プロローグと1話目
時は明治まで遡る。
政府は帝国大学令を施行し、日本と海外に合わせて11の帝国大学が作られた。各大学はそれぞれの得意な分野で優秀な人材を育成し、数多の著名人や軍人、医者や政治家を世に送り出していった。
そして現代に戻る。
11の帝国大学は名を皇立大学と改め、それぞれの分野の最先端を研究、設備を導入していく。最先端の技術と研究は世界を驚かせ、若き研究者たちや各分野の著名人は揃って編入、又は教えを請いた。それが広まり今では毎年の志願倍率は4桁を超える。
いつしか皇立大学は世界屈指の名門大学と言われるまでになった。
そんな皇立大学だが、実は高大一貫校でもある。
優秀な人材を集めた中からふるいにかけ、さらに才能ある生徒を大学に編入させるために作った12番目の高校。
名を師走学園と言う。元は政府が作った帝国大学に編入するための予備期間を過ごすための学校だったが今では才能ある人材を早期から育成し、各大学への優先入学権を与えられる学校として世界1の高等学校としてその名を轟かしていた。
この物語は師走学園に奇跡的ながら入学を果たしたある高校生の物語である。
ある冬の事だった。特に厳しい寒冷の日に俺は中学校の玄関前で空を眺めていた。受験勉強の真っ最中だったためか補修を終える頃には日はとっくに暮れ、夜空には星が輝いていた。
都会では絶対に見ることができない星空だが、田舎の中学校からすると日常ではあるのだが。
「おー。お前まだいたのかよ。」
声をかけてきた方を振り向くとこれまた図体のデカい男が玄関に立っていた。中学でも見間違えることは絶対にない、脂肪の塊みたいなくせに俺よりも頭が良い。つーかトップだったりするこの男は尼子正志という。親友だ。
「んだ。補修に時間かかってよ。いつのまにかこんな時間だでー。」
「へっ。お前馬鹿だからなあ。」
「うっせ」
いつものことだがこいつはバカ正直に俺が終わるのを待ってくれている。何度も待たなくても良いと言っているのだが必ず居るもんだからいつしか気にしなくなった。
「直政は志望校決めたん?」
「んー。R高かDNかねえ。がったまで行く頭無えし。オメーはY?」
「ほざけ。そこまでの頭じゃねーよ。」
「じゃあ、どこいくんだよ。」
R高やDNというのは高校の略語である。がったというのは高校でも進学校に当たる。Y高はその進学校の中でも最上位に位置する伝統ある高校なのだ。
進学先を決めることは将来にも影響してくる。進学校なら大学は確実だが普通の高校なら就職もあり得る。中学のうちから将来を見据えて決めるというのもなかなか酷ではあるが。
「一か八か、師走受けてみようかと思うんだよね」
「はぁ!!!?お前正気か!?」
師走というのは全国、いや世界にその名を轟かす超有名高校である。志願倍率は常に6桁から7桁を超えており、天才と呼ばれた者の中から選ばれた一握りの天才しか入学を認められない学校である。
「無理だよ絶対。頭沸いてんのか?」
「いや、行けるな。どーしてもってんならオメーも連れて行くけど。」
こいつは何を言っているんだろう。勉強のしすぎで狂ってしまったのだろうか。だがこいつは行けると思っている。そして俺も連れて行けると。奴の家は確か金持ちだったしまさか・・・。
「おい。まさかとは思うが裏口入学じゃ・・・」
「ふざけんな。そしたら俺ん家ホームレスになるわ」
おや。違ったみたいだ。ならどうやって?
