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達人の技

 通されたのは寺の本堂の裏手にある僧房のようなところです。

 若い僧侶が数名出入りしています。

 彼らは大先生を見るとうやうやしく合掌します。

「さあ、どうぞ。こちらにおかけください」

 タイル張りの床に質素なテーブルと椅子が置かれた広間です。

 私とボウイが言われたとおり席に着くと、すぐに若い僧侶のひとりがポットに入ったお茶を運んできます。


「さあ、まずはお茶でもどうぞ。気分が良くなりますよ」

「・・・ありがとうございます。。」

「私はカッサバと言います。法名ですがね。あなたは?」

「・・・・私は冨井といいます」

「んー?しかし、あなた。何を考え込んでいるんですか?何か問題でも?」

「・・・・・・・・」

「ふむ。。よろしければ私に話してみませんか?私はこれでも坊主ですから、何か智恵をお貸し出来るかもしれませんよ」

「・・・・ご親切に・・・ありがとうございます」


 私はちょっと考えました。

 たしかにこれは徳の高いお坊さんに相談してみるのも良いか。。。


「あのう・・・実は、私がスリランカに来たのは目的があるんです・・・・」

 私はここに来るまでのいきさつ・・・デワの立ち上げる空手道場で指導をしなければならないこと、そしてさきほどの空手の稽古を見て、大変なショックを受けていること・・洗いざらい話しました。

「・・・それで僕は自信を失ったんです。もともと僕には人に教えるほどの実力はありません。失敗でした。調子に乗ってスリランカに来てしまったことは。もう早く帰ろうかと思います」


 ・・・カッサバ師はすこし考えてから、ゆっくり口を開きます。

「それは良くないことです。あなたはあなたの先生に言いつけられてこの国に来た。先生の期待を裏切るのは良くありません」

「・・・しかし・・・先生も多分、スリランカでこれほど空手が普及しているとは思っていなかったんだと思います」

「では、聞きますが、日本では空手が普及していないんですか?」

 ・・・・・?・・・・・

「先生は日本であなたに指導員をさせていたんでしょう?そのあなたをスリランカに送り込むのに何の矛盾もないじゃないですか」

 ・・・・・・・・・・・・。

「先生はあなたに、それなりに期待を掛けているんでしょう。それを裏切っちゃいけません」

 ・・・いや・・・あの先生はいい加減だし・・・とは言えなかった。

「あなたは自信が無いと言う。どの程度なのか見てあげましょう。気分は治りましたか?さ、立って」


 いうとカッサバ師は先に立ち上がって、広間の中央に移動します。

「どうぞ、突くなり蹴るなりしてください」


 そうは言われても・・・相手は60過ぎの高齢者です。しかも僧形の人を殴れないぞ。。


「さあ、遠慮なく」

「・・・押忍」

 しかたなく私は構えます。

 とりあえず軽く中段に逆付きを繰り出すと・・・・!

 私の眉間の前にはカッサバ師の裏拳があります・・・いつの間に?見えなかった。。


「なにを遠慮しているんですか。私はあなたの突きを貰うほど耄碌していません。本気で来なさい」

 言われて私も少しマジになりました。

 今度はインステップを使っての逆突き・・・?・・・当たらない!

 そのまま下段を蹴って技を繋ごうとしますが、これも空振りです・・・どうして??

 カッサバ師が私の肩口をトンと押しましたので、私はよろめきます。

 今のが顔面への突きだったら終わっていました。

 体勢を立て直して後回し蹴りを放ちます・・・本気で倒すつもりの蹴りです。

 しかし・・・ズテーンとぶざまにひっくり返ったのは私のほうでした。

 ドタバタしているのは私だけで、カッサバ師はほとんど動いておりません。


 ・・・・達人だ!


 私はそれまで老齢の名人・達人というのはお話の上のことだと思っていました。

 あの最強の空手家が老人の拳法家に翻弄されたという有名なお話がありますが、多分に訓話的なもので、はっきり言ってフィクションだと思っておりました。

 しかし、このカッサバ師はあきらかに名人・達人の域です。

 いかに私がヘナチョコとはいえ、26歳の元気一杯の若者が本気で攻めているのに、彼は軽くいなして汗ひとつかいていません。。。完敗だ。。。私は地面に手を付きます。


「・・・ま・・・」

「まいりました・・と言ってはいけません!あなたは先生の言いつけを守らねばならない」

 ・・・・先生の言いつけ?

「あなたは、手合わせをしたら絶対に負けてはならない・・・と言われたんでしょう?」

 ・・・・・・・・・。

「まあ、大体わかりました。さあ、もう一度座ってお茶でも飲みましょう。あなたに絶対負けない方法を教えます」

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