12-2 平行世界
彼女が得た記憶は桜川凪に関するものばかりだったこともあり、自分自身を推すという虚言じみた言葉を口にしたのだ。
その記憶を頼りに彼女は、俺の容姿や名前が異なっているにも関わらず見事的中させた。
それに対して俺は、情けない話ではあるが彼女が別人だとは1ミリも気づかなかった。
言い訳するつもりはないが、こちらの世界でも高校デビューでギャル化しているし、性格も感性も体型エトセトラ、似ているというか瓜二つだ。
まあそれでもダンジョンがあったりと、技能が扱えたりと俺がいた世界とは違うのだから、莉緒が同一人物なはずがない。
普通に考えれば、すぐにでも分かりそうなものなのだが、俺は自分が思っていた以上に再会できたことが嬉しかったのだろう。
また子細な時刻は分からないが、莉緒がその記憶を得たのは昨夜。急に桜川凪との思い出が引き出しを開けるように脳裏に浮かんだらしい。それまでは桜川凪のことも他に世界が存在していることも知らなかったようだ。
言うまでもなく、ルーク・凪・ランカードという人間もまたこの世界には元々存在しない。
ルークとして俺がこの世界に転移することが、莉緒の記憶を呼び起こす? 引き継ぐ? ためのトリガーだった可能性が高い。
それに彼女以外には、ルーク・凪・ランカードが最初から存在したという記憶に改ざんする暗示を町全体にかける。
そんなことが出来るのは俺の知る限りあの女神しかいないわけだが、そんなことをしてむこうに一体どんなメリットがあるというのだ。
ベースにした世界で転生した桜川凪を補うために転生後のルーク・ランカードを足した。だとしても、なぜそこまでして、たかだが人間一人分の隙間を埋めようとするのか、そこが理解できない。
考えれば考えるほど坩堝にハマりそうだ……目新しい情報が手に入るまでは一旦保留だな。
「推しの話して何が悪いのよ。でね凪、明日はまずあんたの服を見に行くわよ。どうせ制服しか持っていないでしょ?」
「確かにこの一張羅しか無いけどさ……ってか、それよりもお前はなんでそんなに平然としてるんだよ」
「うん、どゆこと?」
「本当に分かってない感じか?」
「だから、どゆこと?」
このままだと一向に話が進まずに、疑問をぶつけ合う無益な争いに勃発する未来が見える。
ここまで鈍感なやつではなかったような気もするが、一番交友関係が濃かった時期の彼女はこんな感じだった気もする。
だとしたら、精神年齢ちょいと下がりすぎやしませんか……。
ハテナマークを浮かべる莉緒に、心のうちに沈めて自己解決した疑問を再浮上させ投げかける。
「あーいやだってさ、考えてみ? 俺とお前は、あっちでは確かに幼馴染だったかもしれないが、こっちでは初見に等しいぐらいの関係なんだぞ。ましてや、俺に至っては見た目も完全に別人だしよ」
「それ関係なくない? どんな姿であれ、あんたが桜川凪であたしが彼我結莉緒なのは変わんないんだから。それともなに? あんた彼我結莉緒のことが嫌いだったの?」
莉緒は口を尖らせ不満を漏らす。
俺が莉緒に対してそんな感情を抱くことはないのだが、どう彼女に回答すればいいのか言葉に詰まる。
こっちの心境次第でこの微妙な距離感が、秒で元通りになるのは分かっているけどそれが少々難しい。
幼馴染だと思って気安く接していたら実は全くの別人。しかも、止めの一撃として彼女の貴重品を指差し確認するという愚行まで犯している。
まあこれに関して言えば例え幼馴染だったとしても、もう少しばかり他にやりようがあったかもしれないと反省している。
俺はその後ろめたさ諸々により、平行世界の彼女との接し方について模索中なのである。
「嫌いなわけないだろ……あーっ、今からクッソ恥いことを言うけど笑うなよ?」
「笑うわけないじゃん、ほれほれ。あたしに言ってみ?」
「剛速球を投げ込んできたくせに……よく言うよ」
「あれはどう考えたってあんたが悪いに決まってんでしょ! ……分かった、分かったわよ。なにがあっても笑わないって、ここに誓うわ」
莉緒は右手をかかげ双眸を閉じて仰々しく誓いを立てる。
そこまでやられるとこちらとしても応対せざるを得ないではないか。
気恥ずかしさMAXのなか言葉を選び彼女に告げる。
傍からしたら何てことないどうでもいいような些細なことを。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。