新人冒険者と銀級・金級冒険者達(2)
この依頼は何をしてでも達成しなければない。
何故ならばスモールボアとホーンラビッドはイオナさんの店で使うモツ煮込みで必要な材料であるからだ。ゴブリンのせいで高騰して困るイオナさんの顔を見るのは絶対に嫌だ。
あの笑顔だけは死んでも守る。
そう心の中で覚悟を決めているとヴィクトルが声を掛けてきた。
「てか、いいのか?新人をバラけされて連携とか・・・」
「ん?ああ、その辺は数こなせば連携はどうにかなる。問題なのは『役割をしっかりとこなせる実力がある』かだろ? 金級や銀級が経験を交えた指導をする事で新人が育っていくんだ。冒険者ギルド所属してるなら新人育成出来るようになっておけば後々楽だろう?」
そう言って運ばれてきた料理を口に運ぶがやはりイオナさんの飯のが旨い。そう心の中で嘆く。話をしていたヴィクトルは誘われたことに上機嫌だったのだろう。
「なるほどな。流石は特例で白銀級まで推薦貰ってる癖に銀級でとどまってるだけあって考え方が一流だね」
「えっ!?じ、ジークさんって白銀級なんでふか!?」
ランタ、食ってから喋れ。まぁ、例のオーガの一件でそう言う打診はあったが銀級だから現場で対応できたのが大きい。
つーか俺は後ろで指示出すより前戦で戦ってたいからな。一人教え子が白銀級の聖騎士になってる。
冒険者は十三歳から登録することが出来て俺は十二年目のベテランである。二十歳の頃に教えた女の騎士志望だった子に稽古を着けて王国直属の近衛聖騎士団に所属している。
手元から離れた教え子は自らの夢を叶えている。
「じ、じゃあ俺もジークさんに鍛えて貰えば・・・?」
「まあ、体つきも悪くねぇし、戦い方のコツさえ掴めればわりと早く銀級には直ぐに上がれるだろうな。ダンジョンは専門外だからアルテナに訊いた方が早いぞ?」
そう言うと、アルテナはムッとした表情をする。
「そのダンジョン探索のチームからの誘いを五年も断って金級に上がらない人に言われてたくないわよ」
「バーカ。俺がダンジョンいったら誰がこの国(イオラさんの店)を護るんだよ。俺が護ってるから人々(主にイオラさん)の笑顔を護ってんだよ」
「あら~カッコいいじゃないの~ジークちゃん♪」
声の方に振り替えるとミラーさんの姿があった。武具はレッドオーガの外皮を使って製作しているが剣は刃を研ぎ直したとしても折れてしまう可能性が可能性が高いと教えに来てくれた。
少なくともこの面子ならば大抵の強敵には何とかなるだろうが手に馴染んだ大剣が使えないのは痛手である。
すると、ミラーさんは取って置きの方法があるというだ。レッドオーガとオーガキングの角を使って剣自体を魔剣にすると言うのだ。
そんな事が出来るなど長い付き合いであるが知らなかった。
元々ミラーさんはそういった魔剣関連の鍛冶経験はあり素材さえあれば何とかできるというのだ。ギルドマスターにも理由を話して了承は得ているらしい。
問題はいつ完成するかが問題になる。
個人的に魔剣にした話を訊いた事は無いために年単位の仕事になるのではないかと訪ねると一ヶ月もあれば出来るというのだから驚きだ。
「少なくともレッドオーガや人語を喋れるオーガキングにゴブリンが従わずにいることは確かに変だからね。こっちで明日まで何とか用意するから取りあえず前に使ってた装備で今日は勘弁してちょうだい? 後で鍛冶場まで取りに来てね♪」
そう言ってウインクして去っていくミラーさんの背中は逞しいかった。
すると、会話を聴いていたヴィクトルとアルテナは呆れ顔で新人達に忠告した。
「ここの冒険者ギルドには化け物揃ってるから気を付けろよ? 普通にしててもそいつも化け物の分類だ」
「普通に魔剣クラスじゃないと耐えられない魔力持ちの戦士なんて聴いたこと無いわ」
「えー、俺まだ空は飛べねぇぞ?俺の師匠は空中跳躍出来るまで一人前って認めてくれねぇんだぞ?」
「「そんなこと出来る人間はいないって話!!」」
おぉ、声を揃えられて怒られてしまった。
◇◆◇◆
ミラーさんの所に行き新人時代に使っていた大剣と硬革鎧・手袋・ブーツに着替えて草原地帯の調査に向かっていた。ヴィクトル達には森への調査の為に別行動中だ。
「そういえば斥候全員森に向かわせたけど良かったんですか?」
「新人だと感覚がわからないと思うけどね。草原地帯にいるゴブリンは他の魔獣を狩る為に罠を張るの。けど、ここにはゴブリン以外の魔獣はいないわね。ジークのいう通り巣穴に居場所がない可能性があるわ」
「えっ!?ど、どういう事ですか?」
「そんだけ繁殖してるなら強い上位種で塒を固めてるから普通のゴブリンは巣穴から外に出される。つまりは帰る場所がなくないって事だな そうなるとゴブリンの数は増えるし、違う拠点を作って集落作ったりするから数減らしは重要だ」
この辺りは草を主食にしている魔獣がよく集まる為に共謀な肉食魔獣も度々現れる事がある危険地帯でもあるが、その草が食べられる事なく育っている。
おそらくは上位種のゴブリンも数体はいるし、グループで行動しているだろう。
すると、甲高い笛の音が草原に鳴り響くとゴブリン達が一斉に姿を現したのであった。
良かったらいいね・ブックマーク宜しくお願いいたします。
誤字脱字等の報告も承ってます。何卒宜しくお願いいたします。