39-4 嬌艶薄着
「……ひぃひぃ……はぁはぁ……あの、勇者様? こんな乱れた状態で、見つめられると……恥ずかしいのですけど……」
「ああ悪い、ちょっと考え事してた」
そう答えると、駄女神の顔が徐々に青ざめ始めた。
元々色白ということもあってか、異様に青白く本当の死人のように血の気が引いている。
「はあそうですか……で、あのどうして剣を握っているのですか?」
「あーいや、今度こそ確実に天国? に送ってやろうと思ってな」
「えっじゃあ、あのくすぐりの刑はいったい?」
「あれか? 駄女神お前忘れたのか? あれは俺の制服を濡らした罰だ。俺を騙した罪、あいつらを殺した罪、可燃ゴミだと言った罪。他にもetcまだまだ沢山あるぞ。てなわけで、何か言い残すことはあるか?」
切っ先を左胸部に向けながら告げる。
「…………」
「無いのなら今度こそ、さようならだ。次は粉微塵に切り刻む。そこまですれば、お前も復活できないだろ? これはその始まりの一刺しだ」
刃を振り上げ、ふくよかな胸元に視線を移す。
戦闘時は気にも留めていなかったが、今頃になって駄女神の服装のヤバさに気づいてしまった。
駄女神はペプロスとサンダルを身につけている。古代ギリシアの女性が着ていたとされる麻布で仕立てた衣類。細い革バンドを幾重にも足に巻きつけて固定した革製の履物。
足元はともかく胴体部分が非常に悩ましい。なぜなら彼女はその純白のペプロス一枚しか身に纏っていない。元来のものとは異なり独自のアレンジも加えられている。胸元はざっくりと開き、太ももも余裕で見えるほど深々とスリットが入っている。
もう一度言おう、駄女神はその純白のペプロス一枚しか着ていない。
その無防備な衣装の女性を馬乗りになって刺そうとしている。しかも、ついさっきまで泣きじゃくっていた女性をだ。
(この場合……どう見ても俺のほうが悪役じゃない?)
変な方向で決意が揺らぐ。ここには俺と駄女神の二人しかいないというのに、一体なにを気にしているのか。頭を振って邪念を消し去る。
「さてと、改めましてさような――」
「ちょ待って待って待って待ってください! 私に訊きたいことがあったんじゃないんですか!? 私を殺したら、それ訊けなくなっちゃいますよっ!!!」
あと0.3秒遅ければ突き刺していた。
左胸部まであと数センチのところで刃が止まる。
すっかり忘れていた。駄女神を蘇生させるために、あれこれと試行錯誤していたのは何のためだ。こいつから色々と聞き出すためじゃないか。己自身の感覚など信用できないな。正気に戻ったと思っていたけど、そうではなかったらしい。
天之尾羽張を収納し立ち上がる。
その様子を見ていた駄女神は安堵の表情を浮かべ言葉を紡ぐ。
「あ、ありがとうございます! このまま疑問にお答えしてもいいのですが、どうせなら膝を合わせて語り合いませんか? ということで、私の世界にご招待したいのですがいかがでしょうか?」
「私の世界って、俺が転生時に訪れたあの場所か」
「ええそうです、どうでしょうか勇者様……?」
「ああ分かった。全部話せよ、少しでもウソをついたら……分かっているよな?」
「ひゃぃ! 神の名において噓偽りは、ぜいぇったい言いません! で、では……ご案内いたしますのでお手を……」
駄女神がこちらに差し伸べてきた手を取る。すると、俺の意識は深淵に引き込まれるように遠のき沈んでいった。
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