33-6 至宝対価
(それにしても……本当にどうやって、あの凶器を隠しているんだ?)
着衣状態と脱衣状態を牛丼に例えるとすれば、小盛から特盛ぐらいの差がある。
深淵に沈めたはずの疑問が再浮上する。気づいた時にはスーツ姿の倉原先生に熱視線を向けていた。
「あのランカード君、女性の身体をまじまじと見るのはどうかと思うのですが……」
「えっ……あ、すいません。それはそうと……ですね、倉原先生に渡したいものがありまして」
「……私にですか?」
話題を逸らすようにお手軽収納術から、純白の盾を取り出し倉原先生に見せる。
「……これは?」
「ガラハッドと呼ばれる盾で、倉原先生にピッタリかと思いまして! 是非、使ってください!!」
「本当にいいのですか……?」
「はい、どうぞお使いください。盾による防御と剣による攻撃、先生が得意な攻防一体の戦術に適しているかと。先生、カイトシールド預かります!」
「え、あっはい! すいません、ありがとうございます!」
押せ押せドンドンで倉原先生の考える時間を奪いガラハッドを受け取らせる。
装備させたらこっちのものだ。一度手にしたらもう手放したくなくなるはずだ。まるで長年使い続けた盾のように馴染むはずだ。このガラハッドは標準武具が神秘性を帯びたことで誕生した伝説武具。故に手に馴染まないわけがないのだ。
「この手に馴染む感覚、重量感といいとても扱いやすそうです。それにこの白に赤十字のデザインもカッコいいですね。では、ありがたく使わせてもらいますね。ありがとうランカード君」
「はい、よろしければそのまま使ってください」
「……それってどういうことでしょうか?」
倉原先生は手首を返しガラハッドの表面を見ながら問いかける。
「そのままの意味です。返却不要です、そのガラハッドは倉原先生に差し上げます!」
「そんなのいけません。これはランカード君が頑張って頑張って頑張って、やっとの思いで手に入れた盾でしょ。それを軽々しく他人にあげてはいけません!」
「そういうわけにはいきません。もし受け取ってくれないのであれば、俺にだって考えがあります!」
押せ押せドンドン第二幕のはじまりだ。あんな至宝を間近で拝めたのだから、それ相応の対価を支払うべきなのだ。治療費だと称して、代金を踏み倒そうとしていた自分が恥ずかしい。何があっても絶対に彼女にガラハッドを受け取らせる。嫌だとは言わせない、頷かせてみせる。
「……な、なにをする気なの。ラ、ランカード君?」
倉原先生の目をジッと見つめて、低めの声で威圧するように告げる。
「今継先生に言いふらしますよ……」
「な、なにをかな?」
一歩後ずさり上擦った声で倉原先生は聞き返してくる。
ここでさらにダメ押しの一手を打つ。それが見え見えの罠だと分かっていても確かめずにはいられない。そんな一言をボソリと口にする。
「あの時の寝言を……」
「先生を脅迫するなんていい度胸ね、一応その寝言ってのを訊いてもいいですか?」
「では、お耳を拝借っと……」
倉原先生は秒で弱気になると、気恥ずかしそうに髪をかきあげる。
艶めかしい雰囲気を醸し出す倉原先生に緊張しつつ耳打ちをする。
その内容を聞いた途端、彼女は耳を赤らめて「そういうことなら預かりましょう」と快くガラハッドを受け取ってくれた。
そのやり取りを終始観察していた担任には、口止め料も兼ねて方天画戟を献上しておいた。
人中と謳われていた武将が愛用していたとされる戟。刺突斬打とハルバードのように扱える。
あの課外授業で今継先生の豪快な戦いっぷりを目にした時に、いつか譲り渡そうと思っていた。
お手軽収納術の片隅でホコリを被るくらいなら、誰かに使ってもらったほうがいい。
勇者時代にはそんなこと一度も思わなかったのに、どんな心境の変化だろうか。自分自身でも奇妙に感じる。この世界の風景や景色に触発されて、俺の感性もまたルーク・ランカード側よりも桜川凪側に傾いたのかもしれない。
ほんわか癒しの一時を享受する。
厄災が世界を覆うまで残り10時間。
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