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第十一話ー②

 ……うん、状況は整理できてきたよ。

 リリナは放課後、中央棟に向かおうとしたら、途中でクレアを見つけたので、合流したらしい。

 そして妹がユーリィと出会ったのは数日前。

 ユーリィ(いわ)く、


「リリナさんが、エリナさんにとっても似ていると思って。リリナさんのことを眺めていたら、お声をかけてくれたのよ」


 ということらしい。

 そこからリリナの気さくさも手伝って、階段を2段飛びで駆け上がるように仲良くなっていったという。


 なるほどねえ、って感じだよ。

 わたしが一息つこうとしたところ、リリナは小動物さながらの俊敏な動きを見せる。

 妹は、ユーリィへ向かってダイブするかのようにして、飛びついたのだ。ユーリィはそれを受け入れる体制が整っており、リリナの頭を抱きとめた。

 ……なんか、思っていたより、仲がよろしいみたい。変にどぎまぎしちゃうよ。


「ふふん、わたしも美人さんを見つけたんだよ、お姉ちゃん」


 リリナは得意げに鼻を鳴らしている。何やら、意味ありげな目線のおまけつき。


「ず、随分、仲が良いんだね」


「うんっ、それはもう! 最近はね、毎日ユーリィちゃんのお部屋行ってるし!」


「あぁ、だからわたしの部屋に来てなかったんだね~」


 わたしは得心(とくしん)が行って、手をぽん、と打つ。

 うーん、でもね。

 体を寄せ合っているリリナとユーリィを観察すると、どうにもこうにも、心がモヤモヤとするんですけど。

 だって。細かい所まで見ると、彼女たちは指を絡めて手を握っているし、外面だけではなくって内面の距離も近いように見えた。


 確証はないけれども、わたしとクレアと同じように感じる。どことなーくだけどね、わたしたちと一緒なんじゃないのかなあ、って。

 でも、それを深く突っ込んで聞いてしまってもいいものなのか。

 わたしは見て見ぬ振りで対応することにした。


「ユーリィって、寮に引っ越したんだ?」


「そうよ。あそこからじゃ通学に不便だもの」


 彼女の暮らしている家は、魔物の巣食う山奥に建てられた大きな館なのだ。わたしのように体力がないものならば、学園と往復するだけで日が暮れちゃうような、そんな場所。直線的に見たら学園とは近いのかもだけど、(かよ)うのであれば話は別ってことだね。


「そっかそっか。じゃあ、わたしたちの部屋にも気軽に来てね」


「ふふ、お誘い、ありがとう」


 ユーリィは嬉しげに微笑(ほほえ)んだ。彼女のことが年下、とわかったからか、年相応の可愛らしい少女に見えなくもない。やっぱり、年齢は嘘をつけないものなんだね。


「あらあら」


 と、そこに、やや離れた位置から、少し低い声が飛んできた。

 わたしたちは一斉に出処(でどころ)へ目を向ける。


「ユーリィにも、こんなにたくさんのお友達ができたのね」


 中央棟から現れたのは、恰幅(かっぷく)の良い中年女性。皺のある穏やかそうな顔に、ピシッとしたスーツに身を包んでいるその人は、わたしにも見覚えのある人物だった。


「が、学園長……」


 わたしは緊張に震える声でそう漏らしていた。

 彼女こそ、何を隠そうオディナス学園の学園長だったのだ。

 そんな偉大なる人物がユーリィに向けて声をかけたのは明白で、わたしの頭はまたしても大混乱。

 学園で生活をして2年のわたしですら、学園長なんて上の立場の人と言葉を交わしたことなんてないよ。問題児でもないわけだし。

 それなのに、入学したばかりのユーリィが関係を持っているなんて。彼女の謎がより一層、深まってしまった。


「どう? 学園に通って、良かったでしょ?」


「そうねぇ。とっても良かったわぁ」


 のんびりと、お茶でも手にしていそうな会話を交わす学園長とユーリィ。なんだか2人は、対等な立場に感じられる。雰囲気も似ているし。


「あ、あの~。ユーリィと学園長、どんな関係なの?」


 気になったなら、聞かずにはいられない。わたしは意を決して、口を開いていた。

 ユーリィはいつもの、くすくすっ、とした忍び笑いをしてから、目を細めて、そのブルーの瞳に悪戯(いたずら)めいた輝きを灯した。 


「この人がね、私の親のような存在、って言った人よ」


「えぇ~~~~! そ、そうだったんだね……」


「ユーリィちゃんすごーい! 学園長さんの娘さんなんて!」


 どうにかこうにか言葉を(ひね)り出したわたしとは打って変わって、リリナは顔に花を咲かせて喜んだ。

 学園長の前だっていうのに、騒々(そうぞう)しいんだからリリナってば。しかし、学園長はリリナに対しても物腰柔らかく、唇を(ほころ)ばせている。


「どうかしら、皆さん。良かったら私の部屋でお茶でも」


 学園長は、おっとりと提案してきた。

 わたしは学園を()べる人間とお茶なんて、と恐れ多くなっちゃって、戸惑ってしまう。

 だけど、わたしを嘲笑(あざわら)うかの如く、リリナがシュタッと間髪入れずに手を上げていた。


「はいは~い! 喜んで賛成します!」


「良かった。では、皆さんついてきて」


 断れない空気になってしまい、わたしはクレアに目で合図を送る。

 彼女もそれが嫌ではないのか、ゆっくりと頷く。

 もちろん、わたしだって嫌なわけではないからね。面白い話も聞けそうだし、学園長の部屋へと向かうことに決めた。

 なんだか凄いことになったなぁ。ってしみじみと思う放課後だった。

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