上げたり矢を射ってきたりと、一時の休憩する間も与えないように画策し行動してくる。
本来ならかなり手を焼く面倒くさい魔物だが、それは普通に時間をかけてダンジョンを攻略していたらの話である。
俺達はこの階層に足を踏み入れてから一度も休憩していない。一心不乱にゲートを目指して走り続けている。
予想だにしない侵入者の行動に焦ったレッドキャップは、無策のまま排除するため打って出る。
ゲリラ戦を仕掛けてくるからこそ脅威なだけで、ただ闇雲に襲いかかってくるだけなら、単純に数で攻め立てて来るゴブリンのほうが数段手ごわい。
つまるところ烏合の衆と化した上位種は、下位種にも劣る存在に成り下がる。
「ねえ……ねえ凪! あの先に見えるのって、もしかしてボス?」
先導する莉緒は上機嫌にそう問いかけてきた。
彼女の問いに答えるべく遠方に視線を向けると、巨木と見間違えるほど大きな足が木々の隙間から覗かせている。
筋骨隆々な巨大な足を持ち、人間に近しい見た目をしている魔物、思い当たる節しかなかった。
(まさかよりにもよって、あの魔物とはな……)
人間を遥かに上回る巨躯をもつ巨人と呼ばれる魔物。その魔物がダンジョンに出現する場合は、階層に1体しか存在せず、必ずボスとして侵入者の前に立ちはだかる。また一度でも出現すると、それ以降はもう同ダンジョンには出現しないとされている。
ダンジョン内で出くわした場合は、必然的に敵対することになるが一歩外に出ると普通に交易していたりする。
外界の巨人は、人語を解し読み書きもできるほどの知性を有し性格も温厚。
人類と友好的な関係を築いていた数少ない魔物でもある……それが原因で、人類と魔族の争いに巻き込まれ、彼らは集落と同胞の大半を失うことになる。
そんな経緯もあってか、個人的に戦いづらい魔物ナンバーワンだったりする。
「ああ……ボスで間違いないぞ」
「やっぱし、どう考えてもボスよね! あたしあんなにデッカイ魔物と戦うの初めてかも! あ~腕が鳴るわぁ~!」
「やる気満々なのはいいけど、いきなり斬りかかるなよ? まずはやつが《《どっちなのか》》確認するのが先だ」
「……えっ、先制攻撃しちゃダメなの? それでぇ~、一体なにを確認すんのよ?」
足場は最悪だというのに、莉緒は速度を落とすことなく振り向き、声色と表情を巧みに使い不満をぶつけてくる。
諸々の技量の高さに感心しつつも、俺は相手をせずに手で払い除ける仕草をする。
意味合い的に危ないから前を向けとジェスチャーしたのが上手く伝わったようで、ここ30分弱ずっと見てきたサラサラな金色の後ろ髪が見える状態にすぐ戻っていた。
「目の数だ。双眼ならギガンテス、単眼ならサイクロプス。巨人はゴブリンやレッドキャップとは違う。見た目は似ていてもまったく別の魔物なんだよ。で、目が二つならまだマシだが、目が一つだと厄介なことになる……」
「あんたがそう言うってことは、ほんとに厄介なのね……そろそろ顔を拝めそうよ…………ふ~む、おめめ、一個だわ」
かなり近くまで来ていたようで、莉緒は言葉に詰まりながら報告する。
俺は『一個』という単語が聞こえた瞬間に、すぐさま樹木の影に隠れるように指示を出した。
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