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31-2 第一階層

 少女が言っていた『ダンジョンコア』というのが、莉緒が昨日壊したあの胸像のことを指していると思っていたが、どうやら俺の読みは外れたらしい。胸像イコールダンジョンコアであるなら、俺達は100階層に転送されているはず、だが実際はゼロが二つほど足りない1階層に転送されていた。


 29階層からダンジョン攻略を開始したため1階層に降り立つのは今回がはじめてだった。

 朗らかな天気と通り抜ける浜風が心地いい、今回の件が片付いたらもう一度皆でここに来るのもいいかもしれない。


 太陽などの光源は見当たらないが昼間のように明るい。靴底が浸る程度の青く澄んだ海水、底には白砂が敷き詰められている。ダンジョン特有の謎光源により、海面はキラキラと輝き白砂は光を反射し顔面を照らしてくる。光から逃れようにも見上げても見下ろして、その光りは顔面を狙ってくる。白砂が混じった海水は移動に合わせて飛び跳ね足裾を濡らす。


 前言撤回……休憩階層(ブレイク)最高。


 正面奥、白と青の水平線が続く境界線の果てに黒い靄が揺らめいている。


 この階層は永久に続く浅瀬の白浜を真似ているため障害物がないのはまだ理解できる。が、魔物の一体すらも見当たらないのは、どういうことなのだろうか? まさかとは思うが、彼らは1階層に出現する魔物相手に苦戦したとでもいうのか。

 1年生ですら、赤子の手をひねるぐらい楽に倒せる魔物を、2年生3年生ましてや、あの倉原先生が生死の境を彷徨うほどの重傷を負う……本当に笑えない冗談だ。

 彼ら以外にも課外授業を行っていた人達がいたかもしれないし、まだそうだと判断するには時期尚早。だが、もし俺がいま感じているこの予感が正しいのであれば……。


 その答えを求めるかのように先行する少女を見やる。


「なぜに……?」


 少女の隣にはミーナが並行し歩いている。普段なら引っ付き虫のように一度密着したら離れようとしない。なのに、今回は最初から最後まで一定の距離を保ち俺の傍に寄ってこない。それどころか愛槍の青龍偃月刀すら持って来ていない。プレゼントした時はあれほど喜んでいたし、それ以降もダンジョンに潜る際は必ず持参していたというのに、いまはその陰すら見えない。

 なんだろうか……この気持ちは、兄離れしてほしいと願っていたはずなのに、心の奥底がモヤついて仕方がない。そんな心情を抱きながらチラリと隣を見てみると、カラドボルグを担ぎ目をギラつかせている莉緒の姿があった。いつもどおり平常運転で安心したけど、こっちはこっちで大丈夫なのかと、これまた心配になってくる。


「このまま無言で散歩というのも味気ない。行きながら今回の異変について話してやる……です」


 その言葉を皮切りに少女は後ろ歩きで進みながら淡々と語り出した。

 彼女の口から聞かされた内容は耳を疑うものだった。


 こんな悠長にダラダラと歩いていていいのかと、今すぐにでも全速力で最終階層に向かうべきなんじゃないかと焦燥感に駆られる。

 莉緒もまた思うところは同じようで、カラドボルグを握る手に力が入っている。だが、俺達が暴走し先に行かないように先んじて少女は、その紅玉の瞳を向けて『馳せるな』と制してくる。


 とって付けたようなフザケた語尾。

 中学生とは思えないほど発育不足な体躯。

 そんな少女から放たれているとは到底思えない覇気。


 睨むわけでもなくスッと目を向けられただけで、呪縛をかけられたかのように意思が挫かれる。

 もう歯向かう意思なしと判断されたのか、少女は目を細めて口元を綻ばせる。


「……よく自制した。偉いぞ、では続きを話としよう……です」

「はい、お願いします」

「よろ~」

「あああああ……子犬のように震えて可哀そうな兄さん」


 子供に絵本を読み聞かせるような優しい声色だった。

 こうなってくると、俺らのほうが年下なんじゃないかと思えてくる。


 生徒会長(ミーナ)に呼び出されて初対面した時のことを思い出す。気を許し油断すれば、沼に引きずり込まれ、気づいてた時はもう信者(ファン)になっている。雰囲気や容姿とかは全然違うはずなのに、なぜか少女の言動が被ってみえる。


 それはそうと、一人だけなんか俺達とは違う方向性のやつがいた気がするが……きっと気のせいだな。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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