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36-1 魔王回想

 あの日、我は勇者の意表を突く一撃により敗北した。

 まさか聖剣を投げつけてくるとは思いもせぬかった。


 勇者は自身の震える手を見つめ、申し訳なさそうにしていたが、我としては満足であった。

 どんな決着のつき方であれ、勇者のおかげで我は一戦士として戦いに興じることができた。


 感謝こそすれど怨嗟することはない。戦いとは常にそういうものだ。何が起こるか分からないからこそ、面白いのだ。


 冥途の土産にしては、少々豪勢なものも勇者から受け取ったしな。

 胸部を貫き心臓に到達した聖剣の柄に触れ目を閉じる。


 我が膝を屈したことで直に戦争は終わる。心残りがあるとすれば残された同胞のことだ。あの勇者は彼らを悪いようにはしないだろう。が、彼以外の人類はきっとそうではない。彼らには過酷な運命が待っているはずだ。そのことだけが無念でならない。




 そして――我は常世に旅立った。




 同胞のためとはいえ我は魔王として数々の悪行に手を染めてきた。輪廻転生どこから魂ごと消滅し我という存在ごと無に帰すかと思っていたが、そうはならなかった。


 見ず知らずの場所で、我は目を覚ました。


 砕かれた角は復元し切り裂かれたはずの左目も見える。胸部を穿ち貫いた聖剣は消失し傷も癒えている。


 純白、穢れ一つない真っ新な白い空間。見渡す限りその白色が続いている。

 そんな何も無いだだっ広い場所に、これまた真っ白な円形テーブルとイス2脚が無造作に配置されていた。


「……ここはどこだ? なぜ我は生きている?」


 自問自答するように呟く。すると、どこからともなく女性らしき声が呼応するように響いた。


「ここはあの世とこの世の境、神が住まう世界です。それと貴方は生きてはおりません。勇者と戦い命を落としました」

「神が住まう世界に……だと? ならば我のこの身体はなんだ? なぜ死してなお、肉体が存在している……」

「身体があったほうが安心できますし便利ではありませんか? 魂のみだと見ることも聞くことも話すことも触れることも叶いませんよ。ですが、その身体は本物ではありません。貴方が知覚できるようにそうみせているだけで、本来はそこには何も無いのです。ただ魔王だった者の意識が浮遊しているだけなのです」

「説明痛み入る……それで、我をここに呼んだわけを話してもらおうか? の前に、できれば姿を見せてはくれないか? 相手の顔も見ずに話すのに慣れておらんのでな」

「それは大変失礼いたしました……前にも同じことを言われたのというのに、習慣とはなかなか抜けないものですね」


 空間が捻じ曲がったと思った次の瞬間、テーブル正面に声の主が姿を現した。


 絵画に描かれるような白妙の衣類をした金髪の女性。魔族のように動物を模したものが一つも備わっていない。その外見的特徴(・・・・・)魔族(こちら)側ではない人類(あちら)側に酷似している。


 神を自称する次元を超越せし存在。


 その容姿は人類に似ている。つまりはそういうことなのだろう。魔族(我ら)は最初から勝てぬ戦を強いられていた。完全な出来レース。我と勇者の血戦はただの余興。同胞が血を流し骨を砕き祖国のために戦ったのも、何の意味をなさない無駄な行為。


「……魔族の敗北は確定事項だったということか」

「いえそれは違いますよ」


 その言葉だけで十分だった。

 我が憤怒する条件としては。


「違う……だと? 何が違う! お主の姿はどう見ても人類のそれではないか! 我らを迫害し我らの血が混ざっているといって、子を、孫を嘲笑しその手にかけた! あの人類と同じ姿をしているではないかぁ!!!」


 怒号を放ち右手を強く握りしめる。


 この手に魔剣があれば感情に身を任せて、彼女の頭蓋めがけて振り下ろしていた。だが、それをしたところで無意味なのも理解はしている。

 我の魔剣がかの身を斬り裂くよりも早く我の肉体は、この場から消失し魂だけの存在に成り果てていたはずだ。我の存在などかの者にとっては、飛び回る羽虫どころか砂の一粒にすぎない。取るに足らない塵芥――それが今の我だ。


「あああああああああああああ!!!!」


 なんと無様な姿だ、これが魔族を統べし長たる魔王の姿か。今さら嘆き悔やんだところで何も変わらない。だが、それでもそれしか我にできることは何もなかった。


 行き場のない感情を咆哮にのせて昇華する。

 精神が安定するまで、何度も何度も何度も獣のように遠吠えし続けた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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