16-2 上級学生
星影学園は中等部、高等部ともに3階建ての校舎であり、1階は1年生、2階は2年生、3階は3年生と学年が上がるごとに階も上がる仕組みとなっている。
学生のことを考慮してあえてそうしているらしい。上級生の教室が1階にあると、下級生は否が応でも彼らと顔を合わせなければならない。
交流を深めるなどの目的として、そっちを採用している学校もあるらしいのだが、客観的に見ても下級生から上級生に声をかける行為はなかなかに難易度が高い。たかだか1年早く生まれただけと思うかもしれないが、学生時代における1歳差は途轍もない差がある。
そこいらを天秤にかけた結果、いまの仕組みを採用したとのことだ。
生徒会室がある3階を目指して階段を駆け上がる。
階段を上がるにつれて徐々に空気が重苦しくなっていく。
3階に到着する頃には、その感じていた空気は完全に異質なものへと変化していた。
入学して3年目の御伽適応者達がいる場所、口にするだけなら何とも容易い。
構造は1階とほとんど変わらないはずなのに、初めてダンジョンに潜った時のような緊張感が全身を駆け巡る。
そのどこか懐かしい感覚を味わいながらも、授業の妨げないように気を付けながら廊下を進む。
その際、ついつい興味本位に負けてしまい、窓越しから教室を覗いてみて分かったことがある。
戦っている姿を見ずとも理解できる、彼ら一人一人がいまの莉緒では歯が立たないほど強い。彼女に神話武具を貸し与えたとしても、勝算は5割を切るだろう。
この学園には俺が思っている以上に、優秀な人材が集まっているようだ。
力比べで彼らに負ける気は毛頭ないが、昨日はその油断から莉緒に剣を奪われるという醜態をさらした。
(俺も彼らを見習って、マジで修練をやり直すべきかもしれない。だが、それよりも……)
彼らの授業を受ける姿勢や佇まいが、行く先々で出会った騎士を思い起こさせる。
規律を重んじ君主のために刃を振るう彼らは、自由を重んじ好き勝手生きる冒険者とはまた別種の生物。
総合的な実力でいえば騎士に軍配が上がるが、個々的な実力でいえば冒険者に軍配が上がる。
集団戦、特に防衛戦を得意とする騎士と個人戦、特に攻撃戦を得意とする冒険者。
この学園の教育方針をよくよく思い返してみると、個人戦ではなくて集団戦に重きを置いている。つまるところ、騎士タイプの育成に力を入れている。攻撃よりも防御優先というスタンスだ。
平均値の底上げを図ると同時に彼らの生存確率も向上させる。そうすることで、最終的に3年生のような同質のクオリティの生徒が数多く誕生する。
彼らの強者たる風格からしても、その育成法は決して間違っていない。それどころか完璧な成功例だといっても過言ではない。だからこそ、俺は違和感を覚えてしまう。
異世界において、ダンジョンに挑み完全制覇した人物は全て冒険者。どの国、どの町においても騎士が完全制覇したという報告は上がっておらず、記録も記憶としても何一つ残っていない。
あくまでこれらは、あちらで体験して得た感覚に基づいたものでしかない。なので、必ずしもその常識が正しいとは限らない。ただでさえ、この世界は二つの世界が交じり合った歪な世界なのだから。
頭では理解しているつもりなのだが、それでもどうしても疑わざるを得ない。
星影学園はダンジョンを完全攻略する気もさせる気も、最初からなかったんじゃないかと――。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。