31-4 大量発生
生徒の中にも重傷者はいたけど誰一人として死んではない。ミーナからそんな話を聞いたことで安堵し、気が緩んでいたのかもしれない。この異常事態がこれほど洒落にならないものだとは、夢にも思わなかった。
事態の収拾に失敗すれば俺達の町が、朝月町が地図から消える。状況によっては被害はさらに深刻なものとなるだろう。町を隔離しているあの防壁は意味をなさず、隣接する町々が朝月町同様に地図から消失する。
異世界人が厄災と呼び畏怖していた現象。
一度だけ俺も経験したことがある、あれがこの町で起こるというのか? あんなこの世の終わりのような光景が、この町で繰り広げられる、再現されるかもしれないってのか? 絶対に絶対に止めてやる。何が何でも絶対にだ。
その厄災の名は――魔物大進軍。
その名のとおり、ダンジョンに魔物が大量発生し進軍を開始するというものだ。発生条件は不明でいつ起こるか分からないはずなのに、第四段階として仕掛けられているとは予想だにしなかった。
魔物が増殖し溢れかえる程度なら、運動ついでに間引きするか、その現象が鎮まるまでダンジョンに潜らなければいい、そう思うかもしれない。それで解決するなら誰もこんなに悩まない。
本来、ダンジョンで生まれた魔物はゲートを認識することも通過するこもできない。が、特定の条件下においてはそれらが可能となる。その条件こそが魔物大進軍。だが、魔物もまた俺達同様にゲートの制約を受ける。魔物の大量発生は各階層一気ではなくて、最終階層から順次出現となる。その数が一定数を超えると、次の階層で出現と切り替わっていく。
そのため1階層、外界へと通じるゲートを魔物が通過するまでは、思いのほか猶予は残されている。ように見えるが実はそうではない。
この魔物大進軍を止めるには、ダンジョンを消滅させなければ終わらないのだ。
ダンジョンを消滅させるには最終階層にあるダンジョンコアを破壊しなければならない。
だけど、そのダンジョンコアを破壊しに行くためには、絶え間なく出現する魔物の群れを蹴散らし、各階層のボスを撃破しないといけない。
絶望である――。
ただそれでも救いと呼ぶにはあまりにも辛いものだが、方法がないわけでもない。
一番手っ取り早いのは、魔物大進軍が自然消滅するまで耐え続けることだ。魔物が一体でもゲートを通過し外界に出現した瞬間に、魔物大進軍による追加増産は停止する。ただダンジョン内で魔物を一体でも倒してしまうと、また追加増産が再開されてしまうため注意が必要だ。ダンジョン産の魔物は外界適正がないので、ほっておいても約3日ほど経過すると勝手に自滅していく。
つまるところ、それらの魔物全てが自滅するまでの間、町が人が物が、蹂躙され破壊尽くされるのを見て見ぬふりをし、魔の手が届かない場所まで逃げ切ればいい。
故郷は失われるかもしれないが自身の命は助かる。自然現象、台風や津波にでも襲われたのだと思って余生を楽しめばいい。だって、あなたは生きているのだから……。
魔物大進軍により故郷を追われた人々は、誰もがそうやって魔物に憎しみを抱くことはなく、笑顔でその残酷な現実を受け入れていた。
異世界人の彼らにしては、ただの『自然現象』だとしても俺には、到底受け入れがたいものだった。
そんな自然現象たる魔物大進軍の発動条件。それは第三段階が発動してから、24時間が経過してもなお、ダンジョンコアが破壊されていないこと。
最終階層に再配置された本物のダンジョンコアを、あと21時間と19分の間までに粉微塵にしなければならないってわけだ。
やっぱ悠長に歩いている場合じゃないのでは……そう思ったが、天津谷の急がば回れ精神により、現状把握することはできた。が、やはりこんなにのんびりして大丈夫なのか、本当に時間内に間に合うのかという不安がよぎる。
いや、ほんと……優雅に闊歩するんじゃなくて、全力疾走とまではいかずとも、せめて駆け足ぐらいはするべきなんじゃないだろうか。
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