表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実の裏には魔法がある  作者: ロタ
19/41

19話『師匠との修行①』

るな師匠との修行を始めてから、あっという間に1週間が経った。


学園では終業式が終わり、夏休みに突入したものの、俺の日常はむしろ休みどころかさらに過酷になっている。


全身には傷が絶えず、擦り傷や打撲は当たり前。痛みを堪えながら、凛との訓練がどれだけ優しいものだったのかを思い知らされる日々だ。


「3ヶ月で強くなるんだ、覚悟を決めてもらうよ」そう言った師匠の目には一切の容赦がない。


師匠の修行は、基本的な筋力トレーニング、模擬戦、そして特殊な魔石を使った訓練の3本立てだ。

特に特殊な魔石を使った訓練は、王石に頼らず自分自身の魔力を高めるためのものらしい。

訓練方法としてはその魔石に対して自身の魔力を流し込みその量と出力によって破壊すると言うもの

師匠曰く、「魔力量を増やし、出力の最大を上げる事は結果的に王石融合時の身体的負荷が軽減できる」との事だ



その日の模擬戦後、休憩中に師匠が俺に問いかけてきた。

「ところで真、学園に編入する時に武器は何か買ったかい?」


「ああ、杖剣ってやつを買ったんだけど……」

そう答えると、師匠は興味深そうに眉を上げて言った。


「杖剣か...見せてごらん」


俺は鞄から杖剣を取り出して渡す。師匠はそれをじっと観察した後、尋ねた。


「コレに何か名はついているかい?」


「えっと……確か『レイガル』って言ってた気がする」


師匠は「なるほど」と頷きながら、それ以上は詳しく触れずに話を切り替えた。


「今日からはその杖剣を模擬戦で使っていく。

だが、一つだけ聞いておく。

杖や剣のそれぞれの戦い方を理解しているのかな?」


「えっと……なんとなく?」

俺の曖昧な返事に、師匠は苦笑しながら

「なら、一から教えなきゃいけないね」と呟いた。


「まず杖の戦い方は、本来、距離感を見誤らないことが一番重要だ。

近距離で魔法を撃てば、当然自分も巻き込まれる危険がある。だから、ある程度離れた場所から放つのが基本だ。」

師匠は杖を軽く振りながら、当たり前のように語り始めた。


「一方で、剣の戦い方も距離感が重要だが、それ以上に必要なのは――相手の懐に飛び込む覚悟だ。ビビって間合いを詰められなければ、攻撃そのものが成立しないからね。」

杖と剣、それぞれの特性を噛み砕くように話す師匠の言葉に、俺は自然と頷いていた。


「だが、杖剣はその両方の戦い方を踏まえた上で、状況に応じて判断する必要がある。だからこそ難しい。

戦闘経験が浅ければ浅いほど、その判断を適切に下すのは困難だ。ましてや、剣と魔法の両方に長けた者なんてそう多くはない。だから杖剣はマイナーな武器とされている。」


確かに、凛も買う前にそんな事を言っていた気がする


「でも、もちろんメリットもあるぞ。

相手が魔法使いなら間合いを詰めることで完封できるし、相手が剣を使うなら、魔法で遠距離から攻撃したり、近づかれても斬り合いが可能だ。」


師匠の説明を聞きながら、俺は無意識に杖剣を手に取った。

両方の強みを持つ武器――その言葉に少しだけ希望が湧く。

だが、師匠は俺の様子を見て、苦笑いを浮かべた。


「もっとも、君の場合は時間がない。

器用にどちらも完璧にこなせるようになるのは難しいだろう。だから、とりあえずは片方に絞るべきだな。」


「片方に……?」


「ああ。真には、剣のスタイルで近距離戦を主軸に戦うのをおすすめする。

対人戦なら、一年生を相手にしたとき、下手に魔法で挑むよりも剣で間合いを詰めた方が勝率は高い。それに、怪物相手でも、今の君の魔法の展開速度では、少し囲まれただけでどうにもならなくなる。」


言葉の重みが、ズシリと胸にのしかかる。

確かに、自分の未熟さは身に染みてわかっている。

それでも師匠の口調にはどこか優しさが混じっていて、不思議と絶望感はなかった。


「とはいえ、魔法戦を全く挑むなとは言わないよ。

3ヶ月後の君には、切り札が二つあるはずだ。

一つは『王石融合』。そして、もう一つは、さらに練度を上げた『炎の槍』だ。」


「炎の槍……」

思わず呟く俺に、師匠は笑みを浮かべた。


「王石融合は近接戦の切り札、炎の槍は遠距離攻撃の切り札だ。

でも、君の炎の槍は一度見せてもらったけど、展開速度が致命的に遅い。今のままでは、まともに撃つ前に相手に叩き潰されるのがオチだろうね。」


思わず苦い顔をしてしまう俺に、師匠は杖を軽く肩に担ぎながら続けた。


「ただし、撃つタイミング次第でその弱点は克服できる。

例えば、相手が剣撃を警戒して間合いを取ろうとした瞬間だ。

その瞬間、相手は自然と距離を取ろうとするし、意識も剣に集中する。だから、その隙に一気に陣を展開するんだ。相手が気づいたとしても、剣の間合いで勝てないとわかれば、安易に近づいてはこないだろう。」


「……なるほど。」


「さらに、結界を使って防御を固められれば時間を稼げる。結界と炎の槍を同時に扱い、それを高いレベルで実行できれば、新たな攻め方として活用できるはずだ。」


「でも……炎の槍だけに頼り切るのは危険、ってことですよね?」


「その通りだ。炎の槍も強力だけど、過信は禁物だ。たとえ結界が突破されなくても、相手が冷静に対処すれば炎の槍は避けられる可能性は十分にあるし、そのまま反撃される恐れもある。」