「これを見つけたんだよ。」
と言って1枚のチラシを見せる。
A田県主催!全県サバイバルゲーム競技大会 募集チームのお知らせ
サバゲー かよ!?改めて正志は頭がいかれてしまったようだ。どう考えたらサバゲー が師走学園の入学とつながるのか?なんて考えているとチラシの成績と景品欄を見て正志の言わんとすることにようやく気づく。
師走学園100周年記念特別プレゼントのお知らせ
師走学園がA田県に設立されて今年で100周年を迎えました。この記念すべき年に対し政府と皇立大学理事会はA田県の長年の貢献を称え新たに設立される学科への入学権をこの大会の優勝チームに与えることにいたしました。また、惜しくも優勝を逃したチームでも光るところがあれば個人で入学権を与える場合がありますので皆さん優勝目指して頑張ってください。
「これって・・・」
「だろ?これに参加して優勝すれば俺たちは晴れて師走学園生になるわけだ。やってみるか?」
「この感じだと参加者とんでもない人数になりそうだけど・・・。」
「ああ。参加資格はこの大会が始まる1月5日に中学三年生である事。そしてA田県に住んでいる事が条件だが・・・。」
「どーしても入りたい人は今頃A田県に転入してるんだろうな。一月で人口がとんでもないことになりそうだ。」
「え・・・でも参加人数がとんでもないことになったらどー住んだ?」
毎年、志願倍率が6桁ともいわれる学園だ。こんな条件とも言えない条件で参加者を止めることはできないと思うが。
「ちゃんと考えてあるんだよ。向こうは。最初参加者は受付の時点でアンケートを行う。簡単な物だがちゃんと考えられてあるアンケートだ。これで9割くらいの人間を分けることができるらしい。」
「その9割の人ってのは?」
「アホな人ってことさ」
「なるほど」
1万人の募集でも9000人落として優秀な1000人を分けられるということだ。これならだいぶ楽になる。すごいものを考えたものだ。
「でも俺らもそのアンケート受けることになるんだよな。」
「本当はな。」
「そこで落とされたら意味ないじゃん。」
「ところがどっこい。俺のチームはこのアンケートと1次試験を免除される。」
「なんで?」
「募集要項を見たか?」
募集要項には中3であることと、A田県に住んでいることが条件とあるが・・・。
ん?その下に小さく記されていた。
参加チームの生まれが全員A田県である場合、地元特権として事前審査無しで本戦に出場できるものとする。
「これは・・・。確かにそうだな。俺は根っからのA田県生まれだし、正志も生まれはA田だもんな。」
「チームの出生地がA田であれば本戦に行けるんだ。そして勝てば、優勝すればそのまま師走に入学だ!こんなに面白そうなことはねえだろう!」
正志が興奮して言う。昔からこうだ。危険であればあるほど燃える男なのだ。そして俺もそれに感化された男でもあった。
「よし。俺も乗るぞ正志。」
「だと思ったぜ直政。これを見てからお前となら行けるって思ってたんだ!」
「で、チームの人数は何人必要なんだ?」
「最低5人。だが控えを含めて10人までの編成が認められている。」
今現在のところ俺と正志、そして正志が声をかけた男女2名で計4名。あと6人は呼べるみたいだが、もう12月の半ばを過ぎており、受験を含めてみんな他のことに構っている余裕はなかった。正志が声をかけた2名もほぼ進路が決まっており暇だったからとの事。頭は良いから何とかなるが肝心なのは機動力と体力。サバゲー はそんなに甘い競技では無い。作戦は立てられても実行に移せる人がいなければどんなに立派な作戦も成り立たないのだ。
人材集めに窮した俺と正志は正志の家で会議をすることになった。
「久々にきたがやっぱり広いなお前の部屋」
「大したことねーよ。家具を寄せればバスケの半面コートぐらいなもんだよ?」
「それで一軒家っつー家もあるんだぞ。」
「そりゃ狭い。世の中はわからないな。」
正志の感覚がわからない。金持ちってのはこんな奴なのだろうかと思ってしまう。
とりあえず適当に座って会議を始める。
「人材だがとりあえず俺からは男が2人、女が1人心あたりがあって声をかけている。」
「ほう。お前そんな友達いたのかよ。」
失礼な。これでも人並みには付き合いがある。広く浅くって奴だが不思議と変な奴ほど深い付き合いになるみたいなんだよなあ。今言った3人もどちらかと言うと変な奴。
「直政のことだから、多分変な奴だろ?」
なぜバレた。
「俺からしたら直政の方がヤベー奴だよ。俺はどちらかと言うと常識人かな?」
どこが常識人だ!金持ちのデブのくせに。
「話を戻そう。俺からはさらに2人が俺の呼びかけに応えてくれた。」
「じゃあこれで9名か・・・あと1人・・・。」
9名で出ても良いのでは無いか思うが10名までおkといわれるときっちり人数合わせて参加したくなるのは俺の性格上なのかもしれない。俺はO型だが。
「そういえば比奈子ちゃんは呼んだのかよ?」
正志が痛いところを突いてくる。比奈子ちゃんというのは俺こと源 直政の幼なじみにあたる、立花 比奈子のことだ。幼なじみということもありよく遊んだし、比奈子の家族とも親しい。小学校も一緒だったがある事件をきっかけに疎遠になってしまった。それからは連絡は取り合ってないが互いの両親は思春期特有のアレということで取り合ってはくれず、連絡先は常に最新のものを教えられているが使ったことはほとんど無い。
「比奈子かあ・・・。」
「そろそろ仲直りしろよ。また3人で遊びてーよ」
ちなみに比奈子は正志のことも知っている。小学校から正志とは知り合ったが俺たち3人はいつも一緒だった。勉強をするのも、部活をするのも(部活はドッジボール部だった)常に3人は一緒に過ごしていたんだけどなあ。
「考えてみるわ」
「頼むぜ。一応最後の1枠は比奈子ちゃんで取っているからよ」
「わかったよ」
正志の視線が痛いのでベランダに出て、意を決して比奈子に電話をかける。出ないものと思って待つつもりが1コール目ですぐに出てくれた。
「あのー一応確認なんですが比奈子さんの電話番号ですよねー?」
互いの両親が常に最新の連絡先を寄越しているとはいえ間違えている場合もあるので確認をする。後ろで正志が頭を抱えていたがこれは社交辞令なのだ。たぶん。
「・・・・どちら様です?」
数秒の間があったが応えてくれた。良かった。久しぶりに聞く比奈子の声はなんだか前より低く聞こえた。
「俺です。直政です。元気にしてました?」
久しぶりに電話をしたものだから緊張して幼なじみだというのに丁寧語になってしまう。
「・・・何か用?」
相手も同じだったようだ。口調は少ないが声が震えているように感じる。緊張しているのだ。
「久しぶりに会って話さない?ちょっと俺も話したいことがあるんだけど・・・」
落ち着いてきたのか普通に話せるようになってきた。と同時に過去の出来事を清算するためにも電話ではなく会って話した方がいいと思ったからだ。
後ろの
正志を見ると驚いた顔をしている。ふっ。見たか。これが俺様よ。
相手は迷っているようでしばらく返答がなかったがやがて回答がくる。
「・・・・じゃあ明日の午前11時。ふれあいセンターで」
「わかった。待ってる」
「ん」
電話は切れたが会う約束はしてくれた。かなり前進だ。自分なりにうまい方法で相手を引っ張り出せたようでよかった。正志に自慢するために振り向くと何故か正志は頭を抱えていた。
「ど、どうした正志」
「・・・・・お前さあ、全然連絡とってない人に電話していきなり会いたいからってどーなの?やばくね?」
「いや、本当なら電話で謝るはずなんだが、こういうのは直接会った方が良いと思ってだな。」
「あー知らねー俺知らねーぞまじ」
正志は何故頭を抱える必要があるのだろう。会うのは俺なんだぞ。明日どんな顔して会ったらいいか今から混乱している。やべ。まじで緊張する。
この時はまだ正志の頭を抱えている理由をおれはまだ覚えていなかった。
比奈子の家
「ただいまー今帰ったわよー。」
母が帰ってきたが私はそれどころでは無い。明日は待ちに待った直政との『初デート』日なのだから。
「おかーさーん!!!直政から連絡きた!!!明日の午前11時!!」
「え!じゃあようやくナオ君も覚悟を決めてくれたの!!」
「うん!長かったけど明日ようやく会えるの!服とかどうしよう!」
「そんなこともあろうかと、ちゃんと準備してるわよ。」
「ありがとう!お母さん」
最初電話が来た時はまさかと思ってちょっとぶっきらぼうに返事しちゃったけど内容は会いたいって、話がしたいって言われてようやく来たのね。『その時が』
「今日は赤飯でも炊こうかしら。」
「そんな・・・まだデートもしてないのにまだはやいよお母さん」
「あらあら」
明日は私にとって運命の日になるに違いない。だって直政は小6の最後に会った日に私に向かってこう言ったの。
「次に会った時に、俺は比奈子に告白する。」
どうも。作者です。
勢いで書いたら長くなってしまった。
構成等変なところもあるかとは思いますが暖かく見ていただけると幸いです。
ネタどっかで突っ込めないかなあ