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判定

 そろそろ「いつまで腑抜けた色恋話を続けるんだ!空手バックパッカーはどこに行った?」

 とお怒りの読者様もおられると思いますが、いましばらくご辛抱ねがいます。


 ここでちょっとだけ予告いたしますと、私はこの旅の後半では2度に渡り殺意を持つ敵と対峙しました。

 今回の物語ではまだ書かない予定のものまで含めますと、私は人生で3度も殺されかけたのです。


 しかし空手バックパッカーも人の子です。

 それまでのひとときの間、ロマンスに浸ることをお許しください。


 ・・・・


 翌朝、目覚めると隣のベッドは空っぽでした。


 ・・・逃げられちゃった?


 一瞬焦りましたが、窓際の物干しの洗濯物はそのままです。ほっと胸をなでおろします。

 時計を見ると午後9時をちょっと過ぎた時刻です。

 眠れないと思っていたくせに、私はかなり熟睡していたようです。


 シャワールームからサトミが出てきました。


「おはようございます。お先にシャワー使わせてもらいました」


 彼女はすでに薄いメイクを済ませ、白地のプリントTシャツとデニムパンツに着替えていました。


「ああ、はい。おはようございます」


 昨晩の血迷った発言がかなり恥ずかしかったので、私は彼女を見て赤面していたと思います。

 でも、戦いはまだ続行中です。

 私は勇気を振り絞って言います。


「あの~朝食はどうします?この宿の朝食はちょっと素敵なんですよ」


「へえ、そうなんですか。ということはカレーじゃないってことですね。ご一緒させてください」


 ・・・やったー!まだ気持ち悪がられてはいないみたい。


 宿の中庭が見えるテラスのようなスペースに置かれたテーブルに着いて、ブレックファーストをふたつ注文します。

 しばらくしてポットの紅茶とともに運ばれてきたのは、ココナッツフレークがたっぷり練りこまれたロティです。

 これにバターとジャムが添えられています。これぞスリランカン・ブレックファーストです。


「おいしい~!これ、スリランカでも初めて食べました」


「いけるでしょ?バターとジャムというはイギリス人の発案でしょうね」


「きっとそうですね。ところであの、トミーさん今日のご予定はどうですか?」


「いや、特に何も決めてませんが」


 すると彼女はテーブルの上にガイドブックを広げました。


「私、今日は旧市街を歩いてみたいんですよ。トミーさんはもう飽きたかもしれませんけど、もしよかったらご一緒しませんか?」


 断る理由などあるはずがないです!

 ・・・デートだ!デート。まだ付き合ってないけど。


 ゴールの旧市街は要塞化された不思議な景観の街です。

 異国情緒あふれる街並みは見所いっぱいですし、観光客向けのおしゃれな雑貨店などもあります。


 しかし、ここはスリランカ。

 私はかなり慣れていたとはいえ、日中の暑さは凶悪そのもの。


 私たちは少し歩いては日陰をみつけて休みをこまめに取りながら街を歩きました。

 もちろんそれは私にとって何の苦でもありません。

 彼女と一緒に過ごせる時間になんの不満がありましょうや。


 夕食は私の行きつけの中華料理屋です。

 彼女もインドからスリランカとほぼカレーの毎日でしたから、久々の中華に大喜びでした。


 こうして楽しいデートの後、私たちは宿に戻りました。


「トミーさん、またビールをお願いしていいですか?」

「はい、もちろん」

 昨夜と同様に彼女がシャワーを使う間に買い出しに行きます。


 店の親父は私の顔を見るなりニヤリと笑って言います。

「昨夜は楽しんだかい?アレは足りてるのか?」

 ・・・僕はそんな絶倫じゃないし、そもそもまったく使ってないよ!


 昨夜と同じように、テーブルを挟んでの晩酌ですが、今夜は昨夜より気恥ずかしいです。


「今日は一日付き合ってもらってありがとうございます。楽しかったです。中華美味しかった~」

 彼女は明るく言います。やっぱりカワイイ!


「昨日は大事なお話の途中で寝ちゃってごめんなさい」

 ・・・うわあ、それ言われるととても恥ずかしい。


 私は照れ隠しのように言いました。


「サトミさん、もし僕が悪いやつで、サトミさんが寝静まった隙に襲い掛かったらどうするつもりだったんですか?」


 彼女はいつものようにクスクスと笑いながら答えます。

「トミーさんが悪い人じゃないことは信じてましたよ。でも、男の人っていい人でも魔が差すときってあるじゃないですか」


「はあ・・・そうかもしれませんね」


「もし万一トミーさんに魔が差したときは」

 ここで一度言葉を切ります。また彼女のペースに持ち込まれてる。


「魔が差したときは?」


「そういうときのために、これを枕の下に置いてました」


 そういうと彼女はベッドの枕の下から、小さな筒状のものを取り出しました。


「それはなんですか?何かのスプレーですね」


 彼女はちょっと悪戯っぽい笑顔を見せました。


「トウガラシのスプレーです。トミーさんがいくら空手の達人でも、これを顔にかけられたらしばらくは動けません」


「えええっ!!」・・・すごい用心されてたんだ・・・はあ。


「でも、トミーさんはそんな酷いことする人じゃなかったですねえ。信じてた通りの人でした」


 ・・・信じてたわりには、すごく警戒されてたみたいだけど。

 しかし女性の一人旅は危険がいっぱいでしょうから、当然の用心なのかもしれません。


 そう言ったあと彼女は急に真顔になり、膝を揃えて座りなおし、私の顔をじっと見つめます。

 なんだかドキドキします。


「あの、昨日のトミーさんのお話なんですが・・・」


 ・・・うわ、判定だ。判定が下される!


「本当に私でいいんですか?」


 ・・・え!え!それってつまり・・・


「私、昨日のお話は本当にうれしかったです。そして今日一日トミーさんと一緒に居て、ほんとうに波長の合う人だと思いました」


 なぜだか私の膝はガクガクと震えだしました。


「トミーさん、私とお付き合いしていただけますか?」


「あわわ・・はい、も、もちろん、こちらこそお願いします」

 もはや呂律が回ってませんが、しかし。


 ・・・判定勝ちだ!やったー!


 ええと、おそらくフラれるであろうと予測しておられた読者様にはまことに申し訳ありませんでしたが、実はこのときは私にしてはかなり上手くいったのです。

 悪戦苦闘だと思っていましたが、考えてみれば出会って2日で交際開始というのは人生新記録です。

 今にして思えば、これもトラベルマジックでしたね。海外の旅では日本では起こりえないことがあっさり起きることがあるものです。


 私は彼女の隣に座り直し、彼女の肩に手を回しました。

 私は男の癖に乙女のようにプルプルと震えていましたが、彼女も小刻みに震えていました。


 ・・・・


 さて、ここから先の描写をご期待されている読者様がおられましたら、まことに申し訳ございません。

 あまり、詳しく書くとR指定に引っかかっちゃいますので。

 とりあえずアレを買っておいたのは正解だったとだけ、書き記しておきます。

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