02-2 両親再会
焦る気持ちを抑えつつポケットに手を突っ込むが、そこには何も入っていなかった。
それどころか今の今まで自分が制服を着ていることにすら気づかなった。
事故に遭う前の身体に合わせて服装も元に戻してくれたらしい。
気の利く女神様だ。
ただそこまでしてくれるのであれば、スクールバッグとかも用意して欲しかった。確か家の鍵はいつもスクールバッグの内ポケットに入れていたからだ。
肝心のそのスクールバッグを持っていない。というか、それ以前に手ぶらで何も持っていない。
私服時は基本的に鞄じゃなくてボトムスのポケットに入れていた。
今回は手ぶらだったこともあってか、その慣れ親しんだ習慣が暴発したようだ。
さて、鍵が無いのであれば内側から開けてもらうほかないのだが。
「……参った。チャイム鳴らすか。こんな時間に?」
暫く悩んだところで、俺は覚悟を決めて玄関チャイムを押した。
深夜にどこをほっつき歩いていたのかと、責められたとしても甘んじて受け入れる。
どんな言葉だろうが両親の口から出た言葉なら喜びが勝るに決まっている。
異世界での生活もただ辛いだけじゃなかったし楽しいことも沢山あった。だけど、俺がここまで頑張ってきたのは、あの頃の平々凡々な生活を取り戻すためだ。
3回ほど鳴らしたところで部屋の明かりが付いた。
それからほどなくすると玄関に近づく二つの足音が聞こえた。
ピタリと足音が止むと、ゆっくりと玄関ドアが開いていった。
その先には、あの頃と何も一つ変わらない両親の姿があった。
ただ自然と涙が溢れた――。
(ただいま……父さん、母さん)
声に出そうとしても上手く言葉に出来ずにいると、父さんは眉をひそめながらあり得ない一言を口にした。
「《《どちら様ですか》》?」
俺は言葉を失った。
父さんは冗談を言うような人じゃない。
困惑した表情にあの震えた声。
父さんの陰に隠れて顔だけ覗かせている母さんも不安そうにしている。
「……あの桜川凪です」
名前を出しても両親はピンときていない。そこからさらに貴方達の息子だと付け足しても全くもって良い反応は返ってこなかった。
それから暫くの間、両親と話し合ったが二人とも俺のことどころか、子供もいないと断言した。
「制服を着ているということは、君は学生なんだろ? 親御さんが心配するからさっさと自分の家に帰りなさい!」
最後に父さんはそう言って俺を家に迎えることもなく玄関ドアを閉めた。
「ここが俺の家なのに……家のはずなのに……いや待てよ。そう言うことか?」
両親は一報も入れずに深夜に出歩き、しかもスクールバッグまで無くした所業を戒めようとしているんじゃないか。そうじゃなければ、あの厳格な父さんがあんなふざけたことを言うはずがない。
心配をかけたことは申し訳ないとは思うけど、このやり方はさすがに陰険すぎないか。
まんまと騙されるところだった。
それにしても16歳になって閉め出しを食らうことになるとは。
でも、それでも俺のせいで要らぬ心配をさせたのもまた事実だ。
二人が起床したタイミングでスライディング土下座でもして許しを請うとしよう。
(ひとまず今後の予定はそれでいいとして……)
家に入る手段としてチャイムを連打したりノックするのは得策じゃない。
ガチャっと施錠する音に続き、二人が玄関から遠のいていく足音も聞こえた。
今日が何曜日かは分からないが、確率的に平日である可能性が高い。
両親は寝室に戻って眠りにつくはずだ、起こすようなことはしたくない。
睡眠不足な状態で両親を出勤させるわけにも行かない。と、なれば残る手はあれぐらいしかないか。
裏手に回り二階の部屋窓を見上げる。
あの部屋こそが俺が目指すべき場所。俺の夢と希望が凝縮された聖域。
カーテンは閉められておらず薄がりの中でも部屋の天井が視認できた。
(……ポスター貼ってたはずなんだが?)
ここからでは天井の一部しか確認できないが、お気に入りのポスターが剥がされていた。
俺が不在の間に母さんが掃除のついでに剥がしたのかもしれない。
母さん曰く、あちこちから見られている気がして落ち着かないらしい。
二次元だろうと三次元だろうとそれは変わらない。なので、俺の部屋以外にはそういった類の物は一つも無い。
(23年ぶりに登るとするか……)
雨どいを触り外壁を数回軽く蹴っては、幾度となく経験した感覚を呼び起こす。
両手で雨どいを掴んでよじ登ろうとした時、ちょっと試してみたいことがあるのを思い出した。
それは異世界で習得した技能がこの世界でも使えるのかというものだ。
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