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37-1 昼間演劇

「――して勇者よ。余の話を聞いた感想は?」

「空事すぎて、聞いた今でもにわかに信じがたいってとこだな」

「もっとキレると思っていたのだが案外冷静だな。一番の被害者であるというのに……です」

「だからかもしれないな。さっきも言ったように、現実感がないというか……つうか、お前は平気なのかよ?」

「何がだ……?」

「いやだってよ、話を聞く限りだと、俺もお前も……その輪廻から外れたんだろ? もう俺達は二度と生まれ変われない。このゲームの登場人物(NPC)が最後の人生ってことじゃねぇのか?」


 俗に言う異世界転生を行うと、その世界の輪廻から外れてしまうらしい。一度でも、その輪から外れるともう二度と戻れない。輪廻転生できなくなった魂の残された道は無に帰ることのみ。無とは存在自体が完全消滅することだ。それは世界から抹消されることを意味する。記憶にも記録にも残らない。最初からいなかったかのように扱われる。


 異世界転移を行った場合は、魂の根底は元の世界にあるため、その世界で命を落としたとしても元の世界で生まれ変わることができる。

 ミーナは異世界(ツァウベル)から転移したルーク本人だと仮説していたし、俺もそうだと思っていたがどうやら違うらしい。状況的に鑑みるに魂は本物だが、肉体(がわ)は偽物っぽい。


 俺は簒奪した女神により転生し、天津谷は簒奪された女神により転生した。


 勇者業務協約時に駄女神が口にした言葉を思い出す。


『元の貴方に近しい状態に作り直す』


 どういう意図で駄女神は俺の身体を再構築したのか。ただのゲームのコマとして活躍させる気なら、ルーク(こんな)容姿じゃなくてもいい。そもそもゲームを崩壊させるようなチートキャラ自体不要なはずだ。楽しみにしているゲームを自ら壊す行為に他ならない。そんなことをして何の意味がある。一体なにを考えているのか、俺には理解の外すぎる。やはりもう一度会って聞き出す以外に手はないか。


 不意にパチンと指を弾く音が聞こえた。

 自分の世界に入り込んだ意識を引き戻すためには十分だった。


 天津谷のほうに視線を向けると、ゆっくりと口を開き俺の問いに答え始めた。


「そうでもない。余はともかくお主はまだ可能性は残されている……です」

「どういうことだ……?」

「ここがお主の言うところの平行世界であること。次にお主が転移でも転生でもない不自然な状態でここに居ること。これが重要なのだ……です」

「つまり、どういうことだ?」

「この世界はお主がルーク・ランカードに転生させられたことで誕生した世界だということだ。本来なら存在せぬし存在してはいけない世界。あまりにも歪すぎるのだ。だからこそ、勇者お主だけは元の世界に戻れるかもしれない。だから、絶対に希望を捨てず諦めるなよ勇者……です」

「なんかハッキリとしない説明だな……とりあえずワンチャンあるってことなんだよな。それが分かっただけで十分だ。ありがとうな天津谷。それとすまない……」


 俺は感謝と謝罪の意を込めて深々と頭を下げる。自分はもう二度と転生できないことを理解した上で、他者に思いやりの言葉をかけてくる。

 自己のために刃を振るったヒト殺し()とは比べるほどもない人格者。元管理者の女神様が魔王に頼るのも頷ける。こういう人物のことを救世主って呼ぶんだろうな。


「感謝のみで良い。謝罪など不要だ。余とて魔王だぞ、どうにかして転生への道を見つけ出してやるわ。あれほど心躍る戦いが前世と今世のみで終わりなどありえん。来世もその次もそのまた次と、未来永劫末永くよろしく頼むぞ、勇者♪」

「今世はまだや――」


 しんみりとした空気が流れるかと思いきやそうなることはなかった。

 天津谷はにこやかな笑みを浮かべ腹部に肘打ちをかましてきた。


 ドゴッ!?


 本人としては軽く突いたつもりだろうが、いまの俺には効果てきめんだった。

 安堵し油断していたところへ予備動作なしの一撃。回避などできるわけがない。


 衝撃と激痛により、視界は歪み身体はくの字に折れ曲がる。


 チュッ!?


 唇に何かが触れた。ほんのり温かくどこか懐かしい甘い香りがした。

 視界が正常になったところで目を開けると、そこには正面というかもう眼前に天津谷の顔があった。


(天津谷って、まつ毛結構長いんだな……)


 体勢を崩した際に、俺の唇と天津谷の唇が接触してしまったようだ。

 今もなお継続的のなか悠長にも俺はそんなことを考えていた。


 そんな折、封印されていたはず人物の怒声が最終階層(礼拝堂)に響き渡る。


「なっがぁぁぁぁい! あんたら話長すぎんのよ!! どんだけダラダラと喋れば気が済むのよ!!!」


 ドガドガと足音が近づいてくる。


 祭壇裏に居たこともあって、今のところはバレてはいないが時間の問題だ。こちらとしても、その位置にいるため現状把握ができない。


 ミーナの拘束から莉緒はどうやって逃げ出せたのか、ミーナはなぜ逃げた莉緒を捕まえようとしないのか。さっさと離れなければ、さっさと謝らなければ、さっさと……まずは何をするべき? 偶発的に起こったこととはいえ、昼ドラのような展開に焦り判断が鈍っていく。


 そして――その時は訪れるのであった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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