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32-2 援軍到達

 故郷が灰燼と化す、それを阻止できるのはここにいる四人だけかもしれない。

 そんな危機が迫る状況にもかかわらず、俺達は緊張感の欠片すらない時間を過ごしていた。


 ただその無意味だと思える時間のおかげで、心にゆとりができたのもまた事実。だが、こうやっていま休憩している間も、魔物大進軍(スタンピード)発動までのカウントダウンが進んでいるのもまた事実だ。


 もう十分休んだし、そろそろ出発するべきじゃないか。そう天津谷に声をかけようとした時だった。

 彼女は遠方に視線も向けてニヤリと微笑んだ。悪寒を感じるほど、中三とは思えない何とも邪悪な笑みだった。


「お主ら立て、休憩は終い……です」


 その言葉を発した刹那、ほんわかとしていた暖かな空気が一変し、寒風でも吹きすさんだかのような張り詰めた空気が一帯を支配する。

 その様変わりに呆気にとられる俺をよそに天津谷は、制服についた土汚れを手で軽く払い立ち上がる。莉緒とミーナは私語を中断すると彼女の従い腰を上げて、同様の仕草を行いつつ出立の準備を整える。


「お主もさっさと立たんか……それとも何か? まだ休み足らんのか……です」

「あっいや、そういうわけじゃない。お前が急にやる気出してきたから、ちょっとビックリしただけだ」


 天津谷にそう言い返しつつ立ち上がる。


「さて……勇者よ、お主がずっと気になっておった一つ目の答えが来たぞ(・・・)……です」

「何のことだ? 天津谷お前は何を言っている?」

「凪って、こういうことには鈍感よね……」

「それは違いますよ莉緒さん。兄さんはこういうことにも(・・・・・・・・)鈍感です……」

「ああ……確かにあんたの言うとおりだわ」


 ケラケラと二人は楽しそうに談笑している。

 あれほどマウントを取り合っていたはずなのに、すぐに元通り仲良くなっている。


 俺にはこの感性は一生理解できそうにない。


 とても凄く失礼なことを本人の前で言っている自覚は、彼女達にあるのだろうか、いやあるんだろうな……まあそのイジリにより、先ほどまで感じていた張り詰めた空気は、陽光が差し融解する氷のように暖かなものへと戻っていた。


「はあ~、よくそんな愚鈍な感性で今まで生き残れてきたのか。その愚鈍な感性の持ち主に殺された余の気持ちがお主に分かるか……? まあ今は良いか、さて……凪よ。準備をせい……です」

「準備ってなんの? それに俺に殺されたとか物騒なこと言ってなかったか? お前、小出し小出しで言ってくるから、よく分かんねぇんだよ。つまりはどういうことだ? ズバッと言ってくれ!」

「ズバッとか? 余が言わずともその眼で見てみれば、自ずと一つ目の答えは分かると思うがな……です」


 天津谷は俺の問いに片方の手で頭を掻き、もう片方の手で10階層へと続くゲートがある方向を指差した。


「あの者達って……えっ、ウソ……だろ? なんであいつらがここにいる? てか、なんだこの人数……」


 そこには担任に引率されながら隊列を組んで、こちらに向かってくる1年E組の姿があった。

 その見覚えしかない面々の後方には、ざっと数えて300人、10クラス分の生徒と担任がザッザッと行軍のように足並みを揃えている。


 天津谷は一言「援軍だ……です」とポツリと呟く。


 そこでようやく天津谷の不思議な行動に合点がいった。

 ゆったりとした歩行といい、ここでの小休止といい、これらは全て彼らが戦準備を整えてダンジョンに来るのを待つための手段。11階層(ここ)で休憩することを選んだのも、12階層以降は魔物やボスが蔓延っているからだろう。


 彼女が何を考えていたのかは理解したが、それでもやはり納得はできない。

 そんな回りくどいことをするぐらいなら最初から一緒に行動すればいい。俺達を先遣隊として扱うのであれば、ダンジョン攻略を進めるべきなのにそれもしていない。


「その無駄だと思える時間があったからこそ、余を理解したり現状把握する余裕ができただろう……です」

「……確かにな、お前が権力者ってのは分かった。だが、まだお前が何者か教えてもらってないけどな? 俺のことを勇者と呼んだり、殺し合うような知り合いなんて、こっちの世界には一人としていねぇからさ」

「幾度もそれらしきヒントは与えているのだがな。余としてもここまで気づいてくれないことに、正直困り果てておる。一人称を変更したからか? でも今さら余自ら正体を明かすのは、なんか負けた気がしてな……です」

「わかる、わかるよ! 詩織ちゃん!!」

「ええそのもどかしい気持ち、わたくしも痛いほど分かります!!」


 二人はウンウンと頷きながら、莉緒は右手をミーナは左手をそれぞれ掴み天津谷と熱い握手を交わす。

 その熱烈な歓迎に天津谷の身体は肩を軸として前後左右激しく揺れている。壊れる一歩手前の玩具といったところだろうか。

 見ている側としては、肩関節が外れるんじゃないかと心配になってくるが、当の本人はまんざらでもないようで、平然とその歓迎を受け入れている。


 何はともあれ親睦を深められたのならいいんじゃないかな、その題材が俺を嘲弄する内容だとしても……。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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