4話目
仲間の紹介と参加の意思を確認して昼になったので昼食と休憩をはさむことにした。自己紹介もできたおかげか、仲良く話をしながら食べることができたのだが、
「織田 瞳子さんですよね・・・?」
「あら?あなたは源の隣にいた・・・」
「はい。立花 比奈子と申します。」
比奈子と瞳子が話をしているようだ。女性同士の会話となると普段俺らとは話せないような内容もあるのかもしれないと思い、耳を傾けてみることにした。
「単刀直入にお聞きします。あなたはナオ・・・いや、直政君をどう思っていますか?」
「どう・・・とは?質問の意味するところが広すぎて答えにくいわ。」
「今現在で思っていることすべてでいいです。」
「へえ。ならば答える前に私の問いにも答えてもらいたいの。あなたは、源にとって何?」
「それは・・・・」
「おい直政。電話だそうだ。」
話の途中で正志に呼ばれてしまった。電話?いったい誰からだ?電話に出るために俺は席を立った。正志の家は金持ちのくせに電話は黒電話というよくわからないつくりになっている。電話に出るために廊下に出た俺は背後のみんながいる部屋からなぜか口論のような声が聞こえてくるのに不安を感じつつも、電話を取りに向かった。
視点変更 比奈子
直政の紹介と意思の確認でみんなだいぶ気がほぐれたみたいで、休憩を兼ねた昼食もそれぞれが会話をはさみつつ食べるというとても雰囲気の良い昼食になっていた。
だけど紹介の中で私にはどうしても気になる一言があった。
「貴方が私を呼んで、土下座までして頼むんだもの。」
直政が土下座?この女は私の好きな人を土下座させて協力に応じたのか?そう考えた瞬間に殺意を覚えてしまったが、何とか気持ちを抑えて流したのだ。ここをはっきりしないと私は彼女を信用できない。そう思った私は、彼女と、話をすることにした。
「織田 瞳子さんですよね・・・?」
「あら?あなたは源の隣にいた・・・」
「はい。立花 比奈子と申します。」
覚えていてくれたみたいでよかった。そういえ自己紹介の時私だけ自己紹介なかったような・・・?
気にしてもしょうがない。今は何よりも彼女の気持ちを知りたい。まさかだとは思うけど。
「単刀直入にお聞きします。あなたはナオ・・・いや、直政君をどう思っていますか?」
「どう・・・とは?質問の意味するところが広すぎて答えにくいわ。」
「今現在で思っていることすべてでいいです。」
「へえ。ならば答える前に私の問いにも答えてもらいたいの。あなたは、源にとって何?」
「それは・・・・」
ナオは言ってくれた。私の家で、私の母の前でこう言ってくれたのだ。お前を、比奈子を命を懸けて守ると。まだ完全なる「好きだ」という一言はもらえていないが、今はこれで十分だと思った。そして言われたことをこの女に言ってやればいいのだ。
「直政は、こう言いました。私を、命を懸けて守る。と。私の家で、私の母の前で。これが意味することはあなたでも分かるとは思うけど。」
命を懸けて守りたい対象が私とすると源にとっての私はかけがえのない存在を意味する。それは直政に土下座を強要するあなたとは全く違うということを言いたかったのだ。あとはこの女の本性を暴くのみである。もし直政を毒そうとする女であれば私が直政を守ろうとおもった。
「あなたの質問には答えたわ。さあ、瞳子にとって直政はどういう存在なの!」
いつの間にか周りは会話を止め、私たちの会話を見つめていた。一人の男についての口論など、通常の私であれば絶対にしないと思うが直政に関してはついつい熱くなってしまう。
瞳子は私を見つめてからこう言った。
「私にとっての源ね。あなたに言ってもしょうがないのだけど・・・」
どうも蚊帳の外と思われているようでイラッときてしまうが軽く流す。「命を懸けた大切な存在」以上の関係だというのだろうか。私は嫌な予感がした。
「私は源の、許嫁なの。」
私は頭に電流が走った。直政に、許嫁がいたなんて・・・。というより、一度もそんな話をしてくれたことはなかった。私はショックのあまり床に座り込んでしまう。
「その様子ですと、なにも知らなかったみたいね。まあ、無理もないわ。先祖代々、脈々と受け継がれてきたことですから」
「先祖代々ってどういうこと?」
私たちの話を聞いていた水鏡が質問する。
