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32-6 一時休息

 ここは過去に一度だけ休憩ついでに立ち寄った家屋。

 あまりの居心地の良さに莉緒が一泊すると駄々をこねた場所でもある。


 その一室にあるハンモックの上で俺は目を覚ました。


 ゆらりゆらりと揺られながら湖畔を眺めていたうちに、そのまま眠ってしまっていたようだ。

 室内は静まり返っていて人の気配がない。上体を起こし周囲を見回してみるが、その静寂が示すとおり周辺には誰もいない。


 置時計を見やると時刻はPM17:44を指していた。

 随分と寝ていた気がするけど、実際には昼休み(50分)程度しか眠っていなかったらしい。


「まあそれでも昼寝にしては少々寝すぎか……」


 誰かが呼びに来るまで、このままハンモックに揺られ瞑想するのも悪くはないのだが、いつ出発するか分からないし、ストレッチぐらいはしておくべきかもしれない。

 全身が凝り固まっている。特に肩と首がいい感じにバキバキだ。軽く動かすだけでポキっと音を奏でてくる。

 莉緒が寝転がっていた時は広そうに思えたけど、体格差だろうか俺には少し小さかった。でも、寝心地は決して悪くはない、それどころかずっとここでゴロゴロしていたいぐらいだ。


「ハンモック、か。莉緒が気に入るのも納得だな。男爵屋敷(離れ)に作るのもいいな。それだと自分の思い描いたサイズが用意できるし……前向き検討してみるか」


 後ろ髪を引かれる思いでハンモックから飛び降りると、運動がてら室内を見て回ることにした。

 結果として誰とも出くわすことはなかったが、そこに居たという形跡だけは、あちらこちらで発見することができた。


 キッチンのシンクにはコップなどの食器類が無造作に置かれ、ゴミ箱にはスナック菓子の袋や冷凍食品の袋などがクシャクシャにされて捨てられていた。

 浴室は使用してまだ間もないのか湿気がたまり壁や床が濡れている。脱衣所のカゴには濡れたバスタオルが硬球のように固く丸められ入れられていた。

 玄関をチェックしたところ二足あるはずの靴が一足しかなかった。


 犯人は風呂に入りサッパリした後、3時のおやつを堪能していたらしい。

 量的にも内容的にもおやつというか、ただの食事と化している気もするけど。

 欲望のままに貪り食い満足した犯人は、その足で玄関に向かい出て行った。


「食後はだら~っとするのが至高とか言っていたやつとは思えんほど、なんとまあ動きの速いこと。もう一人もまだ帰って来てないみたいだし、みんなどこに行ってるのやら……」


 ミーナは例の会議に参加しているため家にはいない。

 天津谷もふらっと外に出たきり戻って来ていない。

 莉緒は前述のとおり絶賛お散歩中だ。


 休憩階層(ブレイク)のため心配するようなことは起きないだろうけど、せめてどこに行くかとかぐらいは書き残しておいてほしかった。冷蔵庫に付箋を貼ったりとかホワイトボードもあるんだし、何かしら方法はあっただろうに。


「さてと、探しに行くとしますか。ついでにあいつらの様子でも見に行くかな~」


 靴を履いて家を出る。


 まず俺が最初に向かったのは、1年E組(あいつら)が休憩しているであろう建物だ。

 三階建ての庭付き木造家屋で部屋数は10室を超える。湖畔近くは景観を損ねないように、一軒家が多いが少し離れた位置には、こういった大人数で泊まれる建物が数多く建っている。


 一クラス(30人)ずつじゃなくても十二分に建物も部屋も余っているので、俺達のように少人数で使おうと思えばいくらでも可能だが決して行わない。

 そこは規律を重んじる星影学園、彼らはそこの学生である。この命がけの作戦も彼らの認識では授業の一環にほかならない。それに人数を細かく分けてしまうと純粋に手間が増える。連絡事項を伝える際にもその分駆け回る家屋が多くなるってわけだ。

 本来なら俺達もそのルールに従い、それぞれのクラスに一旦戻る必要がある。そこは切り札としての特別待遇ということで、俺達だけはそのルールから除外された。特別待遇がなくとも、きっと生徒会長の権限で同様の結果になっていたことだろう。


 近づくにつれて鼻腔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。

 その匂いに刺激されたのか、グゥーっと腹の虫が鳴る。


 建物が陰になって見えなかったが、どうやら庭でBBQでもしているらしい。モクモクと煙が上がり香ばしい肉の焼ける匂いと音。先の家屋で莉緒ほどではないにしろ冷凍チャーハンは完食している。にもかかわらず、何も食べてないと胃が激しく主張してくる。


 視覚、臭覚、聴覚がその一瞬で支配される。


「この匂いは卑怯だよな……」


 独り言を言いながら誘われるように庭へと向かう。

 そこにはバーベキューコンロを囲って、賑やかに食事を楽しむ級友らの姿があった。

 その光景が目に入った瞬間に、チクリと心に鋭利な物が刺さるような感覚を覚えた。


「おっ、なんだ……お前も匂いにつられて来たのかよ!?」


 トング片手に一志は笑いながら声をかけてきた。その発見報告を発端にぞろぞろと級友が近寄ってくる。その中には、空き袋から判断するに測定2000キロカロリーを摂取したはずの人物の姿もあった。

 その人物は箸と皿を持ち、忙しそうに口を動かしていた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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