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34-2 殺意静寂

 このまま級友無双が続くものだと思っていたが、96階層にて急停止を余儀なくされた。


 96階層(ここ)に足を踏み入れた瞬間に、ただならぬ気配を感じたからだ。殺意に満ちた重々しい空気が全域を支配している。今までの相手が可愛く思えるほどの威圧感。


 階層のつくりも前回とは異なっていた。前に俺が一人で来た時はここは雪原地帯だった。1メートル先すらも視認できないほどの猛烈な吹雪が吹き荒ぶ白銀世界。魔物と戦う前に寒さでお陀仏になるんじゃないかってぐらいに史上最悪な環境だったはずだ。


 それがどうだ。吹雪どころか雪のひとつも積もっていないどころか屋内だ。


 ダンジョンは創造された瞬間に、各階層の環境や地形もまた決定づけられる。一度確定すると、もうその設定は変更されることはない。数十ものダンジョンを探索し数百という階層を踏破してきたが、階層が丸ごと変化するなど聞いたことも見たこともない。


 一面大理石の床と柱に高価な調度品、どっかの宮殿でも模したのだろう。左手側にはアーチ状の窓が等間隔で続き、右手側には取っ手の無いドアがずらりと並んでいた。

 窓から覗く景色は幻想的なものであふれていた。大地には見渡す限りの色鮮やかな花々が広がり、全高20センチほどの羽の生えた人型の生物が、その花の上を飛び交っている。紺色の空には、月らしき衛星が十数個浮かんでいる。


 正面奥、距離にして約50メートルには、両開きのドアが地獄へ誘うように開いていた。

 その暗闇が広がる空間から、身震いする殺気が流れてきている。他のボス同様にゲートを守護しているのか、襲ってくる気配はない。引き返すのならいまのうち、あの先は死地。


 頭でも心でもなく、本能が、魂が危険信号を発している。今すぐ逃げろと。


 このピリリとした懐かしい感覚に俺はつい口元が綻んでしまう。こちらの世界でも殺り合えるとは予想外だった。俺自身も驚いている、まだこんな感情をもっていたことに。


 俺って実は戦闘狂(バトルジャンキー)なのかもしんない。そうなってくると狂戦士(バーサーカー)戦闘狂(バトルジャンキー)どっちのほうがより戦狂いなのだろうか。


 俺、気になります。


(……完全に気圧されているな。どちらにせよ、あいつらとはここでお別れだな)


 怖いものなしと破竹の勢いで進んでいた1年E組(あいつら)は、姿すら見せていない相手の圧に怯えて足を竦ませている。そうなるのも無理はない。この死を纏わせる気配と相対するのは今回がはじめてのはずだ。そんななかで倉原先生はさすがというべきか。呼吸は少し荒くなっているが、たったそれだけで普通に冷静さを保っている。


 俺の級友は強い、それは間違いない。だけど、その強さは相手が魔物(・・)であればの話。この先にいるやつは魔物じゃない……魔族(・・)だ。ここから先は一志達じゃ無理だろう、俺としてもやらせたくない。戦う相手がとられるからとか、そんなくだらない理由じゃない。


 翼や尻尾、角が生えていたとしても魔族は俺らと同じ人間だ。言語も理解し普通に意思疎通もできる。人間同士で命の取り合いをすることになる。魔物と戦うのとはわけが違う。じゃあギガンテスはどうなんだって話になるのだが、確かに線引きは難しいかもしれない。だが、決定的に違う点は魔族とは子を成せるが、ギガンテスなど亜人種とでは子が成せない。


(まあそれが不毛な争いを起こすきっかけになったんだっけか……)


 とりあえず俺のエゴに過ぎないが、倉原先生や一志達にヒト(・・)を殺す経験だけはさせてはいけない。一度でも手を染めてしまうと、その鮮血はいくら拭おうと決して取れることはない。ヒト殺しという称号が自責の念となり一生つきまとってくる。質の悪いことに世界を跨いでも、その称号はしがみつきついてくるのだ。


 だが、なぜダンジョンに魔族がいる? 魔物はともかく魔族を創造するなんて話聞いたことがない。とすれば、ミーナのように異世界(ツァウベル)から、こっちの世界に転移した? そんな容易く行使できる呪文じゃないが、可能性が無いことも無い。元々、呪文は魔族の専売特許だった。だとしても、やはり腑に落ちない。自分の意志で転移してきたのなら、ボスのように振舞わずとも、好き勝手動けばいいのに……そうする様子もない。一体どういうことだ? やはりダンジョン産の魔族ってことなのか。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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