07-1 課外授業
朝9時半――俺達1年E組は校庭に集合していた。
昨日の終礼で担任が言っていた課外授業を行うためだ。
名目上は課外授業となってはいるが、その実はただのダンジョン探索である。
クラス全員でダンジョンに挑戦して実戦訓練を積む。魔物と戦い経験を重ねつつ、未知なる戦利品を回収してお金稼ぎ。
また学業に支障をきたさない程度であれば、好き勝手にダンジョン探索してもいいことになっている。
ただし、挑戦できる階層は課外授業で行った階層未満。その先を挑む場合は保険適用外となる。
(……まあそうだよな)
頭では理解していても、やはり違和感が凄い。
右隣の女子が手にしているのは扱いやすい片手剣。
異世界ではポピュラーだった刃渡り80センチほどのブロードソードだ。
左隣に目を向けると矢筒を背負った一志が弓弦を引っ張り調子を確認している。
俺の視線に気づいた一志は「なんだ?」と怪訝な表情を示す。
「いや、一志は弓矢なんだなって」
「ああ俺は剣を振ったりするよりも、こっちの方が戦いやすい。弓じゃなくて銃の方がよりベターなんだが、そういうわけにもいかねぇし……って、ルークお前なんで、にやけてんだ?」
「……あーダンジョンが楽しみで、な」
「そっか」
昨夜、物は試しで文字化けしたお金を取り出そうと挑戦した結果――見事に成功した。
元が異世界の貨幣のため例え取り出せたとしても、こっちでは使えないのではないかと、不安もよぎったがちゃんと日本円に変換されていた。
全所持金がいくらなのか判断できないが普通に生活する上では困らない気がする。
興味本位で一桁ずつ増やしながら取り出してみたのだが、億を超えたあたりで怖くなってやめた。
ひとまずこれで昨日の昼飯を奢り返せる。
日頃の感謝の気持ちを込めてデザートでもつけてやるか。
現代兵器では魔物を倒すどころか、身体に傷一つつけることさえ叶わない。
ダンジョンで手に入る未知なる戦利品のみでしかダメージを与えられない。
そのため必然的に原始的な攻撃手段を選ばざるを得ないのだ。
ケルベロスを素手で殴り倒しただろって? そんなこともあったな……。
異世界ではそんな面倒くさい制限はなかった。好きな得物で好きなように戦えた。
本当に好きな得物は何でもいいのだ――例えそれが素手という得物だとしても無問題。修行だといって裸一貫で魔物と対峙する冒険者もいたほどだ。
そんなわけで俺としては別に無手でも問題ないのだが、なんかバレたら色々とマズそうなので、形だけでも武器を持っておくことにした。
そこで俺が選んだ武器はジャパニーズソード、そう日本刀だ。標準武具のため切れ味はあまり期待できないが、あの階層程度の魔物であれば何ら問題ないだろう。
これらの武器は全て支給品のため無償提供される。
校庭に集合する前に武具保管庫に立ち寄り、そこで武具を選び装備する。
その際、武器は必須だが防具に関しては不要であれば装備しなくてもいい。
使用する武具に制限はなく、生徒は好きなものを選んでいい。
明らかに体格に合わないような場合や、使いたいものが無い場合に限り、担任が指定した武具を使用する。
希少度や性能によって武具は5段階に振り分けられる。
上から順に創世武具、神話武具、伝説武具、属性武具、標準武具となる。
武具保管庫にある武具は全て標準武具で統一されている。
支給品というのもあるが、武具だけ立派でも使用者が……という部分も多少あるのかもしれない。
制服を着た生徒が殺傷能力のある刃物や鈍器を互いに見せ合い、あーだーこーだと楽しそうに会話している。
浮かれる気持ちも分からなくもないが、緊張感が足りていない気がする。
(一志の話ではこの課外授業は今回で4回目らしいのだが大丈夫か、これ……)
初回は緊張感もって行動できるが2回3回と回数を重ねるたびに、その緊張はほぐれていく。
良くも悪くも……中途半端に慣れてきたタイミングが一番危険だ。
成功体験は確かに重要だ。だが、そればかりに気を取られてしまうと全てが無に帰す。
そんな気の緩みによって、戻って来なかった人達を俺は数多く知っている。
「それじゃ行くぞ、出発だ。私の後ろについてこい!」
担任の今継柊人は号令を出すと、ダンジョンに向かって歩き始めた。
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