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33-1 狼群中羊

 みんなとBBQを楽しんでいたところ、見覚えのある女子中学生(JC)がこちらに近寄って来た。

 俺や莉緒と同じように匂いにつられて来たのかと一瞬頭をよぎったが、天津谷に限ってはそれはないだろう。何か用件があって俺達のもとへ訪れたに違いない。


「ここにおったか、探したぞ……です」

「おうどうした?」

「作戦の方針が決まったら、先んじてお主達に伝えておこうかと思うて参じたわけだが……まずはその肉を焼くのを一旦やめんか……です」

「肉を焼くのはダメなのに、肉の食うのはいいのかよ?」


 焼きすぎないように肉をコンロ端に寄せつつ天津谷に問いかける。

 俺の問いに天津谷は言葉に詰まりながらも正直な意見を口にする。


「あーいやだがの……あやつに何を言ったところで、絶対に食うのを止めぬぞ……です」

「さすがは天津谷よく分かってんじゃないか」


 山盛りの肉がのった皿を片手にコンロ上の肉を凝視する莉緒。その眼は狩人のそれだ。

 そんな状態のやつに食うなと言ったところで、何の意味も無いと天津谷も理解しているようだ。


「……もぐもぐ……ふぁに?」

「何でもねぇよ、たーんとお食べ」


 いつの間にか空になった皿に避難させておいた肉をトングで挟み次々とのせていく。


「……あんがと……もぐもぐ」


 野生の動物に餌を与えないでください。そんな文言がふと脳裏をよぎる。だが、餌をやる人の気持ちも分からんでもない、口いっぱいに頬張る姿を一度でも見てしまうと自然と身体が動いてしまう。ダメだと脳が理解していても、その誘惑に抗うのは難しいのだ。


 それに腹が減っては戦はできない、好きなだけ食べさせてやろう。


 方針が決まったということは、攻略の算段がついたということだ。部隊の再編成などを考えたら、早くても1時間、遅ければ2時間ぐらいで出発となるだろう。それだけの時間があれば、莉緒の膨れ上がったお腹も引っ込むはずだ。

 ギャルの概念が崩れそうだわ……ああそうだった。莉緒はギャルの皮を被った幼女だったことを失念していたわ。なんだ、ただの平常運転じゃねぇか。


「せっかくだし、天津谷も食ってかないか?」

「そうだ、な。そうするとしよう。食わぬと解放されそうにないしの。詳しいことは余達の拠点で話すから、先に戻っておれ……です」

「すまんな、箸と皿はそこにあるのを好きに使ってくれ……まあその、頑張れ。またあとでな」

「……ああ、またあとで……です」


 級友らが天津谷を観ていたことには気づいていた。次第にその距離は縮まり彼女は人海により包囲され、人ごみの渦に巻き込まれて姿が見えなくなった。逃げ場がないように四方から囲い込み捕まえる。猟師が目を付けたのは天津谷という獲物であった。


(……もしくは狼の群れに投げ込まれた羊ってことか)


 物理的に人の輪の中心にいる天津谷がどんな目にあっているのか、外からでは一切確認できない。が、酷い目にあってはいないようだ。それどころか盛大に可愛がられている。本人がその歓迎をどう受け取っているかは不明だが。


 天津谷の喋り方や尊大な態度と華奢で小柄な体躯によるギャップが、1年E組(うち)の女子に刺さったらしい。女子ウケしている理由も何となく分からなくもない。

 あのマスコットの雰囲気にどこか似ている。俺には1ミリもその良さが分からなかったマスコット。あのシガワラルという葉巻を咥えた目つきの悪いリスも女性人気が高かった。特に女子中高生の人気は凄まじいの一言だった。


「で、凪さんよぉ~。あの娘とはいつ知り合ったんだ? 微笑む向日葵(チャーミングフラワー)絶氷の女王(クールビューティー)。両手に花だってのに、まだ新しい花に手をつけようなんて、お前さんも隅に置けないねぇ?」


 一志は三文芝を打ちながら、にやけ顔で肩を組んできた。

 イラっとしたので、熱々トングでジュっとしておいた。


「お前ばっか野郎!? 皮膚から香ばしい匂いがしたぞ!!」

「そいつは重畳。で、なんのようだよ?」


 一志は目に涙を浮かべながら、クーラーボックスから取り出した保冷剤で手の甲を冷やしている。


「用がなけりゃ話しかけちゃいけないんですか? まあちょっと俺もやり過ぎたわ、悪い。でだな、あの揉みくちゃにされているマスコット……天津谷だっけか? あいつ何者だ? 後輩とも思えない威厳を感じる。まあお前らの班にいる時点でヤバそうな気はするけどもさ」

「俺もよく分かってないんだ。ただあいつは学園全体から見ても相当な権力者。ミー……姉さんが、素直に指示を聞くくらいだからな」

「はあ……マジでか? 中等部が高等部に命令? しかもこっちはあの生徒会長だぞ?」

「だよなー、俺もそう思う。けどさ、あの風格とか間近でみると、なんか納得しねぇ?」

「確かにな、なんつうか王たる威厳? みたいのを感じるわ」

「ほんとうに……あいつは一体何者なんだ?」


 その後、担任や宴に不参加の面々に別れの挨拶を済ませると、満足げにお腹をさする莉緒を引き連れて家屋に戻った。宴が終わり天津谷が解放されるのは、それから2時間後のことであった。


 魔物大進軍(スタンピード)が発動するまで残り12時間――。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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