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ある日の朝

ある日の朝のことです。


「トミーさん、トミーさん、居ますか?」


中田さんが私の部屋のドアをノックしています。


「はい、居ます。早いですね。もう出かけるんですか?」


ドアを開けると中田さんが携帯電話を手に持って立っています。


「電話です。サトミさんから電話が入りました」


サトミからの電話!?首を長くして待っていたサトミからの電話!

やっとサトミがバンコクに到着したのだろうか?

私の脳裏に「いってきます」と言って別れたときの、サトミの笑顔が浮かびました。


「な、な、中田さん、早く代わってください」


すると中田さんは、とても申し訳なさそうな顔で言いました。


「それが切れてしまったんです。どうも国際電話みたいで。取り急ぎ用件を言付かりました」


それを聞いて、私は非常に落胆しました。


「国際電話?・・・バンコクからじゃなかったんですか。それで言付かった用件とは?」


「なんでもGPO(中央郵便局)に、局留めでトミーさんへの手紙を送っているそうです。それを読んでほしいって」


・・・手紙?いったいどうしたんだろう。何か問題でも発生したのだろうか?


ああっ!まさか?・・・


サトミは私と過ごしたインドゥルワでの2週間ほどの間、ずっと私と同じ宿の食事を摂っていました。

私がこれほど深刻な栄養失調に陥ったのですから、彼女の身にも同じことが起こっていても不思議はないのです。

しかし彼女は私と違い、ダル豆のカレーを嫌うことなく食べていましたので、おそらくは大丈夫であろうと私は軽く考えていたのです。

しかし、それは考えが甘かったのかもしれません。


私は自分の身体を治すことばかり考え、彼女の身を案ずることをしなかったことを恥じました。

激しい不安に居ても立っても居られない気持ちです。


そんな私の様子を察したのか、中田さんは言いました。


「トミーさん、今日の仕事はいいですから、早くGPOに行ってください」


「ありがとうございます!」


そう言うなり私は、宿を飛び出しタクシーを拾い、GPOに向かいました。

タクシーに乗っている間、私はずっとサトミとの日々を思い出していました。


夕暮れのゴールで、出会ったばかりのサトミを見てときめいた時のこと。


コーラとビールでの晩酌、そして初めての夜。


インドゥルワのビーチで子供と遊ぶサトミの姿。


バックパックを背負って遠ざかるサトミの後ろ姿。。


タイ名はチャルンクルン通り。

イギリス人はニューロードという、味も素っ気も無い名前を付けたその大通りは、その名にふさわしく味も素っ気もありません。

アスファルトの道路の両サイドには、コンクリートの建物が立ち並ぶ、南国情緒など一切ない大通り。

その通りに面して、GPOことバンコク中央郵便局の建物があります。


郵便局のロータリーでタクシーを飛び降りると、私は急いで窓口に行きパスポートを提示して手紙を受け取ります。


私は受け取った手紙の封を、その場ですぐに切りました。


便箋は数枚に及ぶ、長い手紙でした。


・・・・


・・・なんだこれは??


その手紙に書かれていたことは、私にとってあまりにも信じがたく、衝撃的なことでした。


何度も読み返しました。


日本語の手紙なのに、もしかしたら私が意味を取り違えているのではないか?とも考えました。


もしかしたら何かの冗談のつもりかもしれない。


最後に「・・・なーんちゃって(笑)」とか書いてあるんじゃ?


しかし、何度確認してもそのようなことは書かれていません。


・・・・


私は現在、その手紙を所有していませんので、記憶を辿ってこの文章を書いています。

それでも手紙の書きだしは、はっきりと覚えています。それは・・・


『トミーさん、ごめんなさい。私は嘘をついていました』でした。

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