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第八話ー①



 吹きすさぶ風が体に染みる。

 吐く息は白く、肌が露出した部位は寒さによって感覚がなくなりそうだった。


 季節は冬。

 ついこの間まで、ちょっと肌寒くなってきたなあ、なんて思っていたくらいだったのに。気がついたら、こんなにも冷え込むようになっていた。


 陽が落ちるのも早くなったもので、下校時刻を少しでも過ぎれば、もう真っ暗だ。

 学園の帰り道。

 わたしたちの"いつも"である裏道には、街灯なんて気の利いたものはほとんど見当たらない。もしも1人だったなら、望んで選ぼう、とは到底思えないような、暗闇が支配する道だ。


 寒いので、わたしたちは腕を組んで、寄り添って歩く。

 2人の吐く白い息は空中で絡み合って、後方へと流れていった。

 会話はない。


 太陽が沈む時間がいくら早いといっても、ここまで暗くなる前に学園は終わる。だけど、今日は理由があって、やや遅めの帰宅だった。

 その理由こそが、わたしたちの口数を減らしている。


 隣を歩くクレアは、いつもならば怜悧(れいり)とした美顔を、現在は思い悩むような表情で塗りつぶしていた。

 ……もしかしたら、わたしも同じ顔をして、冬空の下を歩いているのかもしれない。


 冬風も、無口を煽るかのように肌を突き刺してくる。

 だけど、クレアとぴったりとくっついているため、気にも留めない。彼女と触れている部分は、寒さなんかにも負けないくらい、ほんわかと暖かいものだ。


「卒業……かぁ」


 わたしはぽつり、と(こぼ)す。

 (つぶや)きは雪のように静かに、地面へ吸い込まれていく。だけど、その言葉には重みが秘められていたのか、わたしは大地に引きずり込まれるかの如く、体が鈍くなった気がした。


「…………」


 クレアは無言を(つらぬ)く。何かを思案(しあん)しているのか、彼女の横顔はいつにも増して凛々しいものだ。闇夜に浮かぶ銀の長髪は、遠くの街灯を反射すると、きらきらとした輝きを冬の道に残していく。


 帰りが遅くなった理由。

 それは、クレアの進路相談だった。


 クレアはわたしより、学年が1つ上。

 それってつまり、わたしよりも早く卒業が訪れてしまう、ってこと。


 オディナス学園は3年制の学園。クレアは今、2年生だから、卒業にはまだ1年も猶予(ゆうよ)がある。だけど言い換えれば、1年経ったら、クレアが学校からいなくなってしまう、ってこと。


 そんなこと、意識したこともなかった。

 楽しい毎日が、ずっとずっと、続くんだと思ってた。

 だけど、現実は、進路相談という形でわたしたちに襲いかかってきたのだ。

 わたしたちは、嫌でも1年後のことについて、想像してしまっていた。


 再び、風が吹く。それは、わたしたちを引き裂こうとするかのように服の隙間に入り込んできて、身体をゾクゾクとさせる。

 わたしは寒さと寂しさに抗うべく、離れたくない、と決意を表明するように、クレアへぎゅってしがみつくのだった。





 朝、一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、一緒に学園へ向かって、お昼になったら、また一緒に食べて、そして帰りも一緒。そして、1日の終わりは、2人の部屋で迎える。

 そんな生活がずっと続くのだと思っていた。

 永遠なんて、あるわけがないのにね。

 もしかしたら、今が幸せすぎて、終わりを考えたくなかっただけなのかな。


 だけど、今は否が応でも、その終わり、を意識しないといけない。

 ……もし、クレアが学園を卒業しちゃったら。

 わたしはどうなっちゃうのかな。

 絶望にも似た感覚が襲ってきたような気がした。


 わたしたちは自室にたどり着いたというのに、会話が流れない。

 室内には、2人を気遣っているかのように、(ひか)えめに暖気を吐き出す暖房器具だけが音を出していた。


 わたしは羽織っていたコートを壁にかけて、ベッドの(はし)に座る。

 きっと、今の感情は、クレアだって同じに違いないよね。だからこそ、なんて声をかければいいのか、わかんない。


 ずっと2人で暮らしていたい。

 今の段階では、それはどうすれば実現できるのか、思い浮かばなかった。

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