34-1 級友無双
ゲートを通過し魔物が蔓延る階層に赴く。
部隊も1/10に縮小し足が震え戦う気力も失うような絶望的な状況。
それでも仲間を自身を鼓舞し前と進み刃を振るう。それが俺達に残された唯一の道だ。
そんな心震える少年漫画のような展開は何も起こらなかった。いやマジで、少年心をくすぐるようなことは何一つなかった。知り合いが傷つくところなんて見たくはない。そんなことが無いほうがいいのは分かっている。だけど、ここまでとは何にも無いのは予想だにしていなかった。
悲しきかな、人数が減ったことで遊撃隊としての真価を発揮していた。
元々集団戦があまり得意じゃない1年E組の面々に、遊撃隊としての役目を与えたところで限界があった。そのリードを外し解放されたことで、彼らは存分に本来の力を発揮した。
課外授業同様に三人一組で行動し、立ちはだかる魔物を見事な連携で倒していく。その卓越した技量には目を見張るものがあった。それもそのはずで1年E組は、放課後俺達がダンジョンに潜っていた時、担任のもとで鍛練に励んでいた。今継先生が帰宅したあとも、彼らは夜遅くまで彼女が用意したトレーニングをこなしていた。
やっとその成果を見せられると思い意気揚々と召集に応じる。いざ蓋を開けてみると支援ばかりで魔物と戦う機会がほぼなかった。あったとして、倒れかけ魔物に止めを刺すぐらいで、一から魔物と戦うことはなかった。彼らも隊列を組んで戦うということはそういうものだと理解していた。
ただそれが40階層近く続くと、仲間とためだとそれが作戦だと思っていても飽きてくる。特に星影学園の中でもイレギュラーな存在である、今継先生率いる1年E組ともなれば尚更だ。
あの作戦を悪くいうつもりもないし、身体を張って俺達のことを守ってくれた先輩のことを卑下しているわけじゃない。あの人達が居たからこそ、俺達は力を温存したままここまで来ることができた。
それに例え、更なる行動の自由を与えられたとしても、彼らは同様の行動をとっていたことだろう。妊婦である担任のことが気がかりとなり、彼らは知らず知らずのうちに自ら行動制限をかけていた。そのことを分かっていたからこそ今継先生は身を引き、倉原先生に教え子を託した。
溜まりに溜まったフラストレーションと、今継先生の想いも受け継いだ彼らの士気は、これまでにないぐらいに高まっている。しかも、手には新しい武具。
このなることは必然だったのかもしれない。
倉原先生はそんな彼らに気負うことなく指揮し戦闘に参加している。盾を巧みに扱い魔物の攻撃を弾き体勢を崩したところで、狙い澄ました一撃を放ち仕留める。今継先生のような能動的な戦い方じゃなく、後の先による受動的な戦い方。動きは最小限なのだが、その挙動一つ一つがとても洗練されている。ここが戦場でなければ、足を止めてずっと見ていたいくらいだ。
水を得た魚、向かうところ敵なし。
あれよあれよと魔物を蹴散らしボスを屠り階層を踏破されていく。
わずか数時間で大台の90階層まで攻略してしまったのだから。
なんかもう俺いなくてもいいんじゃないかってぐらいに無双状態だった。
ブリューナクもどことなく寂しそうにしている。矛先が三つに分かれた三叉槍。いまだにその出番はなく、今ではもう杖代わりとして扱っている。
実際に俺と天津谷は世間話をしながら彼らが切り開いた道を歩くのみで、何にも手伝っていない。今までとそんなに変わっていない。嬉しい裏切りではあるのだけど、俺の意気込みが無駄になったような気がして少しばかり虚しい。
その有意義な時間のおかげで天津谷と親睦を深めることができた。ただその分、さらに彼女がどういう人物なのか、謎は深まるばかりであった。
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