33-2 作戦転換
マスコットの尊い犠牲により俺と莉緒は十分ともいえる食後休憩をとれた。
まん丸だったお腹もすっかりへこみ莉緒の体型は元に戻っている。これなら今すぐ出発となっても問題ないだろう。その異常な消化速度に正直驚きを隠せない。
俺も結構な量を食べたと自負しているが、それでも彼女の半分にも満たない。途中からは一志に代わり焼肉奉行になっていたので、胃に食べ物を送り込んでいた時間も短い。にもかかわらず、俺の胃にはまだズシリと食べ物が入っている感覚が残っている。
それでもこの程度なら支障なく動ける。だが、天津谷は俺達とは異なり満身創痍だった。戻ってくるや否や、俺達を見向きもせず声もかけずソファーに倒れ込むと動かなくなった。説明する気満々ウキウキでBBQ会場に訪ねてきた天津谷の姿はそこにはなかった。
また会議を終えたミーナは俺達と行き違いで家屋に戻っていた。なかなか俺達が戻ってこないから探しに行くべきか一時悩んでいたらしいが、発想を転換しその間に出立の準備を整えることにしたそうだ。ただ思いのほか俺達が戻ってこないから、やや心配していたとかなんとか。
終電帰りのサラリーマンのようにふらつく天津谷が安定の地で横になる。
その2時間前にミーナから聞かされた作戦は、案の定というか予想どおりのものだった。
壊滅的な戦力低下を補う方法は主に二つだろう。
一つは1階層で防衛にあたっている彼らをこちらの部隊に組み入れる。防御面が手薄になる代わりに攻撃面は手厚くなる。そもそもこの最終防衛ラインは魔物大進軍が発生した場合に備えての防御策。その万が一が起こった場合に用意したセーフティラインを放棄する。
潔すぎて笑えてくる大雑把な作戦ではあるけど、存外悪いものでもない。いまこのダンジョンにいる彼らは御伽適応者の中でも上澄みに位置する傑物ばかりだ。
注意、防衛戦と雰囲気を味わわせるために召集された中等部三年生は除く。
つまるところ、どうせ魔物大進軍を阻止できなかったら町が壊滅するんだし、それなら皆でダンジョンコアを破壊しに行こうぜという、防御を捨て攻撃に全振りした作戦。
もう一つは俺達が先行部隊としてダンジョン攻略し、既存の先行部隊全員は後行部隊に組み込んで俺達が狩り損ねた魔物を一掃していってもらう作戦だ。こっちは最終防衛ラインを維持したまま作戦を継続できる。が、今まで330人で攻略していたものをたったの4人でそれを行わなければならない。
まだ47階層も残っているというのに、ここで最高戦力を投入する。普通に考えたら無謀な策だといえる。だけど、今なら確信をもっていえる。この作戦こそ俺が待ちに待っていたもの、唯一成功し得る作戦だと。
臆するどころか闘志が満ち溢れてくる。
やっと戦うことができる。やっと守ることができる。
俺以上に闘志が溢れるどころか燃え盛っていたのが、隣で目を輝かせて聞いていた莉緒こと狂戦士である。
嬉々としてカラドボルグを手入れする莉緒を横目に、俺もまた心の中でさらに誓いを立てる。
どんな手を使ってでも必ず魔物大進軍は阻止してみせる。
朝月町を、この世界を守護るためなら創世武具を振るうことにも躊躇しないと。
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