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第十二話ー①

12



「許可、条件付きだけど、もらえたわよ」


「ほ、本当にもらえたんだ……」


「ええ。後はリリナさんたち次第だけれど、頑張りましょう」


「うん、頑張ろっ!」


 場所は中央棟2階の廊下。

 職員室の扉の前で、わたしは意気込んでいた。


「今からそんなに緊張しないでも大丈夫よ。まだ決まったわけじゃないし、先のことだから」


「そ、そうは言っても。さすがに緊張はするよ~」


 クレアにぽんぽん、と頭を撫でられ、わたしは空気を吐き出すゴム風船のように、ふー、って息をついた。


 まだ先のこと。

 それは夏休みの課題についてだった。

 時の経過は早いもので、夏の長期休暇まで後1月にまで迫った先日。3年生であるクレアには課題が言い渡されたらしいのだ。


 いくらなんでも、ひと(つき)前に課題の通達なんて早すぎる――そう思ったのだけど、内容を聞いて納得した。

 卒業を(ひか)えた3年生の課題は、1、2年生とは比べ物にならないほど高難度なものだったのだ。


 熟練の冒険者たちが足を運ぶ、危険区域に出向くこと。

 言葉にすれば単純明快だけど、物々(ものもの)しい響きを(ともな)っている。


 指定された区域は4種類。実力によって場所を選ぶことは可能だけれど……もちろん、難易度が成績に関係してくる。

 この時期の成績っていうのは、お仕事を見つける際にモロに影響するらしいのだ。つまり、将来がかかっている、と言い換えてもいいわけで。重要な課題らしかった。

 危険区域にて学園の関係者にサインをもらう、それが3年生の最後の試験、その全貌(ぜんぼう)


 そして、クレアが選んだのは、最上級難易度。オディナス学園が設立されて以来、わずか数人しか達成者がいない、と言われている区域だった。


 死の山と名高い、鬼霊山(きれいざん)。そこをあっさりと、ピクニックコースでも選ぶかのようにしたクレアは、これまたあっさりと許可をもらってきたのだった。


「私でも鬼霊山に立ったら緊張すると思うわ。それに、ユーリィさんが来てくれなかったら、1つレベルを下げるしかないわね」


「うん、来てくれるかなぁ」


 わたしは廊下の窓に視線を向けながら呟いた。

 難なく許可をもらった、とはいったけれど、天才剣士と名高いクレアにですら出された条件がある。

 それは、能力の高い魔法使いをパーティに加えること。


 ……とーぜんながら、わたしでは無理な役目だ。それどころかむしろ、わたしのせいでその条件は付け加えられた、といっていい。

 クレア1人ならば、きっと鬼霊山でも条件なしに許可が出ていたことだろう。わたしという足手まといの護衛をしながらでは、味方が不十分、といったところ。


 悔しいけれど、しょうがない。わたしはその辺の問題に関しては、ある程度割り切れるようになっていた。

 それに、勉強はしているし。そこそこの魔法が使えるようになった今、最難関の実戦ができると思えば、むしろありがたいことだよね。クレアと過ごした1年によって、わたしの思考はプラスに寄り気味だった。いいこといいこと。


 それから、クレアの課題に同行する者には特典がつく。なぜなら、彼女のパーティに入るものが同年代とは限らないから。これに参加した1、2年生には、3年生になった際、同じ課題は免除される。

 危険が伴う分、美味しい話でもあるわけだ。


 わたしを連れて行く。その件でいえば、クレアは直談判(じかだんぱん)やら何やらして、頑張ってくれたみたいだけどね……。わたしの成績は上がっているから、なんとか目を(つむ)ってもらえた感じ。わたしはクレアと違って、実戦の経験があまりにも不足しているから、危険区域ともなれば先生方に渋られるのも致し方ないけど。


 そして……その条件である、能力の高い魔法使い。すぐさま思いつく適任者が1人。

 ユーリィだね。

 彼女もニーシャの(やしろ)をともに目指す仲間であり、連携など、戦いにおいて重要な部分も必要になってくるし。

 成績に関しては、言うまでもないよね。ユーリィは1年生ながら、この学園の誰よりも飛び抜けた魔力を持っていることで、一躍(いちやく)有名人となっていた。


 戦闘科にはクレア。魔法科ならユーリィ。そのどちらもが、恐ろしいほどの美人なのである。才覚に、容姿、オディナス学園双璧(そうへき)をなす女たち。……声に出すと、恐ろしい存在だね、ほんと。


 まあ。ユーリィはユーリィで、わたしたちと同じ問題は抱えているんだけど……。 

 彼女のパートナーはリリナ。リリナといえばわたしの妹であって――成績が良い、って話は聞かないよね。

 リリナの審査が通らなかったら、ユーリィは絶対にこの冒険、断ってくるだろう。

 ……妹を責めることはできない。わたしだって足手まといなんだ、姉妹で一緒に涙を流そう……。


「そういえば、リリナたち同室になったみたいだよ」


 わたしとクレアは玄関を目指しながら、階段を降りていた。


「けっこう遅かったのね」


「申請だけは、すごく早かったみたいだよ」


「2人とも1年生だから、許可が出るのに時間がかかったのかしらね。私のときは、すんなり受理してもらえたのに」


「去年の夏休み中だったね。懐かしいな」


 慌ただしかった去年の夏。

 今年の夏休みは、それ以上のものになりそうだよ。だって、クレアの課題に付き合うんだからね。


「それじゃあ、今晩あたりリリナさんたちに聞きに行きましょう」


「そうだね。リリナたちの部屋も覗いてみたいし。今晩行ってみよー!」


 リリナってば、どうせ遊んでばっかりなんだろうなー。お部屋とかすごい散らかっていそうだし。

 妹の成績に不安は残るけれど、ユーリィがついているし……平気だよね!

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