表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/137

08-1 怒髪少女

 指揮官の活躍が少なく頼りなければ士気は下がり。その逆に指揮官が活躍しすぎて頼りがいがありすぎると士気は上がる。


 士気が上がりすぎると、否が応でも部下はつけあがってしまう。確信も証拠もない謎の自信。

 本来であれば、それを指揮官が暴走しないように手綱を引き制御する。


 やる気があるのは非常に良いことなのだが……己の限界を超えて無謀な挑戦をする人間がいる。

 時にはそれが功を奏して良い方向にむかうこともあるが、今回に限っては完全に悪い方向にむいた。


「あーほんと……委員長が居てくれて助かった。じゃなかったら、危うくあの三バカを断罪してたかもしれん」


 自分よりも怒っている人が近くにいると、自分の怒りは自然と鎮まってくるものだ。


 彼女が激昂していなければ危うく、級友に一生消えないトラウマを植え付けるとこだった。

 その代わり、委員長から心的外傷後ストレス症(PTSD)を贈呈されている可能性はあるが、それに関しては俺の知ったこっちゃない。


 周りに誰もいなければ、俺は……はあ、やれやれ。今回は俺もあいつらも委員長に助けられたな。


 ちょっと異世界(あっち)で毒され過ぎたようで、数ある選択肢の中から物騒なものを選んでしまいそうになる。


 まず始めに俺は勇者ではあったが、別に聖人でも人類全ての味方でもなかった。

 前述の通り俺の目的のために女神と契約しただけの勇者という役目を担ったに過ぎない。

 一応、必要最低限のモラルは持ち合わせてはいるが、それでも我慢の出来ない場合もある。

 通常であれば自制しなければならないことも、異世界ではその制限が勇者の名のもとに免除される。


 そんなこんなで俺は数えきれないほどの生物を断罪してきた。

 その中には勿論――魔族や魔物以外もいたわけで。


 そいつらは町や村で暴虐の限りを尽くす虫以下の奴ばかりだったので、感謝されることはあっても非難されたことは一度もない。

 大義名分さえあればそれ(・・)を成しても許される、そう考えたら人間よりも魔族の方がよっぽど道徳心がある。


「待ってろよ莉緒……」


 複雑な心境のなか俺は30階層を駆け抜けていた。




 ◇◇◇ 




 話はほんの30分程前、佐咲の怒号が響き渡った頃に遡る。


 激怒する彼女のもとに急ぎ向かうと、女子三名が草原に正座させられていた。

 目は泳ぎ冷や汗をかき手足を震わせ、身体の底から恐怖しているのが見て取れる。

 それ以外の級友はというと、佐咲に向かって背筋を伸ばして整列している。

 後ろにいたはずの気の利く恩人もいつの間にか、その一員に加わっていた。


(……これもまた教育による賜物か?)


 チクチクする草原に素足で正座は地味の割に結構辛いやつだ。

 どこぞの軍隊かな? って思えるほど異様な光景だった。


「……あの……佐咲、何があった?」


 俺は恐る恐る彼女に問いかけた。

 振り向きこっちを見る彼女の眼には焦りの色がうかがえた。


「あー……もう……」


 羽目を外して騒ぎ過ぎたから雷を落としたんだなと思っていたが、明らかに様子がおかしい。

 数時間程度の関係だが、それでもパーティを組んだことで彼女の人柄については分かったつもりだ。

 学級委員長を担い責任感のある佐咲が、言葉を詰まらせるほど動揺するような出来事。


 彼女から視線を外し現状把握に専念する――彼女が動揺している理由が分かった。


「なるほど……彼我結莉緒(ひがゆいりお)の姿が見えないな……で、そこの三バカが原因か?」


 自分でも信じられないほど低い声で、正座する3人を見下ろし質問する。

 莉緒の成長を遠目から応援すると心に誓いはしたが、命に関わるとなると話は別だ。


「そうですルーク君! そこのバカ共が!! 彼我結さんをおとりにして逃げたんです!!! マジであり得ないですよね、ほんとマジでアリエナイ……」


 佐咲は俺とは比べ物にならないほどの冷酷な声で返答する。

 その言葉を耳にした途端、正座組の震えは一段と激しくなり全身へと広がる。


「ねえそう思うよねネ・エ・サ・ン?」


 最後にそう一言告げて、ゴミを見る様な蔑んだ瞳で真ん中の女子を一瞥する。

 彼女は同意の証として首を縦に振っている。涙目になりながら首が取れるんじゃないかと、こっちが心配になるほど猛烈な勢いで頷いている。


 そこまでされてしまうと、もう俺からは何も言うことはない。あれ以上はさすがに可哀そうだ、死体蹴りになってしまう。


 両端も連動しているのか同じ行動を繰り返しているし……というか、双子だったのか佐咲。

 どおりでどっかで見たことがあるような気がしたわけだ。

 兄より優秀な弟はいねぇって名言があるが、こっちの姉妹は妹の方が立場が上のようだ。いや、あっちも結局は弟の方が立場が上だったかも。って、いまはそんな話どうでもいいか。


「佐咲、説教はあとにしないか?」

「あーはい、そうでした。手短にお話いたしますと――」


 佐咲の話をざっくりとまとめるとこうだ。


 ボスが倒されたことを知った三バカは隠れて30階層を見学しに行った。

 そこで探索中に出くわした魔物に苦戦している時に、自分達を連れ戻そうと追いかけてきた莉緒をおとりにして逃走。

 すぐに戻ってくると思っていたけど、10分経っても戻って来ないから騒ぎ出したってところだ。


 普段なら気づけるはずのことも見落とす。俺も含めた全員が揃いも揃って散漫になっていた。

 担任のいない中での休憩や1階層探索を終えてドロップ品回収に、17階層が青空に草原という癒し空間に感化されたか。

 パーティごとにまとまってはいたが、全体で見ると放牧地並みに離れていたのも要因の一つか。


 今継先生が俺達に留まるように言い残したのも、生徒を救助に向かわせるのは危険だと判断して単独で向かうためか。

 もしそうなら、あの顔だったのもうなずけるが……本当にそうか? あの担任なら顔に出さずに平然と助けに向かわないか? それ以外の理由があるとすれば、学園から許可が下りず直談判しに行った? もしそうなら……。


 担任が不在のなかで勝手な行動をとるのはご法度。それでも仲間が危険な目にあっていると知れば、救助に向かおうとするだろう。その結果、助けるどころか返り討ちにあって全滅と。


(佐咲は大声で怒鳴りつけたり冷酷な行動をとることで、その可能性を未然に防いだ)


 学級委員長として佐咲は自分の仕事をやり切った。

 なら次は俺の番だ――。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