16-1 校内放送
莉緒が黄金の双剣を手にして骸骨を相手取り一騎当千してから一週間後。
いつものように登校し朝礼が終わると、タイミングを見計らったかのように校内放送が流れた。
ピンポンパンポン――。
こっちの世界に来て初めての校内放送。
異世界で聞くことの無かった独特な音調。
「お呼び出しいたします。1年E組のルーク・凪・ランカード君。至急、生徒会室にお越しください。繰り返しご連絡いたします。1年E組のルーク・凪・ランカード君。至急、生徒会室にお越しください」
定番の効果音のあと、スピーカー越しの声を聞いた級友達からは、男女問わず歓声が沸き起こる。
騒めき喜ぶ彼らに対して、ひとりだけ名指しで呼び出された俺はそれどころではない。
「マジか? マジで? 俺なんかした……?」
規則を破らないように気を付けながら学園生活を送ってきたが、生徒会室に呼び出されたということは、彼らにとって看過できないナニカをしでかしたということ。
莉緒と交流するようになってからは、特に気を付けて行動していた。別段おかしなことはしていないはずだ。となると、それよりも以前……敷地に無断侵入したことか、それとも図書館で一泊したことか。
呼び出されてしまった以上、在学生のためどうあがいても逃げ道はない。それに考えたところで原因など分かるわけもない。
内心穏やかではないが逃げ道を封じられている以上、呼び出しに応じて生徒会室に向かうしかない。
勇気を奮って立ち上がろうとするが、教室の異様な雰囲気に気圧されてしまい、思うように身体が動かない。
「なんだよ……この感じ……!?」
級友全員が何か言いたげそうにこちらを見ている。その中には彼我結莉緒の姿もあった。
ただ彼女だけ他の級友のように野次馬的な目つきではなく、蔑むような鋭い目つきなのが少々気がかりである。だからといって、ここでその理由を本人に訊ねるのは悪手な気もする。なので、一旦何も見なかったことにした。
俺は恐る恐る一志の背中を小突き声をかける。
「のぉのぉ、一志さんよ。どうしてみんなあんなに騒いでるんだ?」
「そらそうだろ。天下の生徒会長から直々のお呼び出しとか、全生徒の憧れだぞ?」
「さも当たり前に言ってるけど、まったく意味が分からん。なんで呼び出されて嬉しいんだよ……」
よほどおかしな質問だったらしく、一志は頭をボリボリとかきながら幼児に絵本を読み聞かせるように優しい口調で語り出した。
彼以外にも委員長とかにも訊こうと思えば訊けたわけだが、熱狂具合からして女子生徒よりも男子生徒の方が、まだマシに思えたため今回は安牌の恩人である一志を選んわけだが、誰を選んだところで関係なかったかもしれない。
彼の死角となる机下で拳を握り締めながら、その言葉に耳を傾ける。
「生徒会長はあの理事長ですら一目を置く存在。成績は常に学年トップで御伽適応者としても優秀で、あの今継先生ですら歯が立たないほどの腕前の持ち主で――」
お前も同類だったのかと早々にツッコミたくなるほど、生徒会長を褒め称える言葉が彼の口から止めどなく羅列され続ける。
チラリと教室を見やると、級友どころか担任までもがウンウンと頷き賛同している。
たった一人例外を除いて、その生徒だけは頷くことなくハイライトの消えた瞳を俺に向けている。
ただ話を聞いているだけなのに、どうして身内からあんな眼差しを向けられなければならないのか。
絶妙な首の傾き加減がいい感じに恐怖を演出している。
一志や莉緒よりも、そもそもこの状況を作り出した元凶に対して憤りを覚える。
生徒会長も悪気があったわけじゃないかもしれないが、学年トップの成績だというのであれば自分が呼び出しを行えば、こうなることぐらいは理解しておいてほしい。
これが一種の八つ当たりだというのは自覚しているが、だとしても他にやりようがあったのではないかと疑ってしまう。
「――ということがあってだな、それから生徒会長のあだ名がな」
「すまん、行ってくるわ!」
「あっ……行ってら……」
語り手がヒートアップし始めたところを容赦なく遮る。
至急の呼び出しという手前あまり待たせるわけにもいかない。それ以前に1時限目が始まってからすでに数分が経過している。
授業を妨げている要因である俺がこの場から離れないと、いつになっても授業は中断されたままで再開されることはないだろう。このままだと、板書どころか教科書の1ページすらめくることもなく、1時限目が終わってしまいそうな勢いだ。
それらを一気にまとめて解決する。
そこで思いついたのが、この血も涙もない早口オタクぶった切り戦法だ。
俺もゲームの話になると、同様の行動をとってしまうので彼の気持ちが痛いほど理解できてしまうが、ここは心を鬼にして拒絶する。
というのは全て建前で、本心を語るとすればもう聞き飽きた。途中から右から左へと聞き流している、一志には悪いが語ってくれたうちの一割も覚えていない。
話し足りない彼と聞き足りない級友らの哀愁を背中越しに感じながら教室を抜け出す。
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