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37-2 背負疾走

 背中に重みを感じながらダンジョンを逆走している。


 紆余曲折あったが女神を模した石核(ダンジョンコア)を粉砕することに成功した。本来なら完全制覇達成だと、大手を振って帰還していたかもしれない。だが、そうはならなかった。


 核を破壊したことで、すぐに崩壊が始まるのかと思っていたがそうもならなかった。が、その代わり思わぬ障害物が脱出を阻んできた。

 ダンジョンコアのもう一つの姿である魔物化。ダンジョン最奥にて侵入者を待ち受けるボス。それが全階層に出現していた。とはいっても、各階層にいたボスが再配置されているだけで、脅威と呼ぶほどではなかった。


 ただそれが非常に面倒くさい仕様と合わさったことで、最悪の難易度に変化した。

 その仕様とはダンジョンコアは先にも述べたように、胸像ではなくボスとして立ちはだかることもある。再配置されたボスはダンジョンコアを媒体としている。

 つまり、時間内に殲滅できなければ魔物大進軍(スタンピード)が発生してしまう。


 まさかの隙の生じぬ二段構えならぬ三段構えの罠。諸葛孔明もビックリな三重仕掛罠(トリプルトラップ)。姑息な駄女神(性悪女)の術中にまんまとハマった。


 最初からダンジョンコアを胸像と魔物の二つに分離させていた。しかも鬱陶しいことに、例の罠は発動中のため第一から第三の機能も停止していない。

 魔物強化や攻略初期化については、すでに攻略、解決済みのため支障はないが、ゲートの一部制限がマジでヤバイ。憎き胸像を粉砕したのち階層転移(ワープ)で、悠々とみんなと合流する予定が完全に無に帰した。


 まあどちらにせよ、ボスを全滅させないと第四段階が発動するので、今になってはどうでもいいことではあるが……。


 最終階層(100階層)に到着した時はまだ7時間近く残っていた猶予が、いまやその半分以下2時間を切っている。で、いまはその折り返し地点の休憩階層(53階層)を抜けて52階層中腹を走っている最中だ。その名の示す通り53階層で休憩したいところだったが、そんな余裕は1ミリもないため目をくれず走り抜けた。


 礼拝堂で時間を消費しなければ、もう少し余裕もって帰路につけたかもしれない。だが、あれはあれで俺にとって必要な時間だった。ただ強いて言えば、天津谷の自分語り解説がもう少し短かればとは思う。これもまた今さらではあるが……。


 その解説者が耳元で囁いてきた。


「速度が落ちている、あの二人から離されておるぞ。勇者とあろう者がなんと情けないことか……です」

「おぶわれているやつが吐くセリフじゃねぇよな。見りゃ分かんだろ、あえて速度を落としてんだよ。あと、あんま喋ってると舌噛むぞ」

「忠告どうも。あやつらの戦闘の邪魔にならぬように下がるのは良い心がけだとは思う。しかし、ここまで離れる必要はあるか? このままだと見失う可能性も出てくるぞ……です」

「そんなことは分かってるっての。すぐに追いつけるからそこは気にするな。つうか、お前のほうは大丈夫か? ずっとおんぶされたままってのも案外しんどいだろ?」

「はは~ん、なるほど。そういうことだったか、余も罪深い女だな……です」

「何を訳の分からないことを口走ってんだ。さて、ボスを倒したみたいだし速度を上げるぞ」


 返事の代わりに天津谷は落ちないように両腕を絡みつかせてきた。

 重心が移動したことで、後ろ手に組んで固定した箇所にかかっていた比重が軽くなる。

 背中にピタリと密着したことで、より一層彼女の体温が直に伝わってくる。


 天津谷は実力こそ申し分ないが、容姿のとおり基礎体力だけは年相応……いや同学年に比べても若干低いかもしれない。一太刀で終わらせた四天王戦や階層を踏破したことで、彼女の体力は底をついていた。歩くことはできても走ることはできず、あの軽々片手で振るっていたデュランダルも今では両手で何とか持てる程度。


 俺からしたら満身創痍にもかかわらず、引きずらずに持ててる時点で結構なバケモノ。とはいっても、歩行速度が牛歩ではどう考えても時間切れ間に合わない。なので、俺が彼女を背負い運搬することとなった。これにより俺と天津谷は戦力外となるため、ボスは莉緒とミーナ(二人)に任せることにした。

 また運搬の邪魔にしかならないデュランダルは一旦お手軽収納術ディメンションストレージにナイナイしておいた。マジで重すぎて半歩すら進めなかった。


「こういうのも存外悪くはないな……です」

「だから、お前はさっきから何を言っている?」

「今後ともよろしくなってことだ、勇者!」

「うるせぇ……急に耳元で騒ぐなよ。耳がキーンとなったわ。ああ、これからもよろしくな魔王!」


 先導する二人に追いつくため加速すると「キャッ!?」と驚く声が聞こえた。

 その声に合わせて首元に絡みついていた天津谷の両腕に力がこもる。


 ミシミシミシミシ――。


 頸動脈が絞まる音。か細い桜色の腕が首にまとわりつく。

 死へと導く紐を緩めてほしいとタップしても、天津谷の手が緩むことはない。


 命の危機を感じた俺は失速し足を止めて、何度もタップし続けるが紐が解ける気配はない。

 チョークスリーパーにより脳に酸素が運ばれず、意識が朦朧としていくなかで、莉緒の声が耳に届いた。


「変態! ロリコン! すけこまし! キス魔! 女の敵!」

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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