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現実の裏には魔法がある  作者: ロタ
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16話『魔道祭とは』

校舎を出た瞬間、肌を撫でるひんやりとした風に一日の疲れが少しだけ和らいだ。

空は茜色に染まり、校庭の端に延びた木々の影が長く伸びている。


校門を歩く生徒たちもちらほら見かけるだけで、放課後の学園はどこか静かだった。

ふと視線を前に向けると、校門近くの駐車場に停めた車にもたれかかる夏希さんが、こちらに気づき軽く手を挙げた。

どこか余裕を感じさせる仕草が自然と目を引く。


「真くん、凛ちゃん、こっちよ。」

その声に促され、俺と凛は足早に駐車場へ向かった。


車に乗り込むと、革張りのシートがひんやりと冷たく、外の風とはまた違った落ち着きを感じさせた。エンジンがかかると、静かな振動が車内に伝わり、夏希さんの穏やかな声が響く。


「それじゃあ、お二人さん 家まで送るわね。」


「ありがとうございます、夏希さん。」

凛が丁寧に礼を言う。

俺は何気なく助手席の凛に目を向け、気になっていたことを口にした。

「そういえば、終礼の時に言ってた“魔道祭”って、結局どういう催しなんだ?」


凛は助手席から顔を出して話始める「秋華魔道祭(しゅうかまどうさい)」の話を始めた。


「さっき言ってたのは、秋華魔道祭のことだね。簡単に言えば、学生たちが自分の実力を現役魔導士に見せるための舞台みたいなものかな。」


俺が軽く頷きながら聞いていると、凛は続ける。

「秋華魔道祭はね、現役魔導士たちが見に来て、師弟関係を結んだり、魔導警察とか、軍隊の魔法部門みたいなところから推薦をもらったりできるの。あと、個人戦の優勝者には、毎年凄い高価な杖や魔道具が贈られるの。」


「へえ、そんなすごい大会なのか。」


俺が目を輝かせると、後部座席の夏希さんが会話に加わった。


「私も学生の頃に出てたわよ。あの頃は面白かったなあ。」


「そっか夏希さんも出てたんだよね」俺が言うと、彼女は懐かしそうに微笑んだ。


「ええ、でも私は学校代表には選ばれなかったから、団体戦には出られなかったの。

『五校杯』って呼ばれる、5つの魔法学校が参加する団体戦があるんだけどね。

個人戦だけでも楽しかったし、見るだけでも十分面白かった記憶があるわ。」


「『五校杯』…?」



凛が補足するように説明を加えた。


「五校杯」は、1学年ごとに5校からそれぞれ5人ずつ出場し、総当たり戦を行う団体戦だ。


試合の順番は、各学園の大将同士がジャンケンをして、**学校ごとの出場順(1番~5番)**を決める。

この順番に従って、各校が順番に対戦していく。

ただし、連勝が続いた場合などには試合順が多少前後することもある。


1人の生徒は最大2試合まで出場可能だが、連勝している場合に限り連続出場が許される。

勝利した選手は、そのまま連戦で次の対戦にも出場できるが、敗北や辞退をした場合は交代となる。

このルールにより、同じ選手が出続けることはほぼなく、試合の展開が読みにくい戦略性が生まれる。


ポイントは勝ち抜き制で、獲得点数は以下の通り:


大将の勝利:5点

副大将の勝利:3点

その他の選手の勝利:1点

さらに、連戦に挑んだ選手が敗北した場合、その試合の得点は**+1点されて相手チームに加算**される。

連戦には得点のチャンスが増える利点がある一方で、負けたときのリスクも伴う。


全学年のポイントを合計し、その総合得点によって各校の順位が決定する。

優勝校には、特別贈与として運営資金が与えられ、魔法研究や教育環境の充実に活用される。



「なるほど…。けど、それって俺も出るって話なんだよな?」


俺の問いに、凛は少し真剣な表情で答える。


「実力だけで言うなら、本来今の真くんじゃ正直難しい。戦技魔法科の1年生で真くんより弱い人を探す方が難しいと思う。」


「えっ…。」


凛は苦笑しながら続けた。「でも、それは王石の力を抜きにした場合の話ね。真くんの炎の槍、あれを無傷で防げる1年生はほとんどいないと思う。だから、この3か月間で王石を中心に力を磨けば、どうにかなると思うよ。」


