32-3 糸目女子
次の階層に向かう前に一度作戦会議を開くこととなった。
会議といっても作戦内容を再確認するだけの簡易的なもので10分もかからず閉会した。
召集された代表者は生徒会長のミーナ、各学年の先生が一人ずつと、ミーナと親しげに話す女子生徒の計五名。
天津谷もこの会議に参加するのかと思っていたが彼女は不参加だった。それどころか彼らと距離を置くように早々とゲート前まで移動していた。今回の件に深く絡んでいるのは、火を見るよりも明らかなのに、無関係ムーブをかましている。
ボロが出ないようにしているのか? もしそうなら天津谷は俺達に何を隠している? 先の言葉といい、ミーナを御したりとただの女子中学生ではないことは明白。本当に底の知れない謎多き少女だこと。
そんな謎多き少女がもう一人いた。
前髪で片目を隠した糸目の女子高生。
会議に召集された先生三人の顔は見たことはある、なんなら普通に挨拶したり会話もしたことがある。だが、あの女子生徒だけは知らない。ミーナの知り合いだということは何となく分かる。
生徒会室という名の避難場所に退避するついでに、全学年の廊下を練り歩き教室を覗き見していた。なんか色々と誤解が生まれそうな言い回しになってしまったが、つまるところ俺は彼女を見たことも会ったこともない。
完全記憶能力だとか、そんな凄い能力を持っているわけでもないが、あんな個性的なキャラを忘却できるほど俺は無関心でも鳥頭でもないはずだ。
前髪を固定するだけなら一つで事足りるだろうに、彼女の髪には余りある量の髪留めがついていた。
金の亡者を体現したような札束を模したヘアピンが前髪を埋め尽くしていた。
生徒間で絶氷の女王と呼ばれるほど、喜怒哀楽を顔に出さないことで有名な生徒会長が、人目をはばからず談笑している。俺や莉緒の前でしか見せなかった微笑み、声に出して楽しそうに話している。
莉緒ですらミーナの氷を溶かすのにそこそこ苦労していたというのに、それを容易く……あいつは一体誰だ? 天津谷との関係性もまだ把握できていないってのに、次から次へと新キャラが登場しやがって。
兄として妹の交友関係は知っておく必要がある、早急に把握……いや掌握しておかねばなるまい。
そう心に誓った矢先、ミーナがその要注意人物を連れて戻ってきた。
「にい……凪君、莉緒さん。10分後に出発します、詳しい話は進みながら説明します。ひとまず詩織さんと一旦合流しておきましょう」
ミーナはそう言うと、遠方で一人ポツンと座っている天津谷に視線を向ける。
「了解だ……」
「ええわかったわ。やぁっと、このカラドボルグちゃんの出番が来るのね♪」
うっとりした表情で莉緒は愛剣を見つめている。
その次に彼女がした行動に俺は目を疑った。
少しでも角度を見誤れば、スパっと逝くであろう剣身に顔面を埋めるように頬ずりしている。
摩擦で頬が赤くなっても気にすることなく続けている。さらに恐ろしいのが、その状態を継続したまま真っすぐと歩いていることだ
その莉緒のあとに続いてミーナもまたスタスタと歩き出した。
流れ的に要注意人物を紹介するものだと思っていた。
どうやらそれは俺だけじゃなくて、彼女も同じだったらしく呆然と立ち尽くしている。
取り残された者同士、同調し合うように自然と目を見合わせる。
先に喋り出したのはむこうからだった。
「あんさんが、ルークはんやんね? うちは稲荷崎狸佳子っていいます。副会長してます。よろしゅう頼んます」
「あっどうも……ミーナ・梢・ランカードの弟のルーク・凪・ランカードです。いつも姉が世話になっています。って……副会長!?」
「そないに気負わんでもええよ。名前だけ大きくなってもうたけど、うち生徒会の仕事なんもやってへんから、気負われるとうちが辛抱たまらんくなる」
「あーなるほど? 分かりました、副会長」
「固い! 硬い! 堅い! もっと気楽でええんよ。そうや、ミーナ先輩に話しかける感じでいこか!」
生徒会長に次ぐナンバーツーの権力者。学園においては序列四位といったところか。
ミーナと顔見知りな理由も気軽に話し合える相手だというのも納得がいく。
ただそんなことがどうでもよく思えるほど、この副会長の喋り方や仕草が気になって仕方がない。
聞いててむずがゆくなる似非関西弁。異常なほど多い身振り手振りついでに繰り出される過剰な接触。
ペタペタペタペタペタペタ――。
莉緒やミーナと同等かそれ以上の勢いで身体を触ってくる。
このつかみどころのない感じというか、次に何をしでかすのか予想がつかないところがちょっとだけ苦手かもしれれない。
「へぇ~ほぉ~ふ~ん。ミーナ先輩によう似て、ええ身体にええ顔してんなぁ~。惚れ惚れしてまうわぁ~」
「はあ? どうも……」
「なんやの、その愛想ない返事。褒めてるんやからもう少し喜び……あーそういうことかいな?」
副会長の目が薄っすらと開き口元は不気味に歪む。
もうその時点で嫌な予感しかしない。数回会話のドッチボールをした時点で、理由をつけてさっさと離脱するべきだったかもしれない。
「副会長すいません。三人が待っていますので、また今度……」
断りの言葉を口にしその場を後にしようとしたが、腕首を掴まれ見事に失敗した。
次の瞬間、程よい弾力が手のひらに伝わってきた。
モニュムニュモニュムニュ ――。
彼女は俺を手を自身の胸に押し当てては、こっちの様子をうかがっている。
首を傾げては角度や力加減を変えたりして何度も行ってくる。
本当に、本当に、本当に意味が分からなかった。
あまりの意味不明さに脳が処理することを放棄してしまうほどだった。
儀式めいた謎行動から数秒後、鬼気迫る表情で駆けつけた莉緒とミーナのより離脱に成功する。その対価として、俺は数時間にも及び二人から根掘り葉掘り訊かれることになる。
それはあまりにも尋問じみていた。
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