14話『 魔法を学ぶ場 ① 』
真が目を覚ましたのは朝の6時過ぎだった。いつも通りの朝のはずが、今日は少し違う。
鏡の前で新しい制服に袖を通し、少し緊張しながらネクタイを締める。
鏡に映る自分の姿を見て、少し違和感を覚えたが、それが嫌なものではないのが不思議だった。
「よし…」
そう呟いて階段を下りると、リビングで凛と夏希さんが待っていた。
「真くん、似合ってるじゃん!」
凛が無邪気に言う。
制服姿の凛も、いつもより少しきちんとした印象を受けるが、どこか彼女らしい自由な雰囲気もある。
7時過ぎ、朝食などを済ませて、荷物を確認して
家を出ると、車の中で夏希さんが手を振ってくれていた。
車に乗り込むと、エンジン音が静かに響く中、外の景色が流れていく。
約50分ほどのドライブ。まだ朝の早い時間ということもあって、車内には程よい静けさが漂っていた。
夏希さんが送り迎えをしてくれることになったのは、学園が車で50分ほどかかる場所にあるためだった。
もっとも、ずっと送り迎えというわけにもいかないから、いずれ蓮さんが学園の寮に部屋を用意してくれる予定だという。
「ただ、王石のこともあるから、結界やついでに必要な家具なんかも別途で手配してくれてるらしいよ。」
夏希さんのその言葉に、俺は少しだけ胸が高鳴った。新しい環境への期待と、どんな日々が待っているのかという楽しみが自然と湧き上がってくる。
朝7時、3人は車に乗り込んだ。走り出した車内で、凛がぽつりとつぶやいた。
「真くん、楽しみ?」
「え? あぁ、もちろん楽しみだよ。」
「それなら良かった。」
凛がにっこりと微笑んだ。
真はその笑顔を見ながら、心の中で実は思っている以上にワクワクしている自分に気づいた。
どんな学園生活が待っているのか、胸の奥が高鳴る。。
しばらくして学園の前に到着した。
車を降りた真が見上げた学園は、二度目ではあるがやはり新しい環境に足を踏み入れるのは少しだけワクワクする。
周囲にはこの前は時間的に授業中で見えなかった他の生徒たちの姿も見える。
「私はこの後予定があるから、一緒には行けないけど、頑張ってね。」
夏希さんに見送られ、2人は校舎へと向かった。
真と凛が向かった先は学園長室だった。
中に入ると、蓮さんが待っていた。
「おぉ、思ったより早いね。」
蓮さんが真の姿を見てにこりと笑う。
「うん、その制服もなかなか似合ってるじゃない。」
「そ、そうですか。」
蓮さんの言葉に少し照れながら、真は返事をする。
「そこに座って、ちょっと待っててね。」そう言うと、蓮は部屋を出て行った。
「じゃあ、私も先に教室行ってるね。」凛もそう言い残して出て行く。
一人残された真は、凛から聞いていた学園の話を思い出していた。
この学園には1学年に4つのクラスがあり、それぞれの授業内容が異なるという。
《戦技魔法科》:戦闘に特化した魔法を学ぶクラス
《魔法開発科》:新しい魔法の創造や魔法陣の研究を行うクラス
《魔道具科》:魔道具の作成を学び、魔道具師を目指すクラス
《特別科》:特に実力が高い生徒や、特殊な事情を持つ生徒が在籍するクラス
真はおそらく《特別科》に配属されるだろうと凛に言われていた。
凛も同じクラスらしく、彼女は「私は同年代と比較したら圧倒的に強いからね!」と少しドヤりながら言っていたのを思い出す。
真がそんなことを考えていると、蓮さんが戻ってきた。
「よし、真くん。クラスに行くよ。」
蓮に連れられた真は、1学年のフロアであり特別科の教室がある4階へ向かう。
道中、蓮さんはクラスの状況について説明してくれた。
「君のクラスは凛を含めて5人しかいないんだ。そのうち1人は今諸事情でお休み中だから、いるのは4人だけ だからそんなに緊張しなくていいよ。」
4階に着いた蓮さんは、教室を指差しながら言った。「私はここまで。あとはあそこにいる担任の先生に聞いてね。」
そう言うと、蓮はあっという間に階段を降りていった。
「えっ..ちょっと待ってよ!」真が慌てて言うも、蓮さんの姿はすでに見えない。
教室の前には、担任と思われる男性が立っていた。
彼は少しボサボサの髪に、デザインや素材が普通のスーツとは少し違う、独特な雰囲気のスーツを着ていた。
彼の見た目は30代半ばって感じで、どこか疲れたような雰囲気を漂わせていた。
くたびれた印象を与えるおっさんに見えるが、よく見ると顔立ちは少し整っていて、意外と悪くないという感じだった。
「よぉ、青年。鷹野真だったかな?」 彼が話しかけてきた。「はい。」
真が返事をすると、彼は自己紹介を始めた。
「俺は1年の《特別科》を担当してる萩野哲だ。」その口調は見た目とは裏腹に爽やかでハキハキしている。
「みんな待ってるから、行こうか。」
そう言って哲先生は教室へ入っていった。
「よし、呼んだら入ってこい。」
そう言われ、真は少し緊張しながら待つ。
「入っていいぞ!」
声がかかり、真は教室の扉を開けた。
クラスの中に入ると、4人の生徒たちがそれぞれの席についていた。
まず目に入ったのは、金髪で中華風の制服を着た少女。堂々とした雰囲気が印象的で、彼女からは微かに、凛が言っていた闘気のようなものを感じ取ることができた。
次に目を引いたのは、細身の体つきでどこか可愛らしい顔立ちの少年。
見た目からは想像もできない魔力を纏っている。その魔力は、量が多いというわけではなく、どこか呪われているような、毒々しく、異様な雰囲気を放っていた。
そして最後は、魔力の圧を感じさせる男。彼の隣には竹刀袋に収められた刀らしきものが立てかけられており、正確にはその刀から魔力の圧が発せられている。
最後に、見慣れた顔の凛が、こちらに向かって小さく手を振っていた。
哲先生に促され、俺は簡単に自己紹介をする。
少し緊張しながらも、全員が軽く頷いてくれるのを見て、肩の力が抜けた。
こうして俺の星慧学園での生活が始まった。