表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/137

38-2 女神再会

 空中で停止しているクラウ・ソラスが反転する。


 日光に反射し銀刃がギラリと輝きを放つ。このあと、何が起こるのか鈍感な人でも理解できるだろう。


(そう、そのとおり正解はこちらに飛んでくるでした……でした、じゃねぇよ!!)


 心の中でひとりツッコミをいれていると、どこか聞き覚えのある旧懐の声が聞こえた。


『お返ししますね……勇者様』


 脳に直接語りかけるような甘く優しい声色と同時に、銀色の飛翔物体が持ち主めがけて戻ってきた。


 凶刃が俺に突き刺さることはなかった。

 クラウ・ソラスは俺の眼前で消失したからだ。


 他に入り用があるかと思いお手軽収納術ディメンションストレージを開いたままにしていたのが功を奏した。

 もし閉じていたらと思うとゾッとする。間違いなく先の一撃で俺の生涯は幕を下ろしていたかもしれない。

 一寸の狂いも躊躇いもなくヘッドショットを狙ってきた。その時ですらも殺気のさの字も感じなかった。それどころか柔和な雰囲気、幼児にボールを転がして返すような感覚。敵意(ヘイト)を向けずに攻撃してくる。今までどれだけその感覚を頼りにして戦っていたのかが痛いほどよく分かる。

 敵意を読み取れなくなっただけで、分かっていたはずなのに一歩も動けなかった。


 背筋が凍る、冷や汗が止まらない……こいつって、こんなに強かったのか。

 そんな俺の安否を気遣うようにそれぞれ声をかけてくれた。


「だ、大丈夫! 凪あんた生きてる!?」

「ケガがないようで安心しました。それはそうと……わたくしの兄さんに刃を向けた……? さて、どんな風に屠って差し上げましょうか……」

「勇者よ、気をつけよ。あやつはどんなゲームであれ、一度たりとも手を抜いたことはないらしいからな」


 クラウ・ソラスが停止していた空間を睨めつける。


「……随分なご挨拶だな。姿ぐらい見せたらどうだ?」


 空間がぐにゃりと歪み、薔薇のような香りが周囲に漂い始める。香りがより一層強くなり空間が固定されるとそこに人影が映し出される。半透明だった人影は徐々に色濃くなる。


 最後には元からそこに居たかのように顕現していた。


『変わっておりませんね。6年ぶりの再会だというのに、愛想のない感じ……それでこそ私の勇者様です』


 一片の穢れもない純白の装い。白色金の艶やかな長髪に、保護欲を誘う垂れ目に淡黄色の瞳。すっと伸びた鼻筋に薄紅色の唇。口元にある艶ぼくろは人の目を引き付けて離さない。出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる理想的な肢体。


 男性の渇望を具現化したような存在。見間違えるはずがない、こいつが俺を転生させ勇者に仕立て上げた張本人。


「久しぶりだな……駄女神。色々と聞きたいことがあるんだが?」

「ええ私も色々と話したいことはあるのですけど、その前にお時間のほうは大丈夫ですか?」


 駄女神は口元を綻ばせ問いかけてきた。

 天津谷に視線を向けると、俺の意を汲んだ彼女は「あと20分……です」と即座に返答する。


「20分もあれば十分だな。だけど、その前に一応確認していいか?」

「はい、なんでしょうか」

「お前が黒幕で、ついでにボスってことでいいんだよな? お前を倒せば魔物大進軍(スタンピード)は阻止できるんだよな?」

「ええその認識で合っておりますよ。よくご存じですね……ああそこの女狐から訊いたんでしたっけ? ほんと興ざめです。頭を捻りに捻って考えたゲームが台無しです。まあお陰様でこんな素晴らしい代替案を思いついたので、今では感謝しているのですよ、魔王。それで勇者様? 私への質問それで終わりですか?」


 駄女神は首を傾げて口元に人差し指を当てながら訊ねてきた。

 その様子を見ていた三名の口からは「チッ……」という効果音がこぼれる。


「特に今は聞くことはないな! 残りはお前をログアウトさせてから考える!」

「その言い回しいいですね、私も今度からそれ使うようにしますね。で……本当にないのですか? 例えば、ここの人間はどうなったのか、とか?」

「…………」

「知りたくはありませんか、なぜ誰もいないのか。みんなどこにいったのか。本当に知りたくはないのですか? ねえ勇者様……?」


 揺さぶりをかけてきた。知りたくないかどうかって、そんなの知りたいに決まっている。だが、いまは訊くべきじゃない。駄女神の言葉に耳を傾けている余裕も時間もない。


 一触即発――我が妹(ミーナ)が今にも襲いかかりそうな雰囲気なのだ。


「わたくしの兄さんに殺そうとした……? わたくしから兄さんを奪ったくせに、今度は殺そうとしたのですか? わたくしの兄さんなのに……貴女ごときが……?」


 ミーナに気圧されて莉緒と天津谷がだんまりを決め込んでいる。ここで何か一言でも発せば、自分達にも火の粉が降りかかる。何とも誇らしい危険察知能力だ。


 感嘆しつつ俺もまたお手軽収納術ディメンションストレージから獲物を取り出し構える。


「……駄女神、お前には感謝している。俺に第二の人生をくれた。そのおかげでミーナや天津谷、そしてまた莉緒に再会することができ――」


 駄女神に対して、いい感じのセリフを吐いていたところ横やりが入った。


「爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろぉ! 全てを灰燼と化すまで燃やし尽くせっ!! 爆発(エクスプロズィオーン)!!!!」

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