「私の織田家と、彼の源家は、代々このA田の地にて密約を結び互いに守りあって生きてきたの。それはそれは長い間ね。そして密約も守られて現在まで来ている。密約の内容は、それぞれの家の男子と女子を互いの家に婿、嫁として出すこと。これで分かったかしら。」
「日本の古くからの風習デスネ。とても勉強になります。」
「いや、今でも守られているのはごくわずかだと思うよ・・・。」
水鏡が、慌てて訂正する。多分だが、ヨハンナさんが変なことをまねしないようにと思ったのだろう。外国人の知識欲はたまに常識外のことに行くこともある。
私は、今まで知らされていなかった事実を認めることができず、途方に暮れてしまう。
「ナオはそんなこと、昔から一度も言わなかったわよ・・・正志は知ってた?」
「ん?あいつの家は複雑だからな・・・。多分だが、比奈子には関係ないから言わなかったんじゃないか?」
「なんで教えてくれなかったの!!」
「いや、てっきり直政経由で知っていると思ってたからだよ!でも、あいつたまに抜けてるからなあ・・・。」
「そういうこと。分かったかしら?」
瞳子が勝ち誇ったかのように言ってくる。正直言って許嫁がいたことと、彼の家の事情を話してくれなかったことにショックを受けたが、まだ正式な許嫁と確認するにはまだ早いと思った。
「じゃあ、お見合いとかはしたのよね?私はナオが私の母の前で守ることを誓ってくれたわ。あなたはそういうことはしたのかしら?」
お家の事情であっても、双方の了解あってこその許嫁だと思う。もし幼少期にお見合いがあったとしても時間がたってしまうとその意義は失われることもある。最新の、もしくは最近の双方の了解があると私も認められるというものだ。
瞳子は痛いところを突かれたような顔をしている。
「・・・幼少期に一度だけ。私の両親と、源の両親とそろってお見合いしたの。そうね。あなたの言いたいことがわかったわ。」
短い間で理解することができるあたり相当できる女性だと思ったが、今回は私の勝ちのようだ。とはいっても、ナオは後でシメよう。
「いいわ。今回だけ、100歩譲ってあなたの方が源に近いということにしておくわ。でも覚えておくことね。私は源の隣を歩いている。あなたは源の陰に隠れて守ってもらっているだけ。あなたは源の隣を歩けるだけの力を持っているのかしらね。」
要するに、命を懸けて守ってもらうというのは瞳子にとってはナオの邪魔になるだけ。ナオの隣を歩いてこそ瞳子にとって認められるべきライバルということなのだろう。
望むところだ。私は瞳子をまっすぐ見つめる。瞳子を超えてナオの隣を歩けるような女性になる。これが私の望む姿だ。
視点変更 直政
「こんにちは。直政君かな?」
電話を取ると待っていたかのように話し出したが、声に聞き覚えがない。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「今は詳しい話はできないが、そうだな、君たちの参加するサバゲ大会の準決勝の相手になる者・・・とだけ伝えておこう。」
初戦でもなく準決勝に戦うことになる相手からの電話に少しだけ不信感を覚える。そもそも初戦や2回戦を勝ち上がれるかも怪しいのにどうして相手は準決勝で俺たちと当たることになることがわかるのだろうか。俺はつい半信半疑で答えてしまう。
「ふーん。で?その準決勝に当たる相手チームがなんで俺に電話するんだ?」
「実は交渉をしようと思って電話したんだ。準決勝で、僕たちのチームを勝たせてくれないか?」
「つまり八百長しろと?」
「まあそうなるな」
何も言わず切ろうとしたが
「待て待て待て!!!切るんじゃない!電話の追跡されたくないから公衆電話でかけてるんだ!」
「へー。ソウナンデスカ。」
「電話切ったら後悔するぞ!僕の話を聞け!」
「早くしてくれません?友達待たせているんで。」
「いいだろう。手短に話してやる。」
話が通じる相手のようだ。この手の場合、大体は上からの態度を崩さず、かえって話を聞いてもらえずに切られてしまうことが多い。相手の出方によって態度を変えられる奴ほど用心すべきなのだ。この場合だと、用心するべき相手のようだ。カマをかけてみたがひっかからなかった。
「お前たちは準決勝で絶対に負ける。だから僕たちと取引をしろ。」
「断ると言ったら?」
「その時は社会的に貴様らを殺す。」
具体的すぎるなあ・・・。しかし一つの疑問が出る。どうして初戦と2回戦を俺たちが勝ち上がってくるとわかるのだろうか?
