35-4 魔王転生
悪鬼と化したミーナを宥めること一時間。やっといつもの妹に戻ってくれた。
頭をなでたり膝枕をしたりとそれはもう本当に大変だった。それを見た莉緒もまた同様のことをしろと強請ってくるしで、ほとんど休憩という休憩をとることはできなかった。
この一時間というのも、天津谷が起きてくれたからこの時間で済んだ。もし彼女がまだ夢の中にいたのなら、俺が解放されるのはもうしばらく後になっていたことだろう。
まあそれでも大変ではあったがしんどくはなかった。構って構ってとアピールするペットをあやすような感覚に似ている。なんというか心は幾分か安らいだ。
天津谷はベンチから飛び降りるとミーナが用意した紅茶を一気に飲み干す。
空となったカップをミーナに手渡すと前方を指さし告げる。
「莉緒とミーナはそこで待機しておれ。行くぞ、勇者。このフザケた遊戯を終わらせに……です」
「……えっちょウソでしょ? あたしも行くって……もごもご……」
「はいはい、莉緒さん大人しく待っていましょうね。ここから先は兄さんと彼女に任せましょう」
「悪いな、そういうことだから莉緒は留守番な。ミーナちょっくら行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃいませ」
猿ぐつわをされベンチに座らされる莉緒を横目に俺は祭壇へと向かう。
背後からミーナがガッシリと両肩を押さえつけていた。あれでは立ち上がることは不可能だろう。
いよいよダンジョンコアを破壊する時がきた。段差をあがり祭壇の裏に回る。
祭壇の上には、昨日壊したはずの胸像が鎮座し、周辺に散らばっていたはずの瓦礫も掃除されていた。何事もなかったかのように元通りになっていた。ただ一つだけを除いて。
「……なあ天津谷、これってそういうことなのか?」
「だからお主を連れて来たのだ。勇者であるお主をな……です」
「あれもこれも全て、全部……あいつの仕業だってことか……?」
「論より証拠とは上手いことを言うと思わんか。余もお主も、あやつの手のひらの上でコロコロされてたとはウケるだろ……です」
「あっははは……マジでウケるし、マジでキレそう。で、天津谷はどうしてあいつが黒幕だと分かったんだ?」
どういう経緯で黒幕の尻尾を掴んだのか、俺には知る必要があった。
裏切った代償を支払ってもらうためにも、俺は知らなければならない。
天津谷は顎に手を当て暫く考え込んだあと、こちらを見上げて首を縦に振った。
「……まだ5時間と48分33秒残っておるし、いいだろう。どうせいつかは話そうと思っておったしな。では、魔王が天津谷詩織に転生するきっかけから話していくか。全てを知り殺意全開になったところで、その思いの丈をそのダンジョンコアにぶつけてやれ……です」
「ああ……だから莉緒をこっちに来ないように拘束したのか。そんな気など回さなくても良かったのに」
「そうは言うがな。お主は絶対に余に感謝すると思うぞ。では、心して聴くがよい。余の波乱万丈物語を……です」
大袈裟に咳ばらいをしたのち天津谷は語り出した。
身振り手振りに感情のこもった本人による自叙伝語り。割かしコンパクトにまとめてくれたおかげで、話自体は30分ぐらいで終わった。ただそのあとの解説が異様に長く本編の3倍ほどの時間を要した。
タイトルをつけるとしたら『魔王から美少女中学生に転生しちゃった件』てな感じだろうか。
魔王の境遇についても思うことは多々あったが、その苦労譚が霞むほど深刻な内容が含まれていた。
その話を聞いて合点もいった。
地下迷宮の核となる石像の正式名称は、女神を模した石核というらしい。
どおりで本物のダンジョンコアは駄女神の姿をしているわけだ。
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