07-2 今継先生
その声が校庭に響いた瞬間、級友達は談笑を止め担任の後を追って前進する。
(……教育が行き届いているな。これなら大丈夫そうだ……)
名前が柊人なことと、ドスの利いたその声から男性に間違われやすいが、れっきとした女性。ただその漢らしい性格とハスキーボイスにより女子生徒からの人気は絶大。
また御伽適応者としても優秀で学園関係者の中でもトップクラス。学生時代には単独でボスを撃破したこともある実力者らしい。
無骨なハルバードを肩に担いで先導する我らが担任の今継先生。
そのお腹はふっくらしている、妊娠6か月だそうだ。
昨日の終礼では全く気付かなかった。というのも、教壇机で腹部が隠れて見えなかった。教室を出入りする時にでも気づきそうなものだが、その時の俺は図書館に忍び込むことで頭がいっぱいで、自分でも信じられないほどに何も見えていなかった。
級友に限らず生徒であれば誰もが知っていることなので、別段それを口にする必要もない。
そういう経緯から俺は今の今まで知らなかったというわけである。
ダンジョンは学園の隣にある。にもかかわらず、校門を出てからあの扉に到着するまで徒歩5分かかる。中等部は高等部よりもダンジョンが近くにあるため短縮されて徒歩2分。
学園の敷地が広大なのと、中等部と高等部の生徒が出くわさないようにと考慮した結果、校門を二つ設置することになったらしい。
そのくせ校内は金網や壁で仕切りを作っていないため行き来し放題となっている。
担任の後について行き扉を通過しゲートを抜ける。
扉前にある装置に許可証を一人一人スキャンするものかと思っていたがその必要はなかった。
引率教員がいる場合は生徒全員が通過するまで開きっぱなしになるらしい。
昨日手に入れた許可証を使うのは次回に持ち越しとなった。
俺のワクワクを返してもらいたい。
転送先は事前に設定されていたようで、俺達は自動的に17階層に転送された。
膝下まで伸びた草花が生い茂る草原が果てしなく広がっている。
洞窟などの閉鎖空間で壁らしきものがある場合は、そこがその階層の区域限界となりそれ以上先に進むことはできない。今回のように壁どころか何にも無い場合は、一定距離同じ方向を進み続けると中央に強制転移するようになっている。
4回目で17階層いうことは、1回につき大体5階層前後を目安として進んでいるようだ。
宝探しするだけかと思っていたが、攻略速度としては悪くない、むしろ良すぎるほどだ。
(……それに担任といい彼らの練度も悪くない)
実力者であり頼れる担任ではあるが、それと同時に安静第一な妊婦でもある。
はずなのだが……生徒よりも最前線で得物を振り回して魔物を蹴散らしている。
妊婦にも軽い運動は必要だと耳にしたことはあるけど、これはその域を超えていないか。
級友らもそれがごく当たり前の出来事、ただの日常のように思っているようで、誰一人も止めようともしない。
それどころか無双する担任に尊敬の眼差しを向けている。
級友らが魅了されるのも分からんでもない。
20キロ近くあるハルバードを羽のように軽々と扱い、魔物の攻撃も華麗にいなす。
その姿は舞い踊る天女を彷彿とさせる。少々血なまぐさい天女ではあるが……。
率先して魔物と戦う姿勢を見せることは決して悪いことではない。
目立つように立ち回り活躍すれば、自然と周りもそれに感化され士気も上がる。
異世界で何度も見てきた集団戦闘で良く用いる常套手段の一つだ。
猪武者戦法が好きすぎるのも考えようだが、それが一騎当千であれば関係ない。
個人の実力があるからこそ成り立つ戦法、今継先生は冒険者と馬が合いそうだ。
(まあだからこそ、この戦術は諸刃の剣でもあるんだけど……)
一般的な指揮官であればそこで終わりなのだが、さすがというべきか彼女は好き勝手に暴れながらも、生徒の行動を常に把握し的確な指示を出し続けている。
一言でいうなら……この担任はバケモノだ。
異世界でも一握りしかいないほどの逸材だ。
ただそれでも本来の実力の半分、いや2割も出していないだろう。
それに級友らも多少の遅れは発生しているが、彼女の指示を的確に理解し行動している。
担任だけがバケモノかと思っていたが、級友もそこそこバケモノかもしれない。
「宝探しが目的っていう話じゃ……」
敗走するオークの胴体めがけて刃を振るいながら、そんな感想をひとり述べていると隣から回答された。
「私達のクラスは攻略重視なので!」
ブォンブォンブォン、ドゴォッ――!!!
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