16-3 生徒会長
そうこうしていると、目当ての部屋に辿り着いた。
他の教室とは異なり本来あるはずの窓が一つもなく、外からでは中の様子が一切見えないつくりになっている。
引き戸上部に『生徒会室』と記載された表示板がなければ、危うくスルーしていたところだ。
生徒会室は各教室がある昇降口付近ではなくて、ポツンとここだけ取り残されたかのように最奥の角部屋にあった。よくよく見ると後付けされたような表示板といい、元は準備室や用具室、もしくは用務員室といった用途の部屋を改装し、生徒会室として使用しているようにも思える。
(まあ普通に考えたら、不便な3階じゃなくて1階に部屋を設けたら済む話なので、この線はないな、ないわ。となると、やっぱ元から生徒会のために用意された部屋か……さてと、いざ行かん魔境へ)
推測を軽く否定したのち、引き戸を教室の時よりも幾分も軽やかな拳をつくりノックし、室内で待っている人物に向けて到着した旨を知らせる。
「1年E組のルーク・凪・ランカード。呼び出しに応じ、馳せ参じました」
「――開いています、お入りください」
良くいえば透き通った綺麗な声、悪くいえば感情の無い冷徹な印象を与える声が返ってきた。
声量はそれほど大きくないのに、耳にスッと入り込んでくる何とも不思議な感覚。
仰々しい感じになってしまったが、全生徒を統べる生徒会長とはこれが初対面。
第一印象だけでもポイントを稼いでおかないと、理事長同様に彼女の鶴の一声で俺の立場は天国にも地獄にもなりえる。
彼女が何も指示しなかったとしても、盲信する生徒達が俺を許すはずがない。
魔女裁判ヨロシクな感じで、処されるに決まっている。
生徒会長から入室許可を得た俺は「失礼いたします」と声をかけ引き戸を開けた。
呪文によるものなのか、俺が入室するとすぐに引き戸は自動で閉まりガチャリと施錠される。
「…………」
生徒会長は正面奥の席に佇み窓から外の眺めていた。
彼女の後姿を見た途端、俺は声も出せず一歩も動けなくなった。
俗に言う見惚れてしまったというやつだ。いまなら彼らが信仰していたわけも理解できる。
莉緒もどこに出しても恥ずかしくないほど超絶美少女ではあるが、生徒会長はその可愛いや美人といったベクトルから逸脱している。
艶やかな銀白色の長髪が日光を浴びてキラキラと輝いている。
制服の隙間からは、ほんのりと赤みを帯びた薄桜色の肌が見え隠れしている。
均等の取れた理想的な8頭身の身体、耳を通して全身に浸透する澄み渡る声色。
神々しい――この一言に尽きる。
それほどまでに生徒会長は別格の存在だといえる。
彼女が生徒会長の座に就くのは運命、なるべくしてそうなった。
それらの感情が芽生えるのと同時に、あの後姿や雰囲気に不思議と既視感を覚える。
(俺としたことが、危うくのまれるところだった……)
そのどこかで見たことがあるような感覚、それがなければ俺もまた彼らと同じように、ズブズブと生徒会長にハマっていたことだろう。
無理にでも思考を切り替えるため、後ろ髪を引かれる想いで彼女から視線を外し周囲を見回す。
事務机を6台を向かい合わせに配置した島型レイアウトが部屋の中央を占拠している。
右手側は壁に沿って端から端まで本棚が置かれ、そこにびっしりと隙間なく書類が敷き詰められている。
左手側は流し台や背の低い食器棚に、電子レンジや冷蔵庫といった電化製品までもが取り揃えられていた。
まるで執務室と給湯室が一緒くたになったような一風変わった部屋。
ひと通り内装を確認し終えたところで視線を戻す。
「……えっいない?」
視線を外してから数秒しか経っていない。
例え見失ったとしても彼女の気配を感じ取り、どこに移動したか感覚で追える。
莉緒にティソーンをすられたことを反省し、気配察知だけは磨き直した。今朝方には、全盛期とはいかずともか多少の手ごたえは感じていた。
その自負が見事に打ち砕かれた。
「ルーク・ランカード……」
背後から抱き着きながら彼女は懐かしむように俺の名を耳元で囁く。
ふわりと華やかな香りが鼻腔をくすぐり、弾力のある暖かな物質が後頭部を優しく包み込む。
(夢心地とはまさにこのこと……じゃねえ!)
俺は血が滲むぐらいに強く唇を噛みしめ、強引に意識を連れ戻す。
「消滅せし足音」
技能を発動し先ほどまで彼女がいた窓際に瞬間移動する。
魔の手から脱したと思った矢先、今度は俺の視界が暗闇に包まれる。
「ルーク・ランカード……」
また彼女の声が聞こえる。一応報告すると、前回は右耳だったが、今回は左耳からである。
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