凛の言葉に、少しだけ希望が見えた気がした。


「それに、秋華魔道祭には団体戦だけじゃなくて、遺跡探索もあるんだよ。」


「遺跡探索?」


俺が首をかしげると、凛は頷いて説明を続けた。

「多くの魔導士は遺跡に潜るから、その練習を学生のうちにやる必要があるんだよ。

本来、20歳未満の学生は遺跡調査機関からランク、つまり立入許可証を発行してもらえないから、遺跡に入るのは難しいの。

でも、魔法協会の試験で3級以上の資格を取得すれば、学生でもランクを発行してもらえるようになるんだ。」


「3級って、どれくらいすごいの?」


俺がそう聞くと、凛は少し得意げに答える。

「3級はね、魔法学校の卒業レベルの実力を示すランクなの。

普通は3年生が卒業するタイミングで取得するようなものかな」


「学校卒業レベルか…。そりゃ、すごいな。」


感心する俺に、凛はさらに続けた。

「それにね、学校では遺跡探索の授業もあって、3年生の卒業条件として、遺跡の特定の層まで攻略したり、決められた怪物(モンスター)を討伐したりする課題があるんだよ。

それをクリアできないと卒業できないの。」


「そうなんだ…。遺跡探索って、俺も出られるものなのか?」

俺が少し期待を込めて尋ねると、凛は少し考え込むように答えた。

「うーん、一応可能だけど、同じ学年の3人パーティで1人は3級の資格を持っている必要があるの。それに、真くんはまだ1年生だから、ちょっと厳しいかもね。」


「そっか…実質1年生は出られないんだな…。」


少し残念そうに呟く俺を見て、凛は得意げな表情を浮かべながら鞄を漁り始めた。

そして、免許証のような顔写真付きのカードを取り出して見せてくる。そこには彼女の名前の下に『3級』と記されていた。


「じゃーん!私、去年その資格を取ったんだよね。」

凛の自信満々な態度に、俺は思わず感心してしまう。「すごいな…本当に学校卒業レベルなんだよな…。さすがだよ。」


凛は満足そうに微笑むと、カードを大切そうにしまい込んだ。


俺が感心していると、夏希さんも驚いた様子で口を開いた。

「凛ちゃん、もうそこまで資格を取ってたの?…さすがね。」


凛は少し得意げに微笑んだ。「お姉ちゃんに小さい頃から魔法を教わってたからね。」


「なるほど。お姉さんもやっぱりすごい人なんだな。」俺が軽く感心すると、凛が何かを思い出したように言葉を続ける。


「そういえば、お姉ちゃんとかは今年出てなかったけど春華魔道祭(しゅんかまどうさい)ってのにも出てたんだよ。

秋華魔道祭とはまた違うけど、現役魔導士たちが実力を見せ合う場なの。」


「春華魔道祭?」


「うん。遺跡調査で発見した遺物や、そこで得た技術を使って作った魔道具の展示もあるし、ギルド同士が競い合う試合もあるんだよ。

それに、そこで注目を集めればスポンサーがついたり、新しい仕事が来たりするから、魔術師にとってはかなり重要なイベントなんだ。」


「へえ、現役魔導士ってそんな場でも競い合ってるんだな。」

「懐かしいわね……春華魔道祭、私も何度か見に行ったことがあるわ。あの緊張感と熱気は、学生の秋華魔道祭とはまた違って面白かった。」


「夏希さんも行ってたんですね。」俺がそう言うと、彼女はまた懐かしそうに微笑んだ。

「ええ、6年前はよくギルドの仲間と見に行ったわね。試合で見せる技や展示されている魔道具を見るのが楽しかったのよ。」


「そうなんだ……やっぱり魔導士の世界って奥が深いな。」


俺が感心すると、凛は満足そうに頷いた。「真くんも、このままいけばいつかそういう場に立つかもしれないよ。そのためにも、今はしっかり実力を磨かないとね。」


夏希さんに家の前まで送ってもらい、車から降りた俺たちは軽く手を振って別れを告げた。


家に戻ると、俺はソファに寝転び、今日の話を思い返していた。

ふと耳を澄ますと、凛の小さな声が廊下から聞こえてくる。


「お姉ちゃん、今いい?」


電話の相手は蓮さんだった。

「どうしたの?」


「真くんが秋華魔道祭の遺跡探索に出たいらしくて…。でも、まだ実力がどうしても心配なんだよね。お姉ちゃん、誰か真くんに魔法を教えてくれる人を紹介してくれないかな?」


蓮さんは少し考え込んでから答えた。

「わかったわ。夏休みに入るまでには探しておくから、それまでは凛がしっかり練習に付き合ってあげなさい。」


「ありがとう、お姉ちゃん!」


電話を終えた凛が戻ってくると、俺は気合を入れ直した。

「もっと魔法を練習して、遺跡探索に参加してみせる!」



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