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37-3 姫様抱擁

 幼馴染からの謂れのない罵詈雑言を散々浴びせられたことで、ブラックアウト一歩手前から復帰することができた。しかし何にも状況は改善されていない。


(つうか、あいつこれを言うためだけにわざわざ引き返してきたのかよ……そんな余裕なんてねぇだろ……)


 貴重な酸素を消費して、そんなしょうもないことに脳を使っている場合じゃない。

 タップ程度じゃ解放されないのは先の行動で理解した。ならば、次は力尽くで打開するほかない。


 後ろ手を崩して絡みつく腕に指先をかけて力のままに引っ張るが、一向に取れない剥がれない。

 それどころかさらに深くきつく絞まっていく。いつしか抵抗する気力も薄れ、だらりと肩ごと力なく落ちる。


 再度ブラックアウトに突入しかけていると、莉緒は訝しげに俺の顔を覗き込んできた。


「……あれ? 凪あんた顔、真っ青すぎない? うん、これもしかしてヤバいやつ……? 詩織いぃぃぃ!! さっさと手を緩めて手放して!!! 死ぬ、凪が死んじゃう!!!!」

「余の(つがい)がそんなに脆いわけ……ふむ、これはそこそこヤバそうだな」

「兄さんの青ざめた顔……これはこれでまた……」

「二人ともなにのんきなこと言ってんの!!!! ガチでヤバいんだって――――!!!!」


 ようやく事の重大さに気づいてくれたようだ。


 その絶叫が響き渡ると同時に後方から伸びていた紐が緩み次第に解けていった。

 気道が確保されたことで新鮮な空気が肺に取り込まれる。酸素が血液にのって全身に、脳に運ばれる。呼吸するたびに少しずつ意識もまたクリアになっていく。


「スーハースーハ……莉緒ありがとうなマジで助かった。つうか、天津谷落ちないようにとはいったが、あれはちょいとやり過ぎた。マジで死ぬかと思ったぞ。それとミーナ……我が妹よ、お前気づいていて放置しただろ? おちゃらけている場合じゃないのは分かってんだろ……」


 呼吸が整ったところで、それぞれに思いの丈を伝える。


「別に気にしなくていいわよ。あたしもあんたにキツく当たっちゃったし、これでお相子よ」

「余としたことが、力加減を誤ってしまった……すまぬな許せ、勇者よ」

「さすがは兄さん、やはり気づいてましたか。莉緒さんが助け船を出すと思っておりましたので、わたくしは行動せず見守ることにしました」


 莉緒と天津谷は俺の心情に寄り添い優しい言葉をかけてくれたが、ミーナだけは寄り添うどころか突き放すような言葉をかけてきた。

 時たまミーナはこうやって俺に理解不能なムーブをかましてくることがある。最初は意味が分からなかったが数を重ねるにつれて、これが一種の愛情表現だということに気が付いた。一番一緒にいて欲しかった時期に兄がいなかった。そのため変な甘え方を習得してしまったのだろう。そう結論付けると、先の言動も今までのことも全て兄妹愛故だと得心がいく。


 いくつになってもミーナは甘えん坊さんだな。兄が妹を大事に想って何が悪い、否、否だ。何も悪いことはないそれどころか愛が深ければ深いほどいいはずだ。


(俺の妹ってマジで天使、いや違うな。いまは女神だったわ……)


 一人ほっこりしていると、天津谷が耳元で囁いてきた。


「なあ勇者よ。提案があるんだが聞いてもらえるか?」


 首絞め解放により背から降りたのに、わざわざまた俺の背に這い上がり元の状態に戻ってから訊ねてきた。こっちはこっちで何を考えているのかよく分からん。


「なんだよ改まって、時間も惜しいしさっさと言ってくれ」

「そ、そうだな。では、では言うぞ! このスタイルで余を運ぶというのはどうだ……?」


 はにかみながら天津谷は床に足をつけることなく、俺の身体を這いずり背面から正面に移動する。

 両腕で大きな輪っかを作ると、それを俺の首に通してきた。次に俺の顔を見ては宙ぶらりんに浮いている腰や脚に目を向ける。


 その目配せにピンときた俺は、両腕をその浮いた箇所に滑り込ませる。すると、天津谷は待ってましたとばかりに力を抜き俺の両腕に身を預けてきた。ズシリとした重さがフニフニとした感触とともに両腕にのしかかる。

 華奢で小柄な体型とはいえ、腕のみで支えるのは少々骨が折れそうだ。


「……本当にこれでいくのか? この体勢で走ると余計にしんどくないか?」


 そう尋ねると天津谷は頬をほころばせながら、疑問に対して疑問で返してきた。


「だが、これだとお主の首を絞めることはなくなるぞ?」

「……確かに?」

「むむむ、なら余もお主の負担になるぬように、こうやって極力身体を浮かすようにする……です」


 急に両腕が軽くなった。


 天津谷は空気イスの要領で、両腕に触れるかどうかというスレスレの位置で下半身を浮かしていた。確かに腕の負担は軽減されたが、今度は首が特に頸椎あたりの負担が増大した。

 この状態で走れば間違いなく首が終わる。それだけは走らずとも予知できてしまう。首が終わるか腕が終わるか、どちらを取るとなれば、言うまでもなく後者だ。


 どうせ俺は戦闘に参加できないんだし、腕の一本や二本ぐらいの犠牲で済むのなら安いものだ。

 それに天津谷はこのスタイルを妙に気に入っている。色々と世話になったことだし聞き入れてやるか


「その浮かすのは止めるのなら、天津谷の言うようにこの方法で運んでもいいぞ!」

「お主……そこまで余のことを……では、頼むぞ!」

「いいわけあるかぁ――!!!!」

「それだけはわたくしも許せませんっ!!」


 俺がGOサインを出すや否や、予期せぬ第三者からの妨害が入った。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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