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エピローグ

 それから間もなくして、父上の宣言通り────わたしは王太子の座をおろされた。それと同時にオフィーリアとの婚約も解消された。

 オフィーリアは〝王太子の婚約者〟として、王妃になるための教育がなされてきたのだ。このまま彼女を王妃にするのが最良だろうからと最もらしい理由で説明され、王太子でなくなったわたしは婚約を解消せざるを得なかった。


 わたしの代わりに王太子となったのはエリオットだった。第一王子の次に継承順位が高いのは、第二王子であるエリオットだ。そうなるのは当然の流れだろう。また、オフィーリアの新たな婚約者になったのも、同じくエリオットだった。

 民衆にはわたしが王座を固辞したが故の処置だと発表するらしい。オフィーリアとの婚約が決まった時、民達へ向けて大々的に発表してしまった手前、「王太子が平民の娘に入れあげた挙句に、無実の婚約者を糾弾して王家に泥を塗ったたため、その座を退かせることになった」とは口が裂けても言えないのだと父上が言っていた。



 一方ニィナは、王都から遠く離れた僻地へと送られ、そこにある修道院で奉仕活動をすることになったらしい。

 アルテニタ国では、身分が上の者に対して害なす行為を働いた場合、その大きさに関わらず有罪になる。歴史上では極刑が下された例もあったとか。今回のことも、オフィーリアが国にとっての重要人物とだけあって、事態を重く見る者は多かったと聞かされた。

 だがオフィーリア本人が「気にしていないから」と、ニィナを減刑するように父上に口添えしたようだ。お陰でニィナは勿論、その家族も処罰を免れたのだという。

 父上も母上もそんなオフィーリアを心優しいと褒め称え、同時に「寛大な処置に感謝するように」とわたしに言いつけた。実際、オフィーリアは優しかったのだ。

 わたしの魔力や学力についてどうこう言わなかったし、ニィナを妾にすることだって許したのにと笑っていた。あの時が初めてだったのだ。わたしに対して〝無能王太子〟などと、蔑みの言葉を放ったのは。

 それだけオフィーリアを怒らせてしまったということなのだろうか。


 あの夜会以来、ニィナには会えていない。

 ニィナと話ができないせいで、結局どちらが嘘をついていたのか、わたしには分からないのだ。いや、本当は分かっているのだが、理解したくないと言った方が正しいだろう。

 オフィーリアを貶めるために、ニィナが嘘をついていたというのなら。他の男にも愛を囁き、その体を許していたというのなら。

 ニィナがわたしを支えてくれたこと、大好きだと言ってくれたこと、その言葉も表情も、全て疑わなくてはならなくなる。わたしはそれが、堪らなく怖い。

 わたしは本当にニィナだけを愛していたのに、ニィナが愛していたのはわたし自身ではなく、〝王太子という立場のわたし〟でしかなかったのだろうかと思うと、怖くて仕方ないのだ。







  △△△







 しばらくして、わたしは『不屈の華』という大衆小説の存在を知った。どうやら平民の間で流行っているらしいその作品は、一国の王子と平民の娘が恋に落ちる、よくあるタイプの物語らしい。

 悪役令嬢と呼ばれる王子の婚約者に邪魔をされるが、二人はそれを跳ね除け結ばれ、最終的には幸せになるという、まさに使い古されたような設定だった。しかしそんなありふれた設定に、わたしとニィナを重ねてしまった。


 わたしの物語は、どうしてこうならなかったんだろう。『不屈の華』の王子とわたしの、一体何が違ったというのか。

 平民の子を愛し、傷ついているその子の慰めになるならと断罪を行った。その行為自体はなんら変わりがない。なのに物語の王子は平民の娘とめでたく結婚をし、わたしは王太子という肩書きも愛する人も失って一人きり……持ちうる全ての物を無くしてしまった。

 わたしは、どうするのが正解だったのだろう。……なんて、今更考えたところでどうしようもないのだ。



 なにせ、わたしの『物語』はもう、終わってしまったのだから。

断罪される側の視点で書いた、主人公が幸せになれないタイプの物語でした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編からスムーズに読めたこと。 [一言] 短編ではセリフでしかわからなかった王子目線が丁寧に書かれていてとても面白かったです。内容はどこにでもあるような話ですが、王子の心情と短編内で語られ…
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