33-5 倉原同盟
熱狂を帯びるバーゲン会場からひとまず距離を置く。
近くにいたら戦う以前にその熱でやられてしまいそうだ。
俺、バーゲン会場、一志達とそれぞれ約5メートル間隔で陣取っている。
あえて誰も居ない場所を選んで避難したというのに、なぜか同期の先生二人がふらふら~っと近づいてきた。俺に話しかけることもなく、先生方は教え子達が武具を選ぶのを眺めながら楽しそうに会話をしている。
俺を居ないもの扱いにするのなら、こっちに来なくてもよくない? 喉元までこみ上げてきた、その疑問を胃に落とし込みつつ、俺もまた選定する級友の姿に目を向ける。全員が第三候補までは絞り込めているようだ。同系統の武具を扱うが故に起こり得る候補被り。その時は平和的にジャンケンで雌雄を決しているようだ。
「おっ、委員長は決まったようだな……五十嵐に伊藤、国上もそろそろ決まりそうだ。あとは……まだっぽいな」
女子数名が目当てのものを大事そうに抱えてバーゲン会場から離れていく。
それからさらに10分ほど経過したが、あれ以降まだ人数は増えていない。思ったよりも長い戦いになりそうだ。この間にも時間は刻々と進んでいるってのに、こんなことになるのなら武具なんて提供するんじゃなかった。あーでも、それで万が一のことがあったら俺が罪悪感に押し潰されてしまう。
チラリと後ろを振り向き莉緒達の動向を確認すると、三者三様それぞれ思い思いに時間を潰していた。莉緒は漫画の続きを読み、ミーナは青龍偃月刀の手入れを行い、天津谷は目を閉じ瞑想している。
男爵屋敷に置いてきたと思っていた青龍偃月刀だが、ミーナは最初からずっと肌身離さず持ち歩いていた。天才魔術師はこの長物を持ち運ぶためだけに新たな呪文を開発していた。その呪文とは、対象物のサイズを縮小拡大するというものだった。ミーナは青龍偃月刀を全長5.0センチ幅0.7センチに縮小し、ネクタイピンとして使用していた。ただこの呪文には重大な欠点があった。それはサイズを変更したとしても、質量自体は一切変化しない。
つまり、いくら1/40サイズにしたところで重さは変わらないということ。常人は持つことさえ困難、例えネクタイに付けたしても立ち上がることはおろか、一歩も進むことすらできないはずだ。だが、それ以上に俺が震駭したのは、そのネクタイピンを付けてもよれず破れず形状を維持する制服だ。
制服もだけど、それを付けて平然と歩いているミーナも大概ヤベェ。
まあそこまで大事にしてくれているのなら悪い気持ちはしないけど。
「ランカードお前も大変だな、まあその責任をぶん投げた私が言うのもなんだがな」
「今継先生……笑っている場合じゃないですよ。ランカード君の顔が真っ青です、あまりにも可哀そうすぎます。彼は私の命の恩人でもあるんですよ」
「そうだったな。で、どうだったよ、ランカード?」
今継先生は俺の肩に手を置きながら問うてきた。いきなり話を振られたこともあって、何に対して訊いているのか、全くもって見当がつかなかった。ただその表情からは邪悪な笑みがこぼれていた。
「はい……? なにがですか、何の話をしてます……?」
「とぼけてんじゃねぇよ。お前が倉原を治療したんだろ? こういっちゃなんだが、倉原は同性の私から見ても惚れ惚れするものを持っている。だから、その感想を聞いてんの?」
質問の意図を理解した。ただ治療を口実に倉原先生の肢体を堪能したことを侮蔑するわけではなくて、今継先生は純粋な好奇心で訊ねてきている。言葉を濁して言ったところで、俺の担任は通じないだろうし納得もしないだろう。ならば、俺もまた本心をさらけ出すしかない。
「が、眼福でしたっ! 眼に焼き付いて離れそうにないです!!」
「あっははは、そうだろうそうだろう! 私も初めて見た時は、お前と同じで感動したもんだ!」
「な、なになになにを言っているのかな、ランカード君!? それに今継先生もなんで誇らしげなの!!」
今継先生は俺の背中をバンバンと叩きながら同志を見つけたとばかりに喜んでいる。
倉原先生は顔を真っ赤になりながら胸元を隠すような仕草をしている。
選択は間違っていなかったようだが、倉原先生の好感度がガクンと下がる効果音が脳内に流れた。
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