「なぜ社会的に?精神的にとかでもよくない?」
「精神は周りの人間と状況次第でどうとでもなるからな。なら汚名なり冤罪なりで社会的に抹殺したほうが日の目を見ない。いっそ病原菌持ちってのも良いな。」
「それは、勘弁してください・・・。ってかどうして俺たちに目をつけるんだ?そもそも準決勝に行けるかわからないってのに。」
「その件については大丈夫だ。もう根回しをしているから貴様らの初戦と2回戦はそれぞれ不戦勝と棄権になる。」
「ええ・・・」
「そして勝ち上がった貴様らは俺たちに華麗にやられる。もちろん敗北後も考えている。好きな学校に推薦入学だ。海外でもいいぞ。」
ふむ。確かに一考の価値はあるのかもしれない。負けてもらえば、代わりに好きな学校に行かせてやる。確かに並みの参加チームには魅力的な申し出だ。夢をあきらめてもらうわけではないしな。
「だが、口約束ではなあ。目に見える形で約束してほしいなあ。」
会話を続けながら、近くのメイドさんに正志を連れてくるように合図する。ちょうど通りかかった人が小さいころからいた古参のメイドさんでよかった。
「目に見える形・・・だと・・・?ちょ・・・ちょっと待ってくれ!」
だいぶ慌てているようだ。多分だが、ほかの根回しした高校にも同様の交渉を持ち掛けてきたのかもしれない。断ると脅し、協力を取り付けて口約束でやってきたのだろう。俺が出るまでは。
しかし、ずいぶん稚拙な手だが簡単に乗ってしまうあたり、この大会の参加者はバカしかいないのだろか。電話口の向こう側からパパー!!パーパー!!とか聞こえてしまうあたり、交渉相手も頭の弱いやつなのかもしれない。
正志が来たので向こうの返答を待つ間、今の会話を話してどうするか話し合う。向こうは公衆電話でかけているという。盗聴の心配はないが、録音されている可能性は否定できないため、筆談で話し合う。
今までの会話を照らし合わせて、まず、この電話口に出ている奴はバカなのか、それとも演技をしているのかというあたりで困惑してしまう。電話の向こう側は「ちょっと!目に見える形って何よ!」「えー金とかっすかねー。」「金!!?持ってないよ僕!!これじゃあ父さんに怒られる(涙声)」「ぼっちゃん・・・ドンマイっすね。」「あ!僕のこと見捨てたな!」「うるさい!!こんな所で騒いでいるのは誰!!」「ママアァ!!!」「たーくん!!どうしたの!!!」「ママアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアa」
「うるせーよ!!!!!!!」
そのまま受話器に叩き付けるように電話を切る。あーくそ。鼓膜破れるかと思ったぞ!クッソボケェ!!そして交渉の相手はただのマザコン(いや、ファザコン?)野郎で決定だ。執事がいるのかそいつは常識人のように聞こえたが、仕える相手を間違えたようだ。なんにせよ、非常に無駄な時間を過ごしてしまった。いや、そもそも電話をするタイミングからして最悪だ。せっかくの昼食が台無しだ。あんまり食べられてないし。腹減った。戻ろう。
後ろを振り向くと驚いた正志が。耳を押さえている俺と叩き付けられた黒電話。突然の出来事で動揺してしまったようだ。まだ耳がキーンとする。だが正志はすぐにいつもの顔に戻る。そして大体の状況を察した正志は
「大丈夫か!電話!!」
「俺を心配しろよこの野郎!!」
やっぱりこいつは変わらない。だからこそだろうか。こいつが提案した、師走に入る作戦。冗談を言っているように聞こえて、実はしっかり考えてある作戦だった。心強い仲間も増え、なにより俺自身の心を動かしてしまった。もう、誰にも止められない。俺たちは師走に必ず行く。そしてその先は・・・。
どーも久しぶりです。前回の更新からかなり間が空いてしまいました。申し訳ない。
ようやく次回から大会が始まります。1話5,000字を目標に続けていきます!!
よろしくお願いします!