12-3 羞恥独白
微笑みながら彼女は無言でこちらを見つめている。
その屈託のない笑顔に俺は少しばかり恐怖を覚えている。
『誓いを立ててやったんだからさっさと白状しちまいな』
彼女の眼光、口元、眉毛と顔の部位のどれをとって見ても俺には、そう言っているようにしか思えなかった。
異世界で小遣い稼ぎによく駆逐していた闇稼業に足を踏み入れた冒険者崩れ。いまの彼女であれば、俺のように実力行使に出なくても、ただ彼らの前でニコっと一笑を向けるだけで自らの足でギルドに赴くことだろう。
「じゃー言うぞ。20年ぶりで、ちょっとまだ慣れない」
そんなしょうもないことを思い浮かべたことで、心に余裕ができたと思ったが俺の気のせいだった。
彼女が言うように、同一人物だと誤認? 認識してしまえば楽なのだが、そうたやすく心の整理ができるほど、俺は器用な人間じゃない。
そのこともあってか、焦る気持ちが背中を押してくれたおかげで、せっかく頭に浮かんだ言葉を整理するよりも、先に文章の一部だけを口走っていた。
「……うん? つまり、どゆこと? あんたが何を言いたいのか全然わかんないんだけど?」
案の定、言葉足らずなものとなり莉緒は首を傾げて困惑している。
彼女があんな行動をとるのも頷ける。逆の立場であれば、俺も同様の行動をとっていたはずだ。
「あー、すまん。言い直す」
脳内で彼女に正しく伝わるように言葉の羅列を文章化していく。
声に出さず心の中で文章を読み問題ないかチェックしたのち、数回深呼吸をしてから告げる。
「20年ぶりに再会して、こうやって話したりできるのは俺としても本当に嬉しいんだ。だけど、どっちも莉緒だから今までどおりに接してほしいと言われても、すぐに受け入れられるほど、俺の頭は柔らかくないんだよ。他人行儀な振る舞いもするかもしれないけど、俺が慣れるまでは目をつぶってほしい。お前が教えてくれるまで気づかなかったやつが言うことじゃないけどさ」
「あーそういうことね。確かにあんた変なところで不器用だったわね。ふ、ふ~ん……ってことは、今の凪はあたしのことを女の子として見ているってこと?」
「うん? それは今も昔も変わっていないが?」
「えっ……あ、そうなの。ふーん、そうだったのね……そっか♪」
先ほどまで疑いの目を向けていたのに、今度は口元をほころばせて上機嫌なご様子。
莉緒は女性なんだから至極当然な答え、別段おかしなことは言っていないはず。
なのに、あの変わりようは……よく分からん。これが噂の乙女心と秋の空って、やつですかな。
言い直してもまだ個人的に不慣れで不十分な感じもしたが、莉緒が理解してくれたのであれば、今回はもうこれで良しとしよう。
それはそうと、莉緒の両親が結婚記念日やらで長期休暇をとって海外旅行を満喫しているらしい。
その期間もまた未定のようで1週間かもしれないし、はたまた1か月かもしれない。
泊るとこがないなら泊ればという彼女の厚意に甘えることにしたが、さすがにそれは聞いていない。
今さら親が居ないんなら泊るのやめるわって言えるような雰囲気でもない。
一軒家に一人でいるのが余ほど心細かったのか、俺が無言で首を縦に振っただけで彼女は大手を振って喜び感謝の言葉まで送ってきた。
俺がただ泊るだけでそれほど喜んでくれるのであれば、莉緒が許す限りこちらも存分に世話になってやる。ただ世話になるだけってのもつまらないので、こっちもこっちで存分に世話を焼いてやろうと思う。
俺の記憶が正しければ、あいつは才色兼備で何でもそつなくこなせるが、家事だけは絶望的に不得意で幾星霜、修練を積んだとしても能力は恐ろしいまでに向上しなかったはずだ。
前述の料理から察するに、この点においてもむこうと同じようだ。となれば、俺が取るべき行動も自然と決定される。
明日からはあいつに代わって俺が全ての家事をする。これに限る、逆にこれ以外思いつかない。
気心が知れているとはいえ、異性とひとつ屋根の下で二人っきりというのは如何なものか。
俺がどうとかというよりも、莉緒の両親がもしこのことを知れば気が気ではないだろう。
いざという時に備えて、すぐにでも引っ越せるように目途だけは立てておかないとな。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。