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手打ち式

 デワのホテルのレストラン。

 なにか木でできた小さな樽のような容器が運ばれてきました。


「これがビンテージ・アラックか・・・」

 ニコラがつぶやきます。

「1940年のものだよ。アラックを樽で寝かせて熟成する方法はイギリス人が考えたものらしいんだけどね」

 デワが解説します。

「ああ、これはウィスキーの製法をヒントにしたんだろうな。奴らのやりそうなことだ。肝心の味はわからんがね」

「ニコラさん、これは親父が家宝にしてるもんだぜ。旨くなきゃ困るよ」

「そうだったな。悪いな無理してもらって」


 デワが合図するとウェイターが樽の栓を抜き、デカンタにアラックを注ぎ込みます。


「おお!これがアラックとは信じられん!」

 ニコラが感嘆するように言います。

 たしかにこのアラックは前に見た透明のものではなく、深い琥珀色のウィスキーのような液体です。

 飲まない私も思わず喉が唸るような良い香が漂います。


 ウェイターが各人のグラスにアラックを注ぎます。

「ああ!そいつはつがなくていい。おいボウイ、お前がビンテージ・アラックを飲むなんて身分不相応だぞ!」

 ウェイターがボウイのグラスにもアラックを注ごうとしたのをみて、デワが制止しました。

 どうもデワはボウイをへんに差別しているようです。

 これはおそらく、スリランカに今も残るカースト制度の影響かもしれませんが


「デワ、そういうなよ。せっかくのめでたい席なんだからさ。ボウイはお前の初弟子なんだぜ」

「ああ、センパイはボウイに甘いなあ。。わかったよ一杯だけだぞ。味わって飲め。本当ならお前なんか一生口にすることがない酒なんだからな」

「オス、センセイ!ありがとうございます」

 ボウイもどうも酒は嫌いじゃないようです。


「じゃあ、我々の友好を祝って・・・カンパーイ!」

 私が日本語でカンパイの音頭を取りました。


「・・・・!こ、これは・・うめえ!驚いた。デワ先生よ、これならフランスの高級コニャックにも引けを取らんぞ。これがアラックとは信じられんな」

 私はほとんど飲めませんので、口をつけてすこし舐めた程度ですが、確かに舌に刺すような感じがまったくない。

 旨い酒であることは分かります。

「当たり前だよ。これを売りに出したら、ベンツの一台も買えるシロモノだぜ」

「え!デワ、これってそんなに高かったの?」

「だから高いって言ってたでしょう!こんな贅沢、いくらセンパイの指図でも二度とやりませんからね」

「・・・・ああ・・・悪かった。まさかそんなに高価なものとは思わなかった。今度から気をつけるよ」


 まもなく料理が運ばれてきます。

 つまみになるサンボルが数種類。サンボルというのは、説明しにくいですが韓国料理ならナムルの親戚、タイ料理ならソムタムの親戚のようなもので、ようするにいろいろな野菜や肉魚を細かく刻んだものを混ぜ合わせて、調味料とスパイスで味付けしたものです。

 これにチキンカレーが付きます。


 私は飲めないので、皿にライスとカレー、それとサンボルを盛り付けて食べる方に回ります。

 見るとニコラも皿にチキンカレーを盛り付けますが、私とは全然盛り付け方が違う。

 皿の中央に骨付きのチキンを置いて、その周りにカレーソースを綺麗に敷き詰める。

 そして皿の端っこに小さくライスを盛り上げる。

 それをナイフとフォークを使って口に運びます。

 そのやり方をみて・・・ニコラってがさつそうだけどやっぱりフランス人なんだな・・・と感心しました。


「ニコラ、お前スリランカに来てどれくらいになるの?」

「そうさなあ。。そろそろ半年になるか」

「食べ物はどうよ?カレーは好きかい?」

 するとニコラは思い切り顔をしかめて言います。

「最初、これを食わされたときは泣きそうになったよ。でもさ、結局スリランカってこれしか食うもの無えだろ?イギリス料理の店はあるけど、値段は高いわ味は最低だわ。あれ食うよりはいくらかマシだからな、慣れたよ」


 後に気が付いた事ですが、アジアを旅する白人のなかで、一番メゲているのは大抵がフランス人です。

 彼らは国にいるときには「フランスこそが世界の中心」というフランス中華思想のようなプライドを持てますが、なんとこのアジアの国々では彼らの母国語はまったく通用しない。

 なのに日ごろバカにしているイギリスやアメリカの言葉、英語は通用していて、自らもその英語で喋らなければならないという現実に、プライドが傷ついています。

 しかもそのイギリス人、アメリカ人は悪食なのでどんなメシでも平気ですが、グルメたるフランス人はガマンして食うしかない。こうしてどんどんフランス人はプライドも自信も失って、メゲてしまうのです。


「トミーよ。ところでさっきの勝負のことだけどな、オレはどうにも分からねえんだが、トミーは最初からスイカ地雷を狙っていたのか?それともつまづいて転んだときにとっさに出たのか?」

 ニコラが尋ねます。


「ええと・・・僕がニコラにハイキック一発貰って倒されたろ?あのあと立ち上がってから考えたんだ。ニコラは僕が倒れているのにトドメを刺さなかったじゃない?だからトドメを刺しに来るように煽ってさ、走り回ったり、不意打ちで一発食らわしてから転んだり・・・」

「ちょっと待て!じゃあ、あれはわざと転んだのか?」

「そうだよ。あそこにスイカ袋があるのは頭に入っていたから。ニコラは案の定アタマに血が昇ってたから上手い具合に突っ込んできてくれたし。あそこまで計算どおりに行くとはツイてたよ」


 ・・・・ふーーーーむ。。。とニコラは思案します。

「じゃあさ、最後にオレの足を極めたあの関節技。あれも予定通りなのか?」

「いや、あのアキレス腱固めは偶然ニコラの足が僕の胸の上に落ちてきたから、とっさにやったんだ。本当はニコラが倒れたら、とにかく上に乗っかって3人がかりで押さえ込むつもりだったの」


「はああ・・・トミーよ。お前なんというか、空手ははっきり言って大したこと無いと思うが、侮れん奴だな。しかもおそろしい卑怯者だ。お前みたいな奴とは金輪際勝負したくねえもんだ。お前は面倒だからな」

 ・・・誉められているのか、けなされているのか?

「ああ、僕もニコラとは二度とやりたくない。さあもっと飲めよ。」


 私はニコラのグラスにアラックをそそぎました。

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