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生徒を弱くするための指導

基本と移動の稽古をひととおり終えて本来なら組手の稽古に進むのですが、初日から組手をやらせるわけにはわけにはいきません。

ふたり一組になってのミット蹴り・ミット打ちの稽古をやらせます。

これを十分にやりこませたものだけにしか組手はさせない方針です。


デワがタイから取り寄せたムエタイ用のキックミットを使います。

まず手本を見せる為に、そのひとつをニコラに持ってもらいます。

「じゃ今から組手のときに蹴りからはいる方法を稽古するから、よく見て覚えるように。じゃニコラ頼む」


ニコラがミットを中段に構えます。

私は左足前の組手の構えから右の送り足を使っての左前蹴りでそのミットをバーンと蹴ります。

そして生徒に技の注意点を説明をする。


「左前蹴りから入る場合、こう真っ直ぐに蹴りを出すと相手が半身になるだけで蹴りが逸れてしまう。だから前蹴りから入るときにはこう、蹴りを中心に向けて角度をつけて蹴るんだ。前蹴りと回し蹴りの中間くらいの角度だ」

実演を交えながら説明して、同じことを生徒にやらせる。

「いいか、組手のとき前蹴りは足先でちょこんと蹴っても当たらないよ。軸足を反して蹴りを相手の腹に突き刺すんだ」


何度か反復させて要領をつかませたら次の技。


「内側を蹴る下段蹴りの場合、これはつなぎ技だから大きく回してはいけない。スピード重視でシャープに蹴る。左で蹴ったら必ず次の技につなげなきゃならないから、軸足はあまり反すな。30度くらいかな45度を超えちゃダメだ」

これも何度も反復させる。生徒達もミットを蹴るのは単調な基本と違って楽しそうです。


「よーし、やめ。まああんまりいっぺんにやっても覚えられないから、今日はこのくらいで。今日習った要領を忘れないよう独習しとくように。左前蹴りは内側に突き刺すように、左内下段蹴りは小さくシャープに・・・わかった?」

「オース!」


稽古のしめくくりに補強(腕立てとか腹筋とか)をやらせます。

それを見ているとニコラが話しかけてきました。


「トミー、お前って結構細かい指導するんだな。こないだお前とやりあったときにはそうは見えなかったけど。しかし感心したよ。今日の稽古は参考になるな・・・オレはあそこまで細かく教えないもん」

「ああ、ニコラ・・・大きな声じゃ言えないけどさ、あんまり参考にしない方がいいよ。生徒を強くしたいんなら」

「え、どういうこと?」

「今日やった稽古はね・・・生徒を強くするための稽古じゃないの。僕に都合のいいクセを付けさせるための稽古」

「・・・・・・・?」


「だってほら、僕だっていつまでも組手を避けるわけにいかないじゃん。こないだでニコラも分かったろうけど、僕は組手、あんまり強くないんだよ。だからといって生徒とやって負けるわけに行かないじゃん・・・だから」

「・・・・だから?」

「クセをつけるんだよ。生徒の技に。いつも左前蹴りを軸足反して内側に蹴ってきてくれたら、下段払いで内側に捌くのは簡単だろ?回し蹴りの角度や軸足の角度までクセにしておけば、上段、中段、下段と蹴る前に分かるから、まず食らう心配がない。だからミットでの稽古を十分にやった生徒としか組手はやらない」


「・・・な、なんだって・・・お前そのためにあんな細かい指導してたのかよ!」

「そーだよ。しかも僕が帰った後にはデワでも勝てるように生徒を仕込んどかなきゃならないし」

「・・・・あきれたぜ・・・・そんな空手指導あるかよ。お前って本当に卑怯な野朗だなあ」

「ありがと」


ニコラはおおきく首を横に振りながら心底あきれたポーズを取ります。

「だから、デワにもちゃんと稽古に参加してもらって覚えてもらわなきゃならないのになあ。あいつ結局サボりやがった」

「お前らの流派ってなんかヘンだぞ。日本にお前らみたいなのを養成している道場があるなんて信じられん。一体お前らの先生ってのはどんな奴なんだか顔を見てみたいもんだぜ」

「そのうちここの壁に中川先生の写真でも飾るか。僕が先生から習ったのはひとつだけだ。どんな卑怯な手をつかっても絶対に勝て。卑怯こそわが流派。卑怯こそわが空手・・・」

「それ・・・・ムチャクチャだぞ・・・トミー」


私もそう思う。

どこの世界に生徒を弱くするための指導をする空手道場があるだろうか。

世界広しと言えどウチくらいのもんでしょう。

「よーしみんな。あがっていいよ!ではこれで本日の稽古を終わります。押忍!またな」

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