師匠の言葉を胸に刻みながら、俺は杖剣を握り直した。


「まあ、今のはあくまで一つの策としての提案だよ。さて、もう少し休憩を挟んだら――杖剣を使った模擬戦をやってみようか。」


師匠が微笑みながら言ったその言葉に、俺は再び気を引き締めた。


休憩が終わり、お互い位置に着く。

俺は初めて杖剣を構える。

だが、その構えは自分でも分かるほどぎこちない。そんな様子を見た師匠――るな師匠は、容赦なく魔法を放ってきた。


「さぁ、来な!」


師匠の声とともに、空間を裂くような魔法の弾幕が俺を襲う。

俺は瞬時に結界を展開しながら突っ込むが、今の俺の結界では受け切ることはできない。

何発か弾きを試みたものの、結界が砕ける音が耳元で響く。


「くっ…!」


それでも後退はしない。俺は弾幕の合間を縫うようにして全力で駆け抜け、少しでも距離を詰める。


途中、王石を握り込み、意識を集中させた。王石が魔力を引き出し、俺の手から炎の玉が複数生み出される。


「行けぇッ!」


俺はそのまま全ての炎の玉を師匠に向けて放った。

だが――

師匠は手を軽く振るだけで、その炎の玉を次々と消し去ってしまう。

「攻撃の意識が弱いね。ただ撃てばいいってもんじゃない」

その余裕たっぷりの声に、悔しさが込み上げる。

それでも、あと少しで間合いに入れる。その瞬間、足元に違和感を感じた。


「!」


次の瞬間、足元から雷が天に向かって迸る。

師匠が仕込んでいたトラップの雷魔法だ。

だが、この1週間で俺は何度もこの手の罠を食らっている。だから事前にその可能性は考慮していた。


「さて、避けられたかな?」


避けられたかな?避けられるわけがない。師匠の不可視の陣を俺は現状見破れないのだから。


俺は雷に耐えながら、それでも一気に踏み込む覚悟を決めた。

電撃の痺れが足を襲うが、怯むことなく、杖剣を振り上げる。

そして間合に入れた、そう思い全力の一撃を振り下ろす――

だが、俺の剣は片手で軽々と受け止められた。


「よく頑張った。でも、この剣じゃダメだね」

師匠は片手で俺の剣を弾き返すと、少し笑みを浮かべながら続ける。


「剣が軽い。まるで相手に避けてくれ、いや止めてくれって言ってるようなもんだ。」


その一言に俺は痛いところを突かれ、思わず顔をしかめる。


「まぁ、剣なんて振るったことがないんだから仕方ないさ。でも仕方ないで済ませられるのはここまでだよ。今日から今までのメニューに追加で素振りもやってもらう。あと私の教えられる流派でだけど、剣舞の基本も叩き込むから覚悟してね」


俺は増える課題に少しげんなりするが、それでもやる気は失わない。「分かりました!」そう元気よく答えた俺を見て、師匠は満足そうに頷いた。


そのあと、流石に筋トレやランニングの距離を少し減らしてもらえないかと聞いたが――当然のように却下された。



訓練が一区切りついた後、師匠は剣の流派について語ってくれた。

「剣にはいくつもの流派がある。その中でも特に有名なのは4つだ」


まず最初に紹介されたのは《斬光流》だ。斬撃の連鎖で相手を圧倒する攻撃型の流派で、一度振り下ろした剣を止めることなく次々と攻撃へと繋げる。

力強さと速度が鍵だという。


次に挙げられたのは《流水流》。

その名の通り、水のように柔軟で流れるような動きが特徴で、攻撃を受け流しながら反撃の隙を作る防御型の流派だ。相手の力を利用して反撃に転じるため、冷静さが求められる。


3つ目は《迅雷流》。瞬間的な速度と一撃の火力を重視し、電光石火の如く斬撃を繰り出す流派で、剣に雷や風の魔力を纏わせてその威力と速度を増幅させる。

師匠自身が得意とする流派だという。


最後に紹介されたのは、《魔封流》。

闇属性の魔力を纏った剣で魔法そのものを断ち切る流派で、対魔法使いに特化している。

魔法を防ぐだけでなく、相手の魔法を「封じる」応用技術も存在するらしい。


「どれも難しそうだな……」

俺がそう呟くと、師匠は微笑みながら言った。

「難しいからこそ、学ぶ価値があるんだよ。

さて、真。私の場合は迅雷流しか教えてやれないが、もし他の流派の方が学びたいなら私が誰か紹介してやるがどうする?」


「紹介してくれるのはありがたいですけど、まずはるな師匠の迅雷流を身に付けたいです!」


俺の正直な気持ちを口にすると、師匠は少し驚いたような顔をしてから、柔らかく微笑んだ。


その日の夜、ベッドに倒れ込んだ俺は、修行の疲れに全身を襲われながらも、少しだけ前進できた感覚を覚えていた。

この先、どれほど辛い修行が待っているのか――いや、それを考える暇なんて今の俺にはない。目の前の課題を一つずつクリアしていくだけだ。


〈るな師匠の豆知識〉


白石るなは小柄な体格ゆえ、一般的なサイズの武器を扱えないわけではないが、小回りが効きにくい。

そこで、彼女は自分専用に調整した特注の刀を使用している。その刀は、彼女の体格に合わせてわずかに短く軽量化されているが、迅雷流の鋭い動きと一撃の重みを損なうことなく設計されている。

これにより、白石るなは小柄な体を最大限に活かした高速かつ精密な剣技を可能にしている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