13-2 実家感覚
その少しばかりの不安材料すらも付き添いのアドバイザーの手により完全に消去される。
商品もまたリーズナブルなものを優先的に選んでくれていたので、膨大な購入数に比べて結構良心的な金額で収まった。
本来であれば、そこまで購入する予定ではなかったらしいのだが、俺のうっかりによって彼女の購入意欲を解放させてしまった。
御伽適応者が溢れるこの世界においては、お手軽収納術のような技能は誰でも使えるものだと思っていたが、実際はそうではなかった。
亜空間に物を収納する技能はこの世界にも使用者は存在するが、その保持者は全体の1パーセントにも満たない稀有なものだった。
色々とあったが、とりあえず目的のものは全て揃った。
数か月どころか一年程度であれば、問題なく暮らしていけそうな量にまで膨れ上がってしまったが、あの空間内は時間も停止しているので劣化する心配もない。
あとあと一人で買い足しに行くぐらいなら、この際一気に買い揃えてもらったほうが楽だ。
下世話なことではあるが、お金ならあるのだ。文字化けしていて、自分でもいくら持っているのか怖くて調べ切れていないほど多額のお金が、いまの俺にはあるのだ。
これらは俺が勇者として世界各地を回り、ダンジョン探索や依頼などをこなして貯めたお金、血と汗と涙の結晶。
結局その貯金もほとんど使うことなく平行世界に来てしまった。
異世界に行く方法を発見した暁には、世話になった人達に感謝の気持ちを込めて、豪邸の一つでもプレゼントしてあげようかな。
で、俺はいま何をしているかというと、昨夜と同じくよそ様のお家で、実家が如くソファーに寝転がり、眼前に浮かぶ透明なウィンドウに表示されたリストを眺めていた。
このリストに載っている物の大半は、ここの家主の慧眼により選定された購入品。
それらをソート機能を使って日付順に並び変えてリストアップして、何を購入したのかを二重チェックしている。
最初は名前順にしようかと思ったが、それだと消滅せずに残っていた武具までもリストアップされてしまうので、今回はこの方法でちまちまと確認しているわけだ。
羅列してある名前を上から下へと見ていき、一番下までいくとスマホの要領で画面を操作してまた上から下へと目を通していく。
右側に視線を移してみると、画面の中心部に青色の縦線が見える。
「30分近く見続けてやっと折り返し地点か。確かにどれも必要そうではあるが、やっぱ一気に買い過ぎたか……いやでも、無いよりかはマシか。さてさて、残り半分チェックしていきますか」
「あーなんで他人には見えない仕様になってんのよ! あたしも一緒に確認したいんだけど!」
莉緒はソファーの背もたれに覆いかぶさり、俺の視線の先を凝視しながらボヤく。
少しでも体勢を崩せばそのままボディプレスされそうな不安定な状態だ。
ゆらゆらと上体が揺れて、定期的に顔が接触しそうなほどの距離まで近づいて来る。
(ほんとご遠慮願いたい……)
危うくソファーから転げ落ちそうになるところだった。それだけならまだいいのだが、勢いあまって頭突きの一つでも浴びせてしまう可能性もある。
犠牲による癒しで治癒はできるが、莉緒も一応は女の子なので顔面をケガさせてしまうのは心が痛む。
「そうボヤくな。必要な物はもう全部取り出しているだろ?」
「そうーだけど! あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて……」
「何が言いたいのか分からん。つうか、俺は寝なくても問題ないが、お前は朝弱いんだからそろそろ寝ろ」
「えーまだいいじゃない!」
良いわけないだろうが、誰がお前を起こすと思っているんだ。
通常時でさえ寝起きが悪いくせに、それがもし寝不足にでもなってみろ。
もう俺ではどうすることもできない最低最悪な怪物の誕生だぞ。
「いや寝ろ、いますぐ寝ろ、おばさんがいないんだぞ。分かってるのか? いや……待てよ? 莉緒、お前おばさんがいないのに、土日はともかく……金曜遅刻してなかったのはなんでだ? まさか……あっちと同じで、おばさんに鬼電してもらってるんじゃないだろうな?」
元の世界では莉緒とは疎遠になったが、彼女の両親とは関係良好のままで、今までどおり相も変わらず普通に交流していた。
その際、おばさんは挨拶代わりに娘のプライバシーなど考慮せず、俺に近況報告していた。
あとになって知ったのだが、俺の両親もまた莉緒に対して同じことをしていたらしい。
俺と莉緒は直接相手に聞かずとも間接的に情報を仕入れていた。
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