32-1 心情孤立
天津谷に先導されながらゲートを目指して歩みを進める。ゲートを通過し次の階層にたどり着くと、次は何をする? 答えは簡単……またゲートを目指して足を動かすのだ。それも終わったら何をするのかって? それはもちろんまたゲート……無限ループに陥った人の気持ちが、ほんのちょびっとだけ理解できたかもしんない。
(まあつっても、こっちはゴールがあるから数百倍マシなんだけどな……)
階層ごとに様変わりする景色を楽しみながら、ただひたすらに歩く、歩く、歩く。
道中、ボスどころか魔物の一体すら見当たらず平和そのものだった。合同課外授業班の尽力により、訪れた階層に生息していた魔物は全滅していた。
かれこれそんな感じの平穏な状況が暫くの続いた時だった。先行く少女がゲート前で足を止めると、その場で腰を下ろし休憩し出した。
時間制限は刻々と差し迫っているというのに、天津谷はどこからともなく取り出したペットボトルで喉を潤す始末だ。
「……なあ天津谷、時間ないんだよな?」
「ごくごく……ぷはぁ~。いや、まだ19時間と49分51秒残っている……です」
「じゃー大丈夫そうだな!」
「うむ、全くもって問題ない。お主はもう少し心に余裕を持つべきだと思う……です」
「うなわけねぇだろぉー! まだ11階層だぞ、100階層までどんだけあると思ってんだよ!!」
「はあ、五月蠅いやつだな。お主も二人を見習って休憩してはどうだ……です」
右左と首を振り確認すると、両隣にいたはずの莉緒とミーナの姿が消えていた。
正面に視線を戻すと二人が天津谷の近くに座り、彼女が用意したペットボトルを片手にクッキーをつまんでいた。最初からそこにいたかのようにくつろいでいた。
二人が移動したことに1ミリも気づかなかった。
そんなバカなことがあるか? いくら気が緩んでいたとしても、気づかないなんてことはあり得ない。密着するように引っ付いて歩いていた二人が離れたことに気づかない。神経を遮断でもされていない限りそんなこと起こり得ない。となると、こうなった要因は俺以外にあるはずだ。
これもまた天津谷が秘かに何か行ったに違いない。
それにどうしても納得がいかない事象もある。
四つ目のゲートを通過したタイミングで、腕をからませて離れようとしなかったミーナが、興味無さそうにこっちをチラ見して終わりなわけがない。ミーナならきっと俺に飲み物を勧めたり『兄さんも休憩しましょう』と、声をかけてくれるはずなんだ。
「俺の妹が、お兄ちゃんっ子のミーナが、あんな冷めた目で俺を見るわけがないんだあぁぁ!!」
俺の魂の叫びがダンジョン内に木霊する。
ひとり佇み嘆く俺に対して、女子三名の反応がこちらとなっております。
「……はぁ? 凪あんたガチで大丈夫? 調子が悪いんなら、ここで休憩しとく? あたしがチャチャッとコアってやつ、もっかいバチコーンってしとくから休んでてもいいわよ?」
「あああああああ……そんな捨てられた子犬のような目で、わたくしを見ないでください……これ以上は癖になってしまいます」
「本当に、お主あの勇者なんだよな……余って、こんな変態に負けたのか……です」
幼馴染は気が狂ったのかと疑いつつも心配してくれた。
妹は恍惚な笑みを浮かべて身体をくねらせている。
先導者はこめかみに手を当て当惑した表情でこちらを見ている。
見事なまでの三者三様だ。
その中で、唯一こちらに歩み寄ってくれた莉緒の思いやりについ目頭が熱くなる。
「ガチで幼馴染しか勝たん……」
ポツリと呟いた言葉を口切りにまた各々が反応を示す。
「違うんです、違うんです兄さん……わたくしだって、口には出しておりませんが、胸の内では心配しております。本当、本当なんです……」
「えっええええええ――――ふ、ふふん。やぁっとあたしの偉大さに気づいたようね、凪。ミーナよりもあたしのほうが、あんたのことを大切に想っているのよ! あっははははは!! これが勝者が見る景色なのね。あっは――お茶が美味しいわぁ♪」
「……なんだこいつら、余は選ぶ仲間を誤ったか。だが、能力と性格はまた別だしな……頑張れ、天津谷詩織。余がここで心を挫けば、そこで全て終わってしまう……です!」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。