20話 悪事の証拠を録音することに成功!
「本当!?」
「適切に調理をして頂けるならなんの問題もないでござる」
アキナとレナの要求を、商人はあっけなく承諾した。
無理な条件を提示されると思った2人は、肩透かしをくらった気分になる。
「ただ、こちらの契約書にサインをして頂きたいでござる」
レナもアキナの横で出された契約書を確認する。
確認しながら、同時にアキナの表情も横目で伺った。
アキナはとても満足そうな表情を浮かべている。。
このままだと、前回と同じように理不尽な内容だと気づかずサインしてしまいかねない。
「分かっ――」
「絶対サインしちゃダメっす!」
「アキナ様は乗り気でござるのに、お主は何を申されるか?」
「8のところに書いてある事マジあり得ないんだけど!」
レナが問題にした契約書の8条には、以下の様な事が書いてあった。
第8条(期間限定飲食イベントに関する規定)
1.小葉白奈(以下、アキナ様と称します)がダンジョン内で公開した料理動画に登場するレシピに基づいて、ダンジョンの1階層受付フロアにおいて期間限定の飲食イベント(以下、「イベント」と称します)を開催することがあります。
2.本イベントはアキナ様の配信者名であるアラフォーなつめの名を冠して行われますが、全てのイベントに関する収益は当方(以下、「ゴンザレス」と称します)が保有し、アキナ様には一切のマージンや収益分配は行われません。
3.本イベントにおいて供される料理は、アキナ様が動画で紹介したレシピを忠実に再現するように善処致します。
4.本イベントの企画、運営、宣伝に関するすべての権限はゴンザレスが持つものとします。
「ど、動画で紹介した美味しいモンスター料理を多くの人に食べて頂く事に、なにか不満ござるのか?」
「名前借りといてカネ全然払わねえとか舐めてんの!?」
「何回も言うけど私は、これで必要以上におカネを稼ぐつもりはないの」
「アキさん、そんな……」
「レシピ通りちゃんと作ってくれるなら問題ないわ」
「と、いう事でござる」
仮面の奥で、商人がニタニタしている事が簡単に予想できた。
絶対になにか悪だくみを企んでいることは間違いないので、負けずに食い下がる。
「でも、再現するじゃなくて善処するってなってるっすよ。きっと色々言い訳して食えねえマジヤベえもん出すつもりっすよ!」
「……そうね。どうして善処するなの? 説明してくれる?」
「動画で紹介したモンスターが、その日狩猟できなかったら味が近しい代わりのもので代用したり、別のメニューを提供するしかないでござる」
「うーん、それはそうね」
「また例えばでござるが、動画の中で塩を振って食べるのが美味しいと紹介していても、人によってはそれを不味いと感じ、代わりに醤油やマスタードをつけて食べたい人もいるでござる。そういった場合は忠実に再現できなくなるので、それを了承頂きたいと思い、この文章にしたでござる」
「なるほど、私たちが美味しいって感じる事を無理やりお客さん押し付けのは良くないわね。説明ありがとう。サインするわ!」
「アキさんこんな奴のいう事絶対に信じちゃだめっす。下手したら大炎上にウチら巻き込まれることに……」
「れなちゃん、そんなに人を疑うのは良くないわよ」
レナの頑張りも虚しく、アキナはサインをしてしまう。
レナはお人よし過ぎるアキナに呆れながらも、こんな時のためにスマホの録音アプリをオンにしていて良かったとひそかに安堵していた。
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