07-3 連携攻撃
可憐な声から重たい一撃が繰り出される。
遠心力を得た棘の付いた鋼鉄の塊が弁慶の泣き所を粉砕する。
グシャリと濡れた鈍い音が響く。
「宝探しは二の次ってこと」
連撃により脛を砕かれ今にも倒れそうなオークに向かって背後から矢が飛翔する。
放たれた一矢は見事頭部を貫いた。百点満点なヘッドショットである。
死体蹴りにもほどがあると思うかもしれないが、死んだふりをして急襲してくる魔物もいる。
倒し切り跡形もなく消滅するまで追撃するのは魔物と対峙する上での一般常識。
ダンジョンは三人一組で行動するように義務付けられている。
昨日の朝礼時にそのことについて軽く説明があったらしいが記憶にない。
一志が気を利かせて事前にパーティ編成を済ませてくれていた。
そんな俺のパーティメンバーは、乾一志と佐咲杏の二人だ。
一志の武器は、幅広な弓幹により距離と威力を高めた――ロングボウ。
得意げに言っていたように一志の弓術の腕は中々のものだった。
狙いすました一矢にて確実に射止める、誰にでも出来る業じゃない。
それでも誤射しないと信用してはいるけど、背後から射られるのはあまりいい気分ではない。
佐咲の武器は、振り回し鎧ごと装備者を叩き潰すことで有名な鈍器――モーニングスター。
学級委員長の彼女は三つ編みツインテールとモーニングスターを豪快にぶん回して戦う。
ある意味においては、一志と同様に一撃で終わらせることに重きを置いている。
状況把握能力が非常に高く、こちらが何も言わなくても即座に理解し行動してくれる。
武器からただの脳筋タイプかと思いきや、実際のところは慧眼を持ち軍師もできる脳筋タイプ。
皆無と言っていいほど共闘したことがないし、それどころかパーティを組んだこともない。
ロンリーウルフな勇者だった俺にとっては縁のない話だったし、そもそも興味も無かった。
が、実際にこうやって背中を預けながら戦ってみて思ったが存外悪い気はしない。
視界からオークが消えるまで殲滅戦を行ったところで、ドロップ品と点在する宝箱から未知なる戦利品を回収する。
いつもならそれらを無視して次の階層を目指すらしいが、今回に限っては一旦休憩をとることになった。
少し早めのお昼休みに突入というわけである。
来た道を引き返して集めた回収品をゲート前まで運ぶ。
ひと仕事を終えるとパーティごとに集まり腰を下ろす。
今継先生は俺らにその場に留まるように言い残して、ゲートを通り抜けていった。
その際、彼女は眉間にしわを寄せていた。
学園から何か面倒な連絡がきたのかもしれない。
前線で魔物と戦っているのはストレス発散も兼ねているのだろう。
(お疲れ様です……)
担任が恐ろしく強いだけかと思っていたが、その教え子達もまた思ってた以上に強く戦い慣れている。
公私混同ではあるがそのおかげで戦力増強できているのもまた事実。
高一でこの練度、高三にもなればその実力は――。
そこで俺はある疑問が浮かんだ。
これほどの実力があるのになぜ10年間もの間、29階層で留まり続けていたのだろうか。
今継先生が指揮して戦えば、今の実力でもケルベロス程度なら軽々と倒せるはずだ。
意図的にダンジョン攻略を中断しているようにしか思えない……それにもう一つ気になる点もある。
「おい、聞いてんのか? おいってばルーク!」
「うぉ! なんだよ、耳元で騒ぐな難聴になったらどうすんだよ」
「その時は私が保健室に連れて行ってあげますね」
「委員長……ルークが言ってんのはそういうことじゃなくてだな?」
「そうなのですか、乾君。日本語って難しいですね……何やらむこうが騒がしいですね。ちょっと様子を見てきます」
佐咲はそう言うと、食べかけのサンドイッチを弁当箱に戻しそそくさと走っていった。
暫くしてから、大地を揺さぶる彼女の怒号が草原に響き渡った。
「お姉ちゃん! 自分が何を言っているのか分かってるの!!!!」
普段温厚な人が場をわきまえることすら考えず激怒する。
言葉や文章だけでも恐怖をそそるが、実際にその場で体験するのとではその比ではない。
一瞬でその場を凍りつかせる威圧感、その技量――彼女が学級委員長に選ばれた理由が分かった。
俺も彼女の逆鱗に触れないよう心がけるとしよう。
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