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15-1 骸骨蹂躙

 連なる山々に急傾斜から流れ落ちる飛泉が印象的な深き渓谷。


 見上げれば蒼天の空に点々とした白雲が漂い太陽が燦々と輝いている。見下ろせば緑豊かな大地を彩るように透き通った河川が流れている。

 ピクニック日和な晴天と涼やかな川風、最高な立地に気分も自然とあがる。

 マイナス要素があるとすれば、そこに似つかわしくない武装した骸骨が跋扈(ばっこ)していることぐらいだろうか。


 まあ本来の目的がそっち側(・・・・)なので、俺の思考のほうがこの場合だとおかしいのかもしれない。


 俺はいま莉緒を連れてダンジョンに訪れている。

 学園関係者から危険視され封印されていた30階層。


 その階層からさらに12階層も下った先、現在の最深部となる42階層を2時間ほど進んだ開けた場所にいる。そこで踊るように狩りをする彼女を少し離れた位置から観察している。


 ダンスのお相手は魔物の中でもメジャーな動く骸骨ことスケルトン。

 剣や斧などの武器と手にして野盗のように群がって襲い掛かってくる。

 骨のため移動速度は遅く耐久力も低いため、ちょっと鈍器でこつくだけで体勢を崩したり骨折させることが可能。

 一体一体では何の脅威にもならない下位の魔物なのだが、ゴブリンやオーク以上に人海戦術で攻め立ててくる。

 それでも鈍足なことには変わりないので、戦闘に夢中になって囲まれたりなど油断さえしなければ負けることはない。倒しやすい上に人型ということもあって、どちらの世界においても練習相手として大人気な魔物である。


 42階層といえど、やはりスケルトンでは力不足なようでオーガの時のように切羽詰まった感じではなく、生き生きと楽しそうに彼女は骨を砕いている。

 あの最低最悪な陰鬱鉱山いんうつこうざんという不慣れな環境、心許ない支給品の武器での逃げ道の無い戦闘。

 命を賭けた真剣勝負を一度でも行ったか否かによって、意識というものはガラリと変化する。

 あの過酷な環境に身を置いたことで、彼女は精神的にも肉体的にも他の級友に比べて数段階も成長している。その上、毎日欠かさず放課後4時間ほどダンジョンに潜り、休日となると半日近く籠って日々鍛練している。


 莉緒は気づいていないかもしれないが、その実力は学生の域を優に超えている。

 条件次第ではあるが、担任と良い勝負ができそうなほどには強くなっている。


 ただそれでも全然鍛え足りない、どんな状況下に陥ったとしても帰還できなければ何の意味もない。

 そういう意味においても、今回の理事長からの半ば強制的な提案は願ったり叶ったりのものだった。それに俺の目的を達成するためにもこれは非常に役立つ。


 先週の月曜日に校長経由で下された提案もとい辞令。

 ざっくりとその内容をまとめるとこうだ。


 引率教員の指示を無視しての単独行動と、29階層のボスを無断討伐したことを不問にする代わりに、ダンジョン攻略を行い各階層に出現する魔物や環境について報告するというものだ。

 今継先生曰く、本来は実力のある御伽適応者(フェアリーテラー)が数人で挑むような難易度らしい。なのに、なぜか今回は単独(・・)で行って来いというご命令だそうだ。


 そんな単独任務に彼女がなぜ同行しているのかというと、担任に一緒に行ってもいいかと質問し秒で『いいよ』と許可を得たからである。

 彼女に追随して一志とか級友の数名らも手を挙げていたが、もれなく全員不許可だった。

 あとでその理由をこっそりと訊ねてみると、莉緒のみ許可してもいいと理事長から御達しがあったと教えてもらった。


 その答えに疑念を持った。


 件の事件の関係者であれば三バカも含まれるはずだし、広い範囲で見れば1年E組全員が該当してもおかしくない。にもかかわらず莉緒のみ同行を許した。


 ただの偶然、思い過ごしかもしれないが、理事長は俺と彼女の関係性に気づいている? それ以前に俺の素性を知っている? 理事長はあの女神と通じている?


 そのことを理事長に問い詰めようと、学園内を探し回っても捕まらないどころか発見すらできなかった。生徒どころか教師すらも一度も顔を拝んだことがない、ただ一人校長を除いて。生徒の間では、理事長を見つけたら幸運が訪れるとかいうツチノコのような存在と化している。


 そんな未確認生命体(U M A)を捕獲しようというのが、そもそも無理ゲーに近い。

 どちらにせよ、ダンジョンクリアが第一目標なことには変わりない。攻略が進めていけばそのうち理事長(むこう)から接触してくることを期待して、いまできることを実直にやっていくほかない。

 逆転の発想とまではいかないが、そう心に留めて気づけば早一週間が経っていた。


「ねえ凪、凪あんたちょっと聞いてんの!」

「……あっなんか言った?」


 思い耽っているうちに演舞は終演していた。緑の絨毯には大量の白骨が散乱し足の踏み場もないはずなのだが、莉緒は特に気にする様子もなくバキバキとその骨を踏み砕きながら近づいて来る。


 その敢然たる堂々とした様は、過去の自分(勇者)を思い起こさせる。


「聞いてないどころか、まさか見てもいないなんて……まあいつものことだし別にいいんですけど、ね。で、あの魔物もまたあたしひとりでやるの? 武器もまたチェンジ?」


 勢いそのままに彼女は不満を漏らしつつ後方を指さして問いかけてきた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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