13-1 購買意欲
翌日、翌々日と俺は予定どおり2日間に渡って、莉緒に腕を引っ張られながら町を練り歩いた。
何を見ても恐ろしいほどに物欲が発動しなかったから、彼女があれこれと必要なものを選んでくれたのは、正直なところかなり助かった。
特に衣服に関していえば、年に一度買うかどうかというぐらいに興味が無い。
買うにしても服屋に出向くとかでもなく、ネットショッピングでセール中のを適当に見繕ってポチポチしていた。
届いた衣服を試着してみてサイズ等が合わなければ、返品できるサイトを利用しているのだが、ダンボールに詰め直すのも億劫だったから、一度も返品したことすらない。
そんな俺でも、ある商品だけは視界に入った瞬間に購入意欲が湧き、気づいた時には業者並みに仕入れているはずだとそう思っていたが、まさかのそれも不発に終わった。
唯一の趣味だったゲームを見ても一切、1ミリも心が躍ることはなかった。
棚の端から端まで、その全部をこの手にできるほどの財力を有しているというのに、それでもまったく手が伸びることも、それどころか入店する気にもならなかった。
まさかここまで物欲が発動しないとは予想だにしていなかった。
あくまでこれは転生前の話ではあるが――。
平日は学生服で問題ないし、休日は基本的にゲームをするため一歩も外に出ない。
外出するとしても、近場の自販機か大通り前にあるコンビニの二択。
それぐらいの短い距離であれば、町民とエンカウントする確率も低い。
そのこともあってか、余計に服を買う気力が失せているのかもしれない。
その浮いたお金は貯金するわけでもなく、ゲーム代として羽ばたき消えていった。
ランカード家は伯爵の位を授かっている名家で、ルークはそこの嫡男として生まれた。
ということで、実家にいた時は買い物となると試着や返品どころの騒ぎではなかった。月に数回、業者が馬車数台で直接屋敷に訪れる。
貴族たるもの何も買わずに業者を帰すことなど許されないということで、彼らが来るたびに俺もまた両親に従い思うがままに購入した。
俺の購入平均額は両親の十分の一にも満たない額だったが、それでも一年間は庶民が食べ物に困らずに暮らしていける額である。
貴族に生まれたからといって、俺の庶民感覚が薄れるなんてこともなかったので、毎回胃薬を飲んでから商品を選んでいたのは実にいい思い出だ。
クーリングオフなど存在しない世界での訪問販売。しかも、全て手作業のため同商品だとしても必ず品質に差異が発生する。
思っていたものと違うからといって、一度購入したものを返品することはできない。どうしても返品となると、中古品扱いとされて購入時よりも安く買い取られてしまう。
それは貴族だけに限らず庶民も厳守すべき売買する上での絶対的な規約となっている。
そんな世知辛い理由から、異世界人は子供から大人まで職業に関係なく目利きができる。
俺もまたその例に漏れず、物心がついた頃からずっと行ってきた無駄遣いによって、専門職の鑑定士ほどではないにしろ、それに引けを取らない程度には目を肥やすことができた。
物の良さは分かるようになったからといって、俺のセンスが磨かれることはなかった。
ただそれでも学生には学生服があるように、勇者にもまたそれに見合った装備がある。
町やダンジョンなど人と出くわしそうな場所では、常にある鎧を身にまとっていた。ピッカピカに磨き上げた視認性抜群で、威厳を示すのにピッタリな白銀の鎧だ。
一番最初に潜ったダンジョンで入手した何の特性もない標準武具ではあったが、のちに手に入れた数々の防具よりも、目立つという一点においては、これ以上のものはなかった。
ルークの髪が銀灰色ということもあってか、専用装備だと言われても納得できそうなほどに見栄えが完璧だった。
異世界人のなかでは勇者の装備といえば、勇者の象徴たる聖剣を差し置いて、この白銀の鎧だと言われるぐらい凄まじい認知度を誇っていた。
何が言いたいのかというと、着ている服がどれほどダサかろうが、見えないように全身を覆い隠してしまえば、何の問題もないということだ。
